第41話 類、やらしいんだー?

 ──


『こんラーメン』

『おっ、オフコラボとは珍しい』

『そういやルイもオーウェン組だったな』

『ラーメン組……?(小声)』

『草』

『卓上調味料生える』

『生えてたまるかwww』


 いつもの(しょーもない)コメントが流れているのを確認した俺は、カレンさんが持ってきてくれたマイクに近づき、声を発した。


「……あーあー。俺の声は届いてるでしょうか、リスナーの皆さん」


『届いてません!!』

『届いてないよ!』

『マイク変えた? 聞こえてないけど』

『ホントだ、若干音質違う気がする……聞こえんけど』


 マイクソムリエも見てますと……何でお前まで頑なに嘘付くんだよ。


「……よし、聞こえてるみたいだな。……あと一応言っとくけど。今日はコラボだから、ルイ民はなるべく大人しくしててくれよ? カレンさんやロビンの視聴者が俺らのコメントのノリを見て、驚くかもしれないからな」


『ごめん』

『ご麺』

『すんま麺』

『ゆる製麺』

『ぶっちゃけロビンの方がイジられてるけどな?』

『視聴者に翻弄されるロビン切り抜き→https://○○○○○』


「ああ、動画あるんだ……じゃなくて! 今日はコラボだって言ってるだろ! いつものソロ配信みたいに、あんまりコメント相手に出来ないんだってば! 今もレイ達に笑われてるんだからな!!」


 俺がコメントと会話してる最中、周囲からは笑い声が聞こえていた。ウケててちょっとだけ嬉しい気持ちもあったが……恥ずかしさの方が圧倒的に勝っていた。


『草』

『やっぱりレイちゃんの笑い声だったか』

『俺らを相手してくれるなんて、ルイは優しいな』

『このままルイが一人で喋って終わったら面白いかも』


「面白くないってば……はい。じゃあもう埒が明かないので、自己紹介にいきたいと思いますよ。順番は……時計回りでいいかな」


 そう言って俺は、隣に座っている彩花に視線を合わせる……それを察した彩花は元気な声で、いつもの自己紹介をしていくのだった。


「はーい! スカイサンライバー所属、闇属性魔術師のレイ・アズリルだよっ! 今日はオフコラボってことで、みんなと会えて嬉しいなー!」


『こんレイ!』

『こんれいー』

『レイが楽しそうでよかった!』


 そして次はカレンさんの自己紹介が。


「皆さんのハートを癒やします! ヒーラーのカレン・ストーリーです! ……何だかこうやって見られてると、恥ずかしいですね……?」


『かわいい』

『かわいい』

『今日もカレンはかわいいなぁ!』


 で、ロビン。


『ハハハ! 我はロビンッ……フレイルだ! 今日は諸事情により、声量をなっちゃんの果汁並みに下げている! 聞き取りにくかったら済まない!」


『出たな』

『ちゃんと聞こえてるって』

『何%だよ』

『オレンジとアップルで果汁が違うんだよなぁ……』


 そんで最後は俺。


「……はーい。そして俺がルイ・アスティカです。今日はオーウェン組オフコラボってことで、とある場所に集まっております……まぁ俺の家なんですけど」


『草』

『ルイの家!?』

『ラーメンハウスってか』


「だからまぁ、そんな凝ったことは出来ないけど。ゆるゆるっと雑談でもしていこうかなって思ってるよ。俺はオーウェン組の新人で、知らないことだらけだから……足を引っ張らないように頑張りたいと思うよ」


 もちろん視聴者の中には俺がオーウェン組に加入して、あまりいい思いをしていない人だっているだろうから。その人達から認められるように……って訳でも無いけど。少しでも考えが変わったら良いなって思ってるよ……。


「わっ」


 突如、隣から肩を叩かれた。振り返ると……ロビンは白い歯をキラリと見せながら、陽気に笑って見せて。


「ハハハッ! そんなことは気にしないで良いんだぞ、ルイボーイ。我々はもう立派な仲間ではないか!」


「……ろっ、ロビンっ……!! お前ぇ……!!」


 ……そうだ、ロビンだって本当はめちゃくちゃいいヤツなんだ──


「…………フッ。という訳でベッドの下でも捜索しようか。思わぬお宝が見つかるかもしれないからな?」


「おい」


『草』

『草』

『あーあ』

『感動が台無しだよ』

『感動ブレイカー』


 そしてロビンはマジで頭を床に付けて、ベッド下を捜索していった。もちろん掃除したので、そこには何も無いんだけど…………で。その様子を見た彩花は、ジト目で俺の方を向いてきて。


「えー。類、そんなの持ってるのー? やらしいんだー?」


「その話題は広げなくていいっつーの……あと俺はそういうのは全部、電子書籍で買ってるからな?」


『ん?』

『あっ』

『あ』

『草』

『おい高校生』


「……今のナシな?」


 若干……いや、だいぶ墓穴を堀った感は否めないが。別に成人コミックとは名言していないからセーフだろう。うん。セーフセーフ。


 ……そしてちょっと困った様な表情をしながらも、カレンさんは俺に助け舟を出してくれたんだ。


「えっと……じゃあもう少し詳しく、お互いに自己紹介してみませんか? 私はルイさんとは初対面ですし、知らないことも多いかもしれませんし……それに、視聴者の方もオーウェン組のこと、もっと詳しくなれるかもしれませんから!」


「良い案だな、カレン嬢。今度それ曲にする」


「お前、適当なことばっか言ってんな……?」


「ふふっ、でもいいと思う! 類もカレンちゃんやロビンくんのこと、まだあんまり知らないでしょ?」


「まぁ……恥ずかしながらね」


 コラボが決まってから、多少は二人について調べたけれど……掃除やバイトがあったため、そこまで時間を割くことが出来なかったのだ。


「しかしカレン嬢、一体何から話せばいいだろうか?」


「うーんと……好きな食べ物?」


「その辺はウィキにも載っているだろうし……もう少し踏み込んだものはどうだろうか?」


 そこで彩花がひとつの提案をしてきて。


「じゃあ……VTuberになったきっかけとかはどうかな? 私もみんなのこと気になるし!」


「おお、いいんじゃない?」


「はい! 良い案だと思います!」


 ロビンも頷いたことを確認した俺らは、じゃんけんで負けた人から言うことになったんだ。その結果は……ロビンの一人負けだった。


「ふむ……我からか」


『一発で決まった?』

『ロビンってじゃんけん弱いよなw』

『キャラ通りって感じはする』


 そしてロビンは珍しくまともな口調になって……語り始めたんだ。


「あまりこのことは言ったことは無いのだが……我はな、とあるVTuberに会ってみたくてな。その一心でここまで来たのだよ」


「へぇー! それは凄いね! それでロビンくん、その人に会えたの?」


 彩花の問いかけに、ロビンはこくりと頷いて。


「会えたさ。ただ……その方はもう引退してしまってな。『VTuberとして会う』ということは、もう叶わなくなってしまったのだよ」

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