第38話 オーウェン組って?

 それから放送が終わった後、俺らは少し雑談して……帰る前に二人と連絡先を交換した。先生は「いつでも連絡してくれて大丈夫ですよ」と。もちは「あまりに連絡無かったら、メモ帳として使うよー?」と、ちょっとからかい気味に言ってきた。


 俺は笑いながら二人にお礼を言って、そのままスタッフさんにも挨拶して。現場を後にしたんだ……帰り道、メッセージアプリの『友だち』の数が、2つ増えているのをニヤニヤしながら何度も見ていた俺は、きっと変人に見えただろう。


 ──


 そして次の日、俺は電話の着信音で目を覚ました。音を頼りにスマホを手繰り寄せ、繋がっていた充電器を抜き取り、応答する。


「……もしもし?」


 そしたら予想通り、聞き慣れた幼馴染の声がして。


『もしもし、類? もしかして寝てた?』


 目を擦りながら時計を見ると、時刻は午前9時過ぎを刺していた。普段なら焦る時間かもしれないが……今日のバイトは午後からである。


「完全に寝てた」


『あははっ! ごめんごめん、でもどうしても昨日の感想を伝えたくて!』


 笑いながら彩花は言う。昨日のって……ああ、安藤先生の理科準備室のことか。


「見ててくれたのか。嬉しいけど、別に俺が出てるからって、無理して見なくても良いんだぞ? 彩花だって忙しいだろうし……」


『いやいや! 私、ずーっと楽しみにしてたんだよ? 類が番組に出るの!』


「そうなのか? ……じゃあどうだった?」


 俺は感想を聞いてみる。そしたら動きが想像出来るほど、彩花は声に抑揚をつけてきて。


『すっっっごい良かったよ! 本っ当に神回だった! つぶやいたーでも反響あったし、類が先生やもちちゃんと仲良くなれたみたいで、本当に良かったよ!』


「……そうか」


 思わず俺は身体を起こしていた。ああ、そうだよ……今の俺があるのは、100パー彩花のお陰なんだ。そのことをすっかり忘れていたよ。


「…………ありがとな、彩花」


『え、どうしたの急に?』


「いや、彩花のお陰でさ。今までだったら絶対に経験出来ないことを、色々と味わえてるからさ。だからその……感謝してるんだ」


 言ってて恥ずかしくなって、眠気も一気に覚めてしまう。そんな俺に気づいてるのかは分からないが、彩花はまた「ふふっ」っと笑って。


『良いんだよ! 私は類がVTuberになってくれただけで嬉しいんだから! だから……これからも楽しいことしていこうよ、類!』


「ああ……だな!」


『…………で。そんな類に提案があるんですけどー』


 ……ん? 流れ変わったな……?


「えっ、もしかして……」


『ふふっ、うん! 類、コラボしよ? 今度はちゃんとオフコラボで!』


「やっぱりか……いや、別に俺は構わないんだけどさ。コラボは最近やったじゃないか。しかも二人だけでオフコラボは、色々とマズイんじゃないのか……?」


 こんなこと言うと、初回は彩花の家でやったじゃないかーとか色々とツッコまれそうだが、あれは例外なんだよ。配信する気なんて更々無かったし、そもそもVTuberやってるなんて知らなかったし……そんな考えてる俺なんか気にも留めず、彩花は明るい声のまま。


『大丈夫だよー。それに私も、無策でコラボを持ちかけてる訳じゃないんだよ?』


「じゃあ、どんな配信するつもりなんだ?」


『今回はねー。オーウェン組のみんなでコラボ配信やりたいなーって思って!』


「オーウェン組?」


 何かどっかで聞いたことある言葉だが……いつ聞いたっけ?


『類、忘れたの? 類と私は「魔法学校オーウェン」に通ってるって設定で、他にも同じ学校に通う魔術師のライバーがスカサンにはいるんだよ! その子ら全部合わせて、オーウェン組ってグループにまとめられてるんだ!』


「……ああー。ちょっと思い出してきた」

 

 社長の塩沢さんがそんなこと言ってた気がする。確か彩花と関わり持たせるために、俺もその魔術師の一員に加えてくれたんだっけ……。


「そもそも、そのオーウェン組って何人いるんだ?」


『えっと……私と類と、あとカレンちゃんとロビンくんだから、四人だね!』


「まーた新しい名前が出てきたな……?」


 スカサンに加入して一ヶ月ほど時間は経ったが、流石にまだ全員の顔と名前は把握していないんだ。覚えるべきなんだろうが、あいにく俺は記憶力が無くてな……それに一ヶ月前までは、VTuberとアニメキャラの区別すら付いてなかったからな……これは言い訳か?


『流石にこの二人は覚えておくべきだよ、類! 今後絶対に、このメンバーで活動することがあるからさ!』


 彩花は強く言い切った。今後のことを見越して、早いところオーウェン組で顔を合わせておくべきってのが、彩花の考えなんだろうか。だったらこの誘いも断る訳にもいかないよなぁ……。


「ああ、分かった……とりあえず二人について調べてみるよ」


『うん!』


 そして俺は通話を繋いだまま、スマホでスカサンの公式サイトを開いた。そのままスクロールしていって、オーウェン組のライバーを探していく。


「えっと、カレン……あ、いた。このカレン・ストーリーって子か?」


 俺は学士帽を被った、りんごほっぺでショートヘアの銀髪少女を見つけた。その子の下には『カレン・ストーリー』と名前が書かれていた。


『そう! カレンちゃんはちっちゃくて、ホントにカワイイ子なんだよ!』


「へぇー」


 ロリっ子ってやつか。まぁ一定の需要はあるんだろうなぁ……と思いつつタップして、そのプロフィールを読み上げてみる。


「『誰にでも優しい、しっかり者の天才少女。飛び級で魔法学校オーウェンに入学した』……なるほど。神童ってやつか」


『ふふ、こうして見るとちょっと類と設定被ってるね?』


「俺はロリでもないし、優しくもしっかり者でもないぞ」


『ふふっ! それを判断するのは類じゃないんだよ?』


「ええ? どういう意味だよ……?」


 困惑しながらも俺は画面をライバー一覧の画面に戻り、もう一人のオーウェン組を探していった。えーっと、ロビンロビン……。


「あ、見つけた」


 そこには紫髪で耳にピアスを付けた、気だるげな表情をした少年の姿があった。下に書かれている名前は……。


「ロビン・フレイルか……クール系の強キャラっぽいな」


『ああ、ロビンくんはムードメーカーで、お調子者みたいな人だよ?』


「えっ。この見た目でか……?」


『うん!』


 ……ああ、そうなのか。お調子者なのか……いや、別に良いんだけどね? 初回でキャラ崩壊させた俺が、彼に言えることなんて一つも無いんだけどね?


『類が加入する前はこの三人で、歌ってみたのコラボとかしてたんだよ!』


「そうなのか。それでこの中に新入りとして、俺が入って……嫌われない?」


『大丈夫だってば! 二人ともとっても優しいし、視聴者のみんなも類のこと大好きだから! ねっ、安心して?』


 彩花は俺に心配させまいと、優しい言葉を投げかけてくる。その彩花の言葉に「そうだな」とは、とてもおこがましくて言えないけど。


「……まぁ。みんなが許してくれるなら。俺もオーウェン組の一員として、頑張りたいとは思ってるけど……いいのかな?」


『ふふっ、うんっ! もちろんだよ! ……それでね、類がそう言うと思って、先にカレンちゃんとロビンくんのコラボの承諾は貰ってたんだー!』


「流石彩花、行動が早いな……それでいつコラボするんだ?」


 感心と呆れが混ざった感情のまま、俺は彼女に日程を尋ねた。そしたら……若干、彩花は言いにくそうに。


『えっと、日付は11月の頭らへんにしようってなったんだけど……場所がまだ決まってなくてね。だからもし……もしだよ? 万が一、類が良かったらだけど…………類の家とかどうかなーって思ってて……ねっ?』


「ええ……マジで言ってるの……?」

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