第55話 チームルイ、爆誕

「うん! 本気! それでね……私が勝ったら一日中デートしてもらうの! もちろん、お金は全部類持ちでね!」


「え、ええ……? お前、俺が金欠だって知ってるだろ……?」


 すると彩花は白々しく、甘えた声を出してきて。


「えー? そんなの知らないよー?」


「……いや後な、俺たちの関係はみんなにバラせないって言ってるだろ? デートなんて単語を出した日にゃもう、俺らの活動生活が終わってしまう……」


「まぁーその辺は上手いこと言葉を変えるか、罰ゲームをやること自体を内緒にしてても良いし……それにさ。類だってチャンスあるじゃん?」


「えっ?」


「もし類が勝ったら、私が類の言うこと聞くんだよ。こんな機会、逃さない手は無いと思うんだけどなー?」


 そして彩花はニヤッと挑発したような表情を見せてきた。彩花のそんな顔を見てしまったら俺も……理解わからせてやりたくなってくる訳で。


「…………彩花。言うこと聞くって……どこまで良いんだ?」


「ん? どこまでって……どこまでもいいよ?」


 どっ……どこまでも……?


「あ、もちろん100億円よこせとか、絶対に無理なものは無理だけど……でも本当に私が出来ることなら、何でもやるつもりだよ?」


「なっ、何でもッ……!?」


 何でもって……もの凄いことを要求しても良いってことか……!? ……良いのか? ホントに良いのか? このままだと成年コミックの導入シチュエーションと同じ流れになっちゃうぞ……!?


「……まぁ。もちろん類はゲーム上手だからさ、私にゲーム選ばせてよね? それぐらいハンデがあってもいいでしょ?」


「まぁ……それは良いけど」


「言ったね! じゃあ最近私がやり込んでいる、あのゲームで勝負したいと思うよ!」


「あのゲームって?」


「それはね……!」


 ──


 一週間後。


「あー。えー……まずは皆様方。お忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます……進行を務めさせて頂きます、ルイ・アスティカと申します」


 とあるボイスチャットチャンネル。俺は事前の声掛けで集まってくれた、三人のライバーに向かって挨拶をしていた。そのメンバーとは……。


「ぶははっ!! なんだルイ、その喋り方はー!」


 チャンネル登録者数11.5万人。陽キャ、猪突猛進、狂った太陽でお馴染み、同期の夕凪リリィ。


「おー? ルイルイ、そんな喋り方も出来たんだねー?」


 チャンネル登録者数34.4万人。不思議系、恋バナ大好き、ゆるふわガールの中学生、市ヶ谷もち。


「……」


 チャンネル登録数67.8万人。クール&ビューティー、レイのお世話係、物静かな高校生……未だ無言を貫いてる基山伊吹さんだった。ちなみにちゃんとお話するのは、俺がVTuberになる前に電話した(7話参照)あれ以来である。


 で……俺は喋り方をイジられて恥ずかしくなったので、いつもの口調に戻して説明をしていくことにした。


「……えー。それじゃあ、早速本題に入っていくけど。君達を呼んだのは他でもなくて、きたる3日後、レイ軍とのゲーム対決が行われるからで……そしてその対決するゲームが『シュプラトーン』に決まった!」


「おー!」「ほへー」「……」


 まばらな拍手が聞こえてくるが、多分リリィともちの二人のものだろう……続けて俺は解説していく。


「ご存知の通りシュプラは4対4で行われる、インクを飛ばし合う個性的なシューティングゲームだ! それで俺らは各々残り三人のライバーを集めてチームを組んで、対決し合おうって話になって……俺はこの三人を選んだんだ!」


「……あの、ちょっといいですか?」


「あっ、は、はい! 何でしょう、伊吹さん……?」


 そこで初めて伊吹さんから声を掛けられ、俺はちょっとビビってしまう……そして伊吹さんはこんな疑問を俺に投げかけてきて。


「どうして私がこのメンバーに選ばれたんでしょうか? 私、ゲームはそんな得意じゃないですよ?」


「あっ、それだったらもちも上手くないよ?」


「あたしもだ!」


 それに賛同するように、もちとリリィの声も上がってった……確かに、俺も彼女らが特別ゲームが上手い人ではないってことは知っていた。それでも俺が、この三人に声を掛けた理由はちゃんとあって……。


「……えー。まぁ正直に言うと、君達しか思いつかなかったんだ。仲良いオーウェン組の二人と、天才スナイパーの来夢さんは先にレイに取られて。焦った俺は、他のゲーム上手い人を誘ったんだけど、日程が合わなくて……」


「……それで私達ですか?」


「うん、そう……あっ、でも別に君らのこと下手とか全然思ってないし! むしろ仲の良い、珍しいメンバーでやれるから、俺はすっごく嬉しいよ!?」


 妥協で集めたメンバーだと勘違いされないよう、そのことはしっかりとみんなに伝えておいた。自分の時間を削ってまで集まってくれているのだから、本当に三人には感謝しているし……このメンバーで集まれて、嬉しいと思っているのは本心だった。


 それを聞いた伊吹さんは、少し驚いたように反応して。


「本当ですか? てっきり私、ルイさんに嫌われてるかと思ってました」


「なっ、そんなこと無いですよ!! だって俺、マジで伊吹さんのこと尊敬してますもん! 配信とか参考にさせてもらってますから!!」


「そうなんですか? だったらもっと早く声掛けてくれたら良かったのに……」


 そう、ちょっと寂しそうに言うのだった……ああ。ホントに変にビビったりせず、もっと早く話しかけたら良かったな。クールな人なのは確かだけど、伊吹さんだってとっても優しい人なんだから……彩花が懐いてる時点で、それはとっくに分かりきってたことだったからな。


「でさ、ルイルイ……何でレイちゃんは、そんなガチパでルイルイに挑もうとしてるの? そんなに勝ちたい理由でもあるの?」


「ああ……それはね。実は勝ったほうが、相手の言うことを聞くってことになっててさ。あ、もちろんこれは俺とレイだけの話だし、このことを放送で言うかもまだ決めてなくて……」


 そこで反応を示したリリィは、途中で俺の言葉を遮ってきて。


「えっ、何でも言うこと聞くって……ヤバいじゃん!? ルイ、負けるぞ!?」


「そうなんだよ。ヤバいんだよ」


 更に伊吹さんも割り込んできて。


「ちょっと待ってください。ルイさんが負けるのは一旦置いておいて……もしもレイに勝ったら、ルイさんは何を要求するつもりなんですか? 言葉によっては私、協力しませんよ?」


 そうやって言ってきたんだ。当然、俺は口ごもってしまうのであって……。


「え、えっと……そ、それは……ですね……?」


「ふふ。どうせえっちなことでしょ?」


「だぁ!! 違うからぁ!!」


 俺は叫んで、もちの言葉を否定した……否定せざるを得なかった。でも実際『そういうこと』を想像していた自分がいたのも確かだったけど。でも……!


「…………お、俺が勝った時のことは、まだはっきり決めてないけど……でも!! あいつが嫌がるようなことは絶対にしないって約束するよ! 誓うよ!」


 そう三人に宣言したんだ。嘘くさく聞こえるかもしれないが……これも俺の本心だった。だって彩花の嫌がる顔なんて見たくないし……あいつには笑顔が一番似合うのだから…………って何を恥ずかしいことを考えてるんだ、俺は。


 ……それで。俺の言葉を聞いた伊吹さんは、ため息を吐いたものの……。


「はぁ……分かりましたよ。だったら協力します」


 そう言ってくれたんだ。


「あ、ありがとうございます! 伊吹さん……いや、いぶっきー!」


 感極まった俺は、あだ名で伊吹さんのことを呼んでみた……すると返ってきたのは、予想外の返答で。


「ふふっ……その呼び方してるのレイだけですよ。いいんですか?」


「えっ?」


 いいんですかってどういうことだろう……とか考えていると、もちがまた爆弾を投下してきて。


「まぁー、ルイルイとレイちゃんはガチだもんね?」


「なっ────!?」


「えっ? それはキャラのロールプレイってやつじゃないのか?」


「いーや。もちはあの二人はガチだと踏んでるね……そこんところどうなの、ルイルイ?」


「…………」


 お、俺は……黙ることしか出来なかった……えっ、嘘、普通にそんなバレてんの!? あれだけ俺ら必死に隠してたのに!? 彩花が言ったとは考えにくいし……やはりもちの鋭い観察眼で見抜かれてしまったのか、あるいは…………?


「そこで黙るとマジっぽいよ、ルイルイ……?」


「……はぁ。まぁ。何にせよやる以上は勝ちに行きましょう。せっかくルイさんが私達を選んでくれたんですからね?」


「へへっ! だな! じゃあ今から練習しよー!」


 ……まぁ。ひとまずバレてることは置いといて。3日後の試合に集中しよう。何せ、俺は絶対に負ける訳にはいかないのだから……!!


「……ああ! よし! 俺らチームルイでレイ達をぶっ潰そう! やるぞっ!!」



「「「おおー!!」」」


 そして俺の掛け声と共に、全員の声が返ってきた。ここでチームがひとつにまとまったような、そんな気がしたんだ…………拝啓、安藤先生。見てますか。俺……今、最高に青春っぽいことやってます!!

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