第45話 不器用で……優しいんだね?
──そして反省会も終了して。ロビンとカレンさんは、俺の家を後にしようとしている所だった。玄関先で靴を履き終わった二人は、俺の方を向いて口を開く。
「フッ、邪魔したぞ! ルイボーイ!」
「今日はとっても楽しかったです! また遊びましょうね! ルイさん!」
「ああ、もちろん! 二人とも、気を付けてな!」
言いながら俺は手を振って、二人を見送る。そしてゆっくり扉を閉めて……まだリビングに居座っている彼女へと、視線を向けるのだった。
「…………で。何でお前は帰らないんだよ、彩花?」
「あー、やっと名前で呼んでくれたね、類?」
「……はぁー」
俺はため息を吐きながらリビングに戻り、座布団を枕にして床に寝転んだ……もう完全に気を抜いている状態である。
「うわ、それカレンちゃんが座ってた座布団だよ? やらしいなぁー?」
「近くにあったからだってば。たまたまだよ、たまたま……というかさっきからその言葉、何回も言ってない? 流行ってんのか?」
「いや? 類がいやらしいことばっかりするから、その度に私が『やらしー』って言ってるだけだよ?」
「あっそう……でもエロ本のくだりは、完全にロビンからのとばっちりだけどな」
「うわー。遂に伏せることもしなくなったね? やらしー」
「もう彩花しかいないし、別に良いだろ……」
カレンさんやロビンがまだここに居たのなら、多少は配慮しただろうけどな……そして彩花は自分の胸を手で隠すようにしながら、わざとらしい声を出してきて。
「きゃー、やっぱり類も狼なんだねー? こっち近づかないでー?」
「……もう一度聞くけど、何で彩花は帰らないんだ?」
俺が無視してそう聞くと、彩花はその手をパッと離して。
「ああ、それはねー。部屋の片付けを手伝ってあげようかなって思って!」
「片付け?」
聞いた俺は起き上がって、周りを見回して見る。そこには……お菓子の空き袋、飲み物が入ったままの四つのグラス、本日の主役たすき、そして……黄金に輝く風船が、まだそこには転がっていたんだ。
「ロビンのヤツ、これ持って帰ってなかったのかよ……」
「ふふっ! これがロビンくんからのお土産かもよ?」
「いらんわぁ!」
そのまま風船を蹴り上げるが、風船は俺をあざ笑うかのように、プカァーと浮かぶだけであった。
「はぁ……まぁ確かに汚れてるし。手伝ってくれるのならありがたいけど。でも彩花だけ俺の家に残るって、何か二人に変な勘違いされないか? 大丈夫か?」
「ん? 勘違いって?」
「いや、分かるだろ……その。そういう関係だよ?」
何となく恥ずかしくなってしまって、俺は言葉を濁してしまう……そんな俺が面白かったのか、彩花は小悪魔的に笑ってみせて。
「あははっ! 大丈夫だよ! 二人にはちゃんと片付けを手伝うって言ってるから!」
「なら良いけどさ……そういう噂ってすぐに広まるからな。特にVTuberでそんなことがあったら、俺達やっていけなくなるかもしれないだろ?」
「えー? でも、男女同士のてぇてぇだってあるし。誰々と誰々はガチ、みたいに視聴者がイジってくるノリもあるんだよ?」
「そうなの? じゃあお前……ルイとレイはガチだぞ、みたいなことを視聴者や他のVTuberから言われても平気だって言うのかよ?」
……そしたらその威勢もここまでか、彩花は焦ったような声を出してみせて。
「えっ? えっと……それは、その……」
「ほら。出来ないのなら、あんまり俺をからかうんじゃねぇって……」
「…………いいよ?」
「えっ?」
予想外の言葉に俺は目を見開く……それで彩花は恥ずかしそうに髪で顔を隠しながらも、喋るのを続けて。
「私は類とお似合いとか、ガチとか言われても全然大丈夫だよ。むしろ……そんなこと言われたら、ちょっと嬉しい、かも…………えへへ」
…………何だよ。ホントに何なんだよ、コイツはァ…………何で俺まで照れなきゃいけねぇんだよ。あー、クソっ。調子狂うなぁ……。
「…………はぁー。あー……何て言えばいいか……とりあえず。片付け終わったら、とっとと帰れよ? ……その辺まで送ってやるからさ」
「ふふっ! 類って本当に不器用で……優しいんだね?」
「いちいちうるせぇって、お前は……ほら、片付けやるぞ。お前はグラスを流しに運んでくれ。俺はゴミ類をまとめておくから」
「うん、分かった! よいしょっと……」
そして俺の指示を聞いた彩花は、テーブルに置いてある四つのグラスを腕に抱えて、一気に運ぼうとした……のだが。
「……って、うわわぁああっ!!?」
運ぶ途中で、彩花はコードか何かに足を引っ掛けてしまったのか、絶叫に近い声を出しながら倒れてしまったんだ。当然、抱えていたグラスは全部宙に投げ出されて……それらは全て、音を鳴らして割れてしまった。
「えっ!? 大丈夫か!? 彩花!?」
急いで彩花の元に駆け寄ると、彼女は今にも泣き出しそうな表情をしていて。
「…………あ、ご、ごめん……類のグラス、わ、割っちゃった……!」
「馬鹿、そんなのどうでもいい! 怪我はしてないのか!?」
「う、うん……大丈夫……」
それを聞いて、ひとまず俺は胸を撫で下ろした……でも彩花はヘマをしてしまったからか、珍しく落ち込んでいるみたいだった。
「なら良かった……立てるか? あ、足元マジで気をつけろよ?」
「うん……」
そんな彩花に俺は手を差し伸べて、身体を起こしてやる。そして注意しながら、その場を離れて……俺は破片が飛んだ現場から、彩花に視線を移したんだ。
「この破片は俺が……ってうわ、彩花。お前服もビショビショじゃないか」
「……」
そこで彩花の身体が濡れていることに気がついたんだ。グラスの中には、まだ飲み物の残りや氷も入ったままだったから、それらをモロに浴びてしまったのだろう。流石にこの状態のまま、家に帰すわけにもいかないし……そう思った俺は、彩花にこんな提案をしたんだ。
「あー……じゃあ風呂場貸すから、シャワー浴びてきたらどうだ? ベタついてるだろうし……ここは俺が片付けとくからさ」
「…………」
「彩花?」
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