2章

第54話 まだ恋人らしいことやってないよね?

 そんなこんなで俺がVTuberになってから、二ヶ月ほど経過した。未だに慣れないことも多いけど、活動はとっても楽しくて。新たなVTuberと関わったり、記念配信や企画を立てたりもして、ファンもどんどん増えていったんだ。ありがたいね。


 それで……彩花との関係はというと。今までと変わらないと言ったら嘘になるけど……でも別にイチャイチャばかりしてるかと言われたら、そういう訳でもなくて。お互いに決めたルールは守って、配信上やつぶやいたーではいつも通りの距離感で接していたんだ。だからまだこの関係は誰にもバレてないと思うよ……多分。


 ──


 そうして迎えた12月。俺の家に遊びに来ていた彩花は、ベッドに寝っ転がりながら退屈そうに口にする。


「うーあー。類ー、暇だよー。今日コラボしよー?」


「……」


 俺は彩花に目もくれず、先日アップしたショート動画のコメント欄をスマホで確認しながら、ボソッと。


「……いや、しない。今日はお前が帰った後、雑談配信する予定なんだ」


「えー、そうなの? ……じゃあ次の日は?」


「明日はスタジオでの収録があるから無理だ」


「収録って……その次は?」


「明後日はロビンとホゲモン勝負するから駄目だ。まだパーティーが完成してないんだよ」


「その次……」


「その次はバイトだ。最近はシフト減らしてもらったけど、まだ続けてて……」


「…………」


「……彩花?」


 途中から何も喋らなくなった彩花を不審に思った俺は、視線をスマホから彼女に向けた。見ると彩花は目を瞑ったまま、プルプルと全身を震えさせてて……そして、それは突然爆発したようで。


「…………つまんなーい!!」


「……えっ?」


「最近、類が全然かまってくれなくてつまんない! つまんないよー!」


 とドタドタとベッドを叩いて、転がって……子供のように駄々をこねるのだった。俺は「はぁ……」とため息を吐きながら、こう言葉を返す。


「……でもお前あれ以来、週一ペースで俺の家来てるじゃねぇか」


「いやっ、これでも抑えてる方だよ! 学校もライバーの仕事も無かったら、私ここに住み着いてるよ! だって類と同棲したいもん!!」


「えっ、ど、同棲? いや、それはちょっと……」


「ちょっと…………なに?」


「……早すぎない?」


「…………!」


 その俺の答えが嬉しかったのか、ぱぁっと明るい表情になった彩花は、こくこくと大きく頷いて。


「……ふふっ、そっかそっか! じゃあ今は週一で我慢したげるよ!」


 と満更でもなさそうに言うのだった。はぁ、全く……コイツは機嫌が分かりやすくて助かるよ。


「…………で、何だって? 最近俺が全然構ってないって?」


「うん! そう! 類がライバーの活動頑張ってくれてるのは、私もすっごい嬉しいけど……でも!」


「でも?」


「それにしても構わなすぎだよー! いつでも呼んだら遊んでくれるのが、類の良いところだったじゃん!」


「いやそう言われても……あと呼んだらいつでも来てたのは、小学生の頃だけだ」


 だって彩花の家上がったら、確実にお菓子貰えたからな。チョコとかグミとか……そのお陰でお菓子の好物が、彩花とそっくりになってしまったんだよなぁ。


「…………それにさ。類が他の女の子とコラボしてるのを見ると……何だか……」


 ……おっ? まさか彩花も嫉妬するのか……?


「……引っ叩きたくなる」


「何でだよ」


 思ってた回答と違うんですけど。何だ、引っ叩きたくなるって。プロレスラー?


「だ、だってぇ! すっごいニヤニヤしてるんだもん! ルイ・アスティカから類の顔が読み取れるもん!! 見えてくるもん!!」


「いや、そんなアホな……」


 最近のアイトラッキングはそこまで発達してるのか……っていや。これは多分彩花が勝手に想像してるだけだよなぁ……まぁ実際ニヤニヤしてたかもしれないけど。


「……でも俺、学生時代からずっと女の子に縁が無かった訳だしさ。だから少しくらい多めに見てくれよ?」


「浮気容認しろってこと!?」


「言ってねぇよ」


 どうして彩花はすぐ曲解するんだろうか。彩花以外の女の子とほぼ喋ったことないから、未だに緊張してしまうって伝えたかっただけなのに……それで、彩花は大きなため息を吐きながら、ちょっとツンとした態度のまま。


「…………はぁー。油断すると類は、すぐ他の女の子のとこ行っちゃいそうだよ」


「いや、行かねぇって……」


「……どーだか。例えばリリィちゃんとか類のこと好きだし、言い寄られたら類も揺らぐんじゃないの?」


「……はぁ?」


 何でここでリリィの名前が出てくるんだよ……? とにかく、面倒なことになる前に否定しとかないとな……。


「いや、そんなことはないし……それにリリィが俺のこと好きって。それ多分、VTuberとしてのルイが好きってことなんじゃないのか? 絶対アイツ、俺に恋愛感情とか無いぞ? 流石にそれは俺も分かるって」


 そう言うと、彩花は考える仕草を見せたまま。


「……ああ、なるほど。そういうことかぁ……」


「納得はするんかい……」


 ……でもまぁ、俺のことを本気で好きでいてくれる奴なんて、隣りにいるコイツくらいしか思い当たらないんですけどね……。


「……ん。何見てるの、類」


「いや別に……」


 そんな俺の心の中でも読み取ったのか。彩花はまた上機嫌な様子に戻って。


「ふふっ、そっか! それでさ、類。話は変わるけど……私達さ、まだ恋人らしいことってやってないよね?」


「うん……うん? いや、やってるって。一緒に飯食ったし、一緒に寝たし…………きっ、キス……したし。だからもう大体やってるって」


「……いいや。まだやってないことが、ひとつあるよ……?」


「えっ?」


 ……えっ、それって……それってまさか……!? 彩花はそういう……オトナの男女の関係を求めてるってコトっ…………!?


「デート!」


「…………ああー。確かにやってなかったな……」


 そういや俺ら、全くそういうことをしてなかった。何ならデートって、キスとか一緒に寝るとか、付き合う前にやるものだし……そう考えると俺ら、順序がめちゃくちゃ過ぎるな……まぁ。俺ららしいといえばらしいけど。


「だからさ類、デートしよ! 今月中ね!」


「ああ……それは構わないけど……俺12月って結構予定入ってんだよなぁ。番組とか、さっき言ってた収録とか。まぁ休みが無い訳じゃないけど、今月俺大きな企画もやろうと思ってて。多分忙しくなると思うんだよね」


「企画?」


「ああ。まだちゃんと決めてないけど、再来週くらいに何人かライバー集めて。ゲームやりたいなって思っててさ。あ、もちろん俺にそんな力ないから、ほんとに少人数でやるつもりなんだけど……」


 そう、今月俺はゲームの企画をやろうと考えていたんだ。もちろん新人の俺が大型の大会とか開けるわけもないから、一日で終わるような小さな大会やって、思い出とか作りたいなって思ってて……まぁまだ何をするかも、告知も、誰を呼ぶかも決めていないんだけどね。


「……私は?」


「いやまぁ、お前も呼ぶつもりだったけど……やる?」


「やる」


 聞くと即答が返ってきた。よし、これで一人は確保できたな……。


「でもお前だけだったら、いつものコラボと変わりないから、他のライバーも呼ぶつもりだけど……いいよな?」


「うん、それはもちろん大歓迎だけど……あっ、そうだ! じゃあさ、類! 私らレイチームとルイチームに分かれて戦うのはどう? 楽しそうじゃない?」


「ああー、それは面白そうだが……他の人は乗ってくれるかなぁ?」


「乗ってくれそうな人を呼ぼう!」


「まぁ、そうなるわな」


 チームバトルは考えてなかったし、確かに面白そうな案かもしれない……なーんて思ってたら、更に彩花がこんな驚きの案を追加してきたんだ。


「……それでさ類、負けた方が勝った方の言うことをひとつ聞く……って罰ゲーム入れてみたら、更に盛り上がると思わない?」


「…………え、ええ? お前本気かよ……?」

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