第59話 これが最強魔道士の姿か……?

 そして試合が終わったので約束通り、またサーバーに集まって話すことになった。みんなが揃ったことを確認した彩花は、嬉しそうに結果を発表する。


「さっきの試合で決着が付きました……結果は3-0でレイ軍の勝利っ! 拍手!」


 彩花の言葉を皮切りに、向こうチームは盛り上がりを見せた。


「わぁ、やりました!」「当然だ!」「おー。やったねー?」


『8888888888』

『妥当だな』

『来夢が強すぎるんだよなぁ』

『ライムのナーフはよ』

『でもルイがゲームでボコられてるのは新鮮だったなw』

『これで終わりかな?』


 一方で俺らルイ軍は、未だに現実を受け入れられていないのか……空元気を見せることすら出来ていなかった。


「……」「……」「お疲れ様でした」


 まぁいぶっきーは通常運行だけど…………でも、このまま。本当にこのまま終わっても良いのか? 


 ……彩花は来夢さんという強力な助っ人を用意することを考え、絶対負けないという確信を持った上で、俺に罰ゲーム付きの勝負を挑んできた。そしてそれは見事その通りになって、俺は完敗した……そしてこの後、罰ゲームと称して俺とのデートを要求してくるのだろう。アイツは頭が切れるから、この提案をしてきた時からここまでの道筋が見えていた筈だ。


「……」


 いや……別に俺は彩花とデートに行きたくない訳じゃないよ? 何なら俺だってめちゃくちゃ遊びたいし、イチャイチャだってしたいから、罰ゲームを受けること自体は全然嫌じゃないんだ。(もちろん全額奢りはキツイが)


 でも……でもさ……! ここまで彩花の手のひらの上で転がされて、全部アイツの思った通りに事が進んでるなんて、何か癪じゃないか!? 俺だって……少しくらい反撃したいよ!!


「じゃあ早速、類に罰ゲームを発表するけど……」


「……待ってくれ、レイ」


「ん?」


「確かに俺らは負けたよ。超が付くほどの完敗だ」


「うん」


 完敗という言葉を聞いて、彩花は少し嬉しそうな返事をしてくるが……俺は続けて言葉を発す。


「……だけど。本当にここで終わっても良いのか? 予定よりも早く試合が終わったから、時間もかなり余っている。視聴者だってまだ不完全燃焼だと思うんだ」


『おっ』

『まさか……』

『やるのか……!?』

『負けっぱなしで終わんねぇよなぁ!』

『追加試合クルー?』


「つまり?」


「つまり……もう一回、俺らと勝負してくれ!!」


『きたあああああああああ!!』

『よっしゃああああ!!』

『まだまだ試合見たいよなぁ!?』

『ルイは3ラウンド遊ぶからな』

『遊び過ぎだろ』


 コメントは盛り上がりを見せる。予想通り、まだ視聴者は試合を見たいらしい。それで……彩花は俺の意図を察したのか「ふふっ」っと笑ってみせて。


「ああ、なるほど。泣きの一回をお望みってことだね?」


「そうだ! もう一度俺らと戦ってくれ!」


「うーん……でも類、いつも私と戦う時『泣きの一回は無しな?』って言ってくるし。そんな類が求めてくるのは、ちょっとずるいなーって思ってねー?」


「なっ……!?」


 あ、足元見やがってコイツ……!!


「い、いや……それは配信のことを考えて言ってんだよ。そうでも言わないと、お前は何回も勝負してくるからさ……」


「でも今も配信中だよ?」


「だから! 今は時間余ってるって言ってるだろ! もうっ!! うわーん!!!」


『泣いちゃった』

『赤ちゃんになっちゃった』

『これが……最強魔道士の姿か……?』

『かわいい』

『かわいい言ってる兄貴、目を覚まして』


 まぁ……ここはお約束みたいな感じで俺が駄々をこねて、彩花が渋々納得してくれる流れだと思っていたんだが……ここで会話に参加してくる人が一人。


「レイ、私からもお願いです。もう一度、私らと戦ってくれませんか?」


「え、いぶっきー!?」


 いぶっきーだ。先輩であるいぶっきーから直々にお願いされるとは思っていなかったのだろう。彩花は非常に驚いた声を上げていた……そして続けて、他のメンバーも声を上げてくれて。


「あ、あたしからも頼むぞレイ! 次は絶対に勝つから! 絶対!! マジで!!」


「んー。じゃあ、もちもお願いするよー。これで負けたら、きっとルイルイも納得すると思うから……時間は掛けないって約束するよ?」


「み、みんなぁ……!」


『む、麦らぁ……!』

『あったけぇ……』

『いい仲間を持ったな、ルイ』

『みんな優しいなぁ』

『ねぇルイ、魔道士やめなよ』


 そうやって彩花に交渉してくれたんだ。頼んできた相手が俺だけじゃなくなったから……彩花はどう返答したらいいのか悩んでいるみたいだった。


「そ、そんなに言われちゃったら……私も断るわけにはいかないな。でもチームのみんなにも聞かないといけないから……来夢ちゃんはいい?」


「いいよー。何回でも相手するよ?」


「カレンちゃんは?」


「はい、大丈夫です! まだまだいけます!」


「じゃあロビンくん……」


「ふっ、構わないぞ! また我のロビンフッドを見せてやろう!」


『だから弓使ってたのか……』

『後方で塗ってるだけに見えたけど』

『まぁキルしてるの九割くらい来夢だし』

『何気にキャラ付けしっかりしてるのロビンなんだよな』

『そこまで上手くないけどな……』


 ロビンへの総ツッコミはともかく……レイチームのみんなは、俺らとの追加試合に納得してくれたみたいだ。ありがてぇ……!

 

「……じゃあみんなから許可貰えたから、ラスト一戦だけやってあげるよ。勝った方がこの戦いの勝ちってことにもしたげるから、頑張ってね?」


「ありがとなレイ……次は負けねぇ……!!」


「ふふん、またボコボコにされても落ち込まないでよ?」


「…………お返し申す!!!!」


『草』

『うるさい』

『もう大声だけじゃ笑わんぞ』

『勢いでゴリ押すな』

『流行らせようとしてんのか?』

『もう流行ってんだよなぁ……』


 ──


 そしてまたサーバーを分けて、俺ら四人のグループで会議が行われた。


「ふぅ……何とか後一回のチャンスを掴み取れましたね。依然として追い込まれている状況には変わりありませんが」


「みんながお願いしてくれたお陰だよ、ありがとう」


「いやでも……このままだと、またスナイパーに撃ち抜かれて負けちゃうよ! 再放送になっちゃうよ!」


「何か策は無いのか、ルイ!」


「…………」


 ……策か。もう正攻法で勝てないのは目に見えてるから……ガラッと動きを変えて、一気に流れを作るしか無い。突飛かもしれないが……やるしかないんだ!!


「ああ、作戦はある……その内容は……!!」


「ご、ごくり……!」

「言葉にして言うんだそれ……」

「……」


「あえて来夢さんをガン無視して戦う作戦だ!!」


「うぇーー!?」

「なんでぇー!?」

「……なるほど。考えましたね」

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