第40話 遊びに来たよ! 類!
──
それから通話を終えた俺は、部屋の片付けを始めた。一度掃除を始めてみると、細かい部分も気になってしまうもので……一日じゃ終わらないと直感した俺は、細かい計画を立てて。リビングや玄関など一箇所ずつ掃除していったんだ。
そんな掃除生活が何日か続いていって……そして迎えたコラボ当日──
「……何で俺はソワソワしてるんだ?」
現在午後5時半。俺は椅子に座ったまま、彼らが家に来るのを待っていた。彩花達は、どこかで待ち合わせをしてから俺の家に来るらしいので、時間は掛かるとは思うが……6時には配信を開始する予定になってるので、そろそろ来ていい頃とは思うんだけど。まだだろうか……?
『ピロンピロン』
「……!」
突如、エントランスからの呼び出し音が聞こえてきた。来たのか? 俺は急いで立ち上がって、インターホンの画面を見てみる……そこには。
「……」
カチューシャを付けた小柄な少女、ダボダボパーカーのニヤついた少年。そして二人の後ろで、腕を組んで立っている彩花の姿が見えたんだ。確かめる必要も無いだろうが……こいつらが、オーウェン組のメンツで間違いないだろう。
俺は通話のボタンを押し、ソワソワしていることを悟られないようにして、彼らに声を掛けてみた。
「……はーい」
そしたら手前にいた少女は、目をパチパチっとさせて。
『あっ! ○mazonでーす!』
「……カレンさんですよね?」
『はぅっ! 何でバレたんでしょうか!?』
「ドッキリするなら別の人でやるべきですよ……」
声が特徴的過ぎるし。何より、エントランスにはカメラ付いてるからね……とりあえず俺は、恥ずかしそうにしているカレンさんを眺めながら、解錠ボタンを押した。
……そしてその後、すぐに玄関の方のインターホンが鳴ったので。俺は玄関まで歩き、鍵を開けて扉を開いた……そこには、モニターに映っていた三人が立っていて。
「ふっふっふー! 遊びに来たよ! 類!」
と。何とも楽しそうな表情をしながら、彩花は言うのだった。
「……うん。とりあえず上がってくれ」
「おじゃましまーす!」「邪魔する!」「お邪魔しますね!」
そして俺はオーウェン組の三人を案内して、リビングに敷いていた座布団に座らせた。ちなみにこれは、昨日買ったばかりのやつである……それにいち早く気づいたのか、彩花はその座布団を指差して。
「あ、類。わざわざこれ買ったでしょー?」
「何で分かるんだよ……?」
「だって、一人暮らしの類には必要ないもんね?」
「……」
クスクスっと笑いながら彩花は言うが……俺が誰かと一緒に暮らしているとか、友達を呼ぶことがあるとかは考えないんだろうか……? まぁ……実際彩花の言う通りずっと一人だから、何も言い返せないのが歯がゆいんだが。
そしてカレンさんは座ったまま、俺の部屋をキョロキョロ眺めていって。
「わぁっ……私、男の人の家に上がったの初めてです!」
「いや、恥ずかしいから、そんなにジロジロ見ないでね……?」
自分で言ってて何だけど、なんかいやらしいな……この台詞。同様にロビンも、俺の部屋を物珍しそうに眺めながら。
「ふむ、我も人の家に上がるのは久しいことだ……何せ、小学生の頃はほぼ全ての家を出禁にされてたからな」
「何したんだお前……」
「フフ……聞きたいか? ……小学生の頃、遊びに行った友達の家で、人数分出されたドーナツを一人で全て平らげてしまったのだ。そのことが他の同級生にもバレて『ロビンが来るとお菓子が食い尽くされる』と噂が広まってしまったのだッ……!」
「そりゃ出禁モンだ」
そのロビンのエピソードトークを聞いた二人は、腹を抱えて笑って。
「あははっ! そのエピソード面白いね! 放送で言えば良かったのに!」
「じゃあもう配信付けとくか? ちょっと時間早いけど」
「あ、でも……どんな配信するか決めてないのに、付けても大丈夫なんでしょうか?」
カレンさんはちょっと心配そうに言う。彩花をリスペクトしているカレンさんだし、事前に綿密な打ち合わせをしたいのだろう。別にそれでも構わないのだが……ロビンは「フゥン」と一言吐いて。
「まぁ今回はルイボーイの歓迎会みたいなコラボだから、多少グダグダでも許されるんじゃないだろうか? それに今日はルイボーイのチャンネルで行うから……判断は彼に任せるのはどうだろう?」
「うん、そうだね! 類に任せよう!」
「はい! そういうことなら分かりました!」
そして全員納得したようで、判断は俺に委ねられた……確かにロビンの言う通り、俺らの顔合わせパーティみたいなものだから、そんな練った打ち合わせも必要ないだろう。でもまぁ、話しておくことがあるとすれば……。
「分かった。えっと、じゃあ今回は緩い感じで、トーク中心の配信でいこうか。途中で視聴者からの質問とか拾って、簡易的な質問コーナーもしてもいいし……やることなくなったらゲームとかもあるし。そんな感じでどうかな?」
「ふふっ! うん! 良いと思うよ!」
彩花を先頭に、残りの二人も頷いてくれた。
「よし、じゃあ配信の準備をしようか……あ、VTuberのモデルって俺しか動かせなくね?」
「なら静止画でも良いから、私達の立ち絵を表示させておくべきだね!」
「ああ、分かった」
俺はノーパソ片手に、配信画面の準備をしていく……。
「ルイさん、マイクも用意しておいた方がいいと思います!」
「ああ、確かにそうだね。でも俺のスタンドマイクじゃ、全員の声は拾いにくいかもしれないな……?」
「あっ、私、念のためにマイク持ってきましたよ! 皆さんの声が聞こえるやつ!」
「わーお、流石だぁ」
カレンさんはバッグから全指向性マイクを取り出し、皆が囲んでいる机の中心にそれを置いてくれた。いやぁ、エリート配信者が揃ってると本当に助かるなぁ……。
「ルイボーイ。我も手伝おうか」
「ああ、じゃあ頼むよ…………って何してんだお前!?」
ロビンの方に目をやると、彼は金色の風船を膨らませていた。その空気入れの上下運動を続けたまま、ロビンは淡々と。
「見れば分かるだろう。飾り付けだ」
「何でそんなもん持って来てんだ……?」
「100円ショップに寄ったからな。パーティ帽子と……ほら『本日の主役』のたすきも買ってきたぞ」
空気入れの手を止めたロビンは嬉しそうに、持っていた袋からパーティーグッズを取り出してきて。そしてそのまま『本日の主役』たすきを俺に掛けてきた。
「これ、配信に映らないんだけどな……まぁ、ありがとな」
「ふふ、礼には及ばん。我も楽しみだからな」
「……よし、じゃあそろそろやるか」
「はい!」「おー!」
そして配信準備が整ったことを確認した俺は、皆に視線を合わせ……ライブ配信を開始のボタンをクリックしたのだった。
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