第44話 今日はおつルイ記念日

 ……そしてゲーム実況も終わって。そろそろ配信も終わる流れになってきたんだ。


「よーし。じゃあそろそろ締めに入りますか」


『えー』

『もう終わりか?』

『楽しい時間は過ぎるのが早いなぁ』

『まって』

『逃げるんすか?』

『二回戦やらないの?』


「ああー。確かに二回戦やりたいねー?」


 彩花はコメント拾って、そんなことを言うが……現在の時刻は午後8時半を過ぎていた。今から二回戦をやるとなると、大変な時間になってしまうよ。そのことを伝えようと、彼女に声を掛けようとしたが……先にロビン達が口を開いて。


「ふむ、やりたいのは山々だが……外はもう暗くなっているし。ルイボーイの言う通り、この辺りで切り上げるべきではないだろうか?」


「そうですね! ちょっと寂しいけど、それが良いと思います! ……でもレイさん、またすぐに四人で集まって、ゲームとかやりましょうね!」


 そうやって言ってくれた。聞いた彩花は特にゴネることもなく、笑顔で納得してくれて。


「うん、そうだね! 分かった! じゃあ今日はこれで終わろっか!」


 そう言ったんだ……それで、全員の視線は俺に向けられる。改めて俺は、締めの言葉を発したのだった。


「はい、ということで今日のオーウェン組コラボはこれにて終了でーす。見てくれたみんな、お疲れさまだよ」


『乙』

『おつー』

『楽しかったぞ!』

『おつルイ』

『おつルイって言え』

『おつルイって言ってください!!!』

『おつルイって言って♡』


 ……まーた知らない内にテンプレみたいなのが出来てんな? でもそんなこと言われたら、俺の中の天邪鬼が発動して、言いたくなくなっちゃうんだよなぁ……そう思いながら三人の方を見ると、何だかニヤニヤしていて。その意味も、俺はすぐに理解するのだった。


「ふふっ! おつルイ!」「おつルイです!」「フッ、おつルイだ!」


『きたああああああああああ!!!』

『うおおおおおおおおおおおお』

『ありがとうございます!!!』

『助かる』

『後はルイだけだよ?』


「いや、何でお前らが言うんだよ……?」


「だって、類が言わないからー。みんなが可哀想だと思ってね?」


 可哀想って……はぁ。このまま終わったら俺が悪者になるよなぁ……ああ、クソぉ……そんなに望んでるなら言ってやるよ、チクショォ……。


「…………お、おつルイ……」


『きゃああああああああ!!!』

『きtらあああああああああ!!!』

『かわいい!!!!!!』

『ありがとうございますありがとうございます』

『これで生きていける』

『「おつルイ」とルイが言ってくれたから、今日はおつルイ記念日』


「…………」


 これ以上流れてくるコメントを見たくなかった俺は、無言で配信を終了させるのだった。


 ──


「お疲れ様です! 皆さん!」


「お疲れー! 今日はとっても楽しかったよ!」


「ああ、我もだ!」


 放送終了後、三人は余ったお菓子を食べながら反省会のようなものをしていた。それで皆一様にスマホを持っているが……何だ? 写真でも撮っているのか? 


 気になった俺は、ヒョイッと彩花のスマホを覗いてみた。そこにはつぶやいたーの青と白の背景が見えたんだ。ああ、もしかして配信後の呟きをしてるのか……。


「……あ。類スマホ覗いたでしょ。やらしいんだー?」


「いや、ちょっと気になったから……まぁ勝手に覗いたのは謝るけどさ。というかみんな真面目だね。放送終わったから呟いてるの?」


「そだよー? そういや類って全然呟かないよね? もったいないなぁ」


「もったいない? ……まぁ。定期的に呟いた方が良いのは分かってるけど、何を書けばいいか分かんないんだよね。無駄にいいねとか付くの怖いし」


 VTuberになる前にSNSに触れていなかった訳ではないのだが……その頃は俺の呟きに反応してくれるのは、せいぜいスパムアカウントくらいだった。それが今じゃ、何千人のファンが反応してくれるからなぁ……下手なこと書けないんだよ。


 そんな俺の心の中を読み取ったのか、彩花は励ますように。


「いや、思ったこと書けば良いんだよ! 面白かったーとか、ご飯美味しかったーとか!」


「そんなんでいいの?」


「良いんだよ! 好きな人のことは何でも知りたいじゃん?」


 そういうもんなのか……まぁ俺のことをフォローしてるってことは、好きとまではいかないにせよ、何かしら情報を求めてるってことだもんな。だったら……呟きの回数でも増やしてみようかな。


「じゃあ俺も何か呟いとくかな。えっと……『今日は楽しかったです。また機会があればこのメンバーでコラボしたいな』……とかはどうだ?」


「もー! そんなんじゃ硬いよ! もっと絵文字とか使わなきゃ!」


「絵文字とかあんまり使いたくないんだけどなぁ……どれだ? 両手を上げてオワタみたいにしてるヤツか?」


「うわ、ふっっっっる! そんなの使ってる人なんかもういないよ!」


「そうなの?」


 俺の中ではまだまだ現役なんだが……じゃあもう『ショボーン』とかも時代遅れなのか? あれは好きだったんだけど。


「そうだよ! ほら貸して! 私がお手本見せてあげる!」


「あっ」


 そして俺のスマホは奪い取られ、彩花は何か文章を入力していくのだった。数十秒後、彩花はスマホの画面を見せてきて……。


「書けたよ! 『配信見てくれてありがとう♡ 今日は最高だった!✨ やっぱりこのメンバーサイキョー過ぎ❣️ ずっと大好きだよ💕』で、どうかな?」


「やり過ぎだ!!! それ、絶対投稿すんなよ!!??」


「え? したけど……ダメだった?」


「アホぉ!!!!」


 咄嗟にスマホを奪い返すが、時すでに遅しで。その呟きには『乗っ取られてますよw』みたいなリプが、既に大量に届いていた。


「さ、最悪だ……ここで消したら更にガチっぽくなるから、消すに消せねぇし……どうにか弁解しないと……!!」


「おーおー凄い勢いでコメント付いてるよ! バズって良かったね、類!」


「良くないわ!! バカァ!!」


「ふふっ! 私もリツイートしてあげたよっ!」 


「ドアホぉッ!!!!」


 ……それら一連のやり取りを見ていた二人は、大きく手を叩いて笑って見せて。


「アハハッ! ルイボーイとレイ嬢は本当に仲が良いのだな!」


「これで……良さそうに見えるのか?」


「はい! 見えます! もうカップル超えて、夫婦みたいですよ!」


 おいおい……もし放送付いてたら絶対炎上してるよ、その発言は……まぁ付いてないから良いんだけどさ。


「……だってよ、レイさん?」


 ちょっぴり怒ってる俺は、からかい気味にそうやって言ってみたんだ。そしたら彩花は特別怒るわけでも、恥ずかしがる訳でもなく……ニヤリと口角を上げて。


「……んふふー。そっかー?」


 俺を試すように、微笑んで見せたんだ…………なっ、何で満更でもなさそうなんだよ、お前は……?

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