第37話 正しい青春なんて無いんです
意外と俺の悩み相談が早く終わったので、俺らは青春談義を続けることになった。
「あとひとつ、ルイ君や視聴者の方に伝えておきたいんですけど。あんな漫画や映画みたいなキラキラした青春って、送れてる人のほうが少数ですからね?」
「……そうなの?」
「ええ。今の時代、SNSなんかで他人の青春を覗き見しやすくなっただけで……一人で過ごす人だって大勢いるでしょうし。何を隠そう僕も、学生時代は一人でいることがほとんどでしたからね?」
そうだったのか……安藤先生は大人しい性格だとは思うが、陰キャとかそういったオーラは全く感じないもんな。だから先生は自らその青春を選んだんだろうけど……ここでもちはイタズラっぽく先生に尋ねて。
「えー、センセーモテそうなのに?」
「あははっ、当時は勉強が一番楽しかったですからね。今思えば、もう少し遊んで良かった気もしますが……あの過去があったからこそ今の自分がいると思えば、当時の自分も愛おしくなりますからね?」
「それはすごいや……」
今の俺からすれば、学生時代を思い出すだけで頭が痛くなるもん。これも年を重ねれば、段々マシになるんだろうか……?
「まぁーもちも青春真っ盛りの時期だけど……みんなで遊ぶことより、占いに行くのを優先することが多いから、一人で過ごしてる時間の方が長いと思うなー?」
「そっか……みんなそんなもんなのかなぁ……?」
「ええ、色々な青春の過ごし方があるのですよ。正しい青春なんて無いんです」
『正しい青春は無い……か』
『先生の言葉は深いな』
『俺も肯定された気がしてちょっと楽になったよ』
『まぁ過去は取り戻せないしな』
先生の言葉で少しだけ心が軽くなった気がした……俺と同じ気持ちになった人も、きっと視聴者の中にはいるだろう。
「でも、ルイルイは青春を取り戻したいみたいだから……今から青春取り戻し会の中身でも考えよっか?」
「ああ、やっぱり内容考えてなかったんだ……」
「ふふっ。僕も加担しましょうか?」
そして三人で、青春取り戻し会の内容について話していくことになったんだ。もちは考える素振りを見せつつ、こんなことを口にする。
「うーん。でも青春にも色んなジャンルがあるよねー?」
「えっ、ジャンル……?」
「うん。さっきルイルイが言ってたので言うと、文化祭での演奏は仲間と力合わせる系の青春だね。部活の大会で優勝を目指すってのも定番だねー?」
ここで安藤先生も口を挟んできて。
「何気ない日々ってのも青春ですよ。教室の窓から差し込む日差し、チョークの音、他愛のない会話。放課後聞こえてくる吹奏楽部の演奏、そして秘密の空き教室……」
「え、なんか二人とも詳しくない!?」
『草』
『青春の解像度が高い』
『まぁ先生と生徒だもんな』
『青春してる真っ只中だもの』
確かに二人は学校に通う設定のキャラクターだけども……実際のとこはどうなんだろうか……? ……いや。そんな踏み込んだ話はしない方がいいか。安藤先生は安藤先生だし、もちはもちだもんな……。
「あー。あとはやっぱり恋愛も外せないよねー? 人を好きになるってもう、それだけで青春じゃん。エモじゃん?」
「恋愛ね……」
確かに青春というワードには、必ずと言っていいほど付いてくる要素だよな……ファストフード店のポテトみたいな存在だもんな……。
「確かに俺にもそういう憧れはあるけど……恋に恋するのは違う気がするからさ。本当に好きな人が出来てから、恋愛はしたいよね。まぁ……未だに付き合ったりしたことのない俺が、何言ってんだって感じだけどね?」
言ってる内に恥ずかしくなって、俺はつい笑ってしまう……そんな俺を見たもちは、ちょっとだけ真剣な表情に変わっていって。
「いや、ルイルイのその考えは素晴らしいものだと思うよ。でも……もうちょっとだけ自惚れてもいいんじゃない?」
「自惚れ?」
「うん。どうせ自分のこと好きな人なんていないって思うよりは、もしかしてこの子自分のこと好きなんじゃ……って思う方が、人生楽しめそうだと思わない? そこから恋ってのが始まるんだよ?」
「確かに……そうかもしれないな……」
『中学生に恋愛を教わる魔道士の図』
『いつになく真剣なルイに笑う』
『でもルイはモテると思うんだけどなぁ?』
『余程のノンデリか鈍感か……』
何やらコメ欄がやかましくなってきたが……ひとまずそれは置いといて。そして先生がまとめてくれたんだ。
「まぁ恋愛はともかく、スカサン内ではバンドをやってる方もいれば、ゲームの大会に参加する方も多くいますし。学校を模したスタジオなんかもありますから、比較的青春しやすい場所だとは思いますよ。もちろん、ルイ君からの行動が必要になりますけどね?」
「そうですよね……分かりました。先生、ありがとうございます! 俺、頑張って失われた青春を取り戻してみせますよ!」
「おお。何だかすごい台詞だねー?」
「あははっ、頑張ってください。もちろん僕で良ければ手伝いますから……いつでも誘ってくださいね?」
「はいっ! ……ってなんか画面揺れてません!?」
このタイミングで俺は、配信画面の背景が揺れ動いていることに気が付いた。これは放送事故なんかではなく、演出だということには何となく察しは付いていたが……それでも突然この画面を見たら、驚かずにはいられないよ。
「ああ、時空が歪んでるみたいです。ひょっとして、ルイ君の世界にまた繋がったんじゃないでしょうか?」
「ってことは……もうお別れの時間だね、ルイルイ。楽しかったよ?」
ここでノートパソコンに表示されている時間を見ると、開始から一時間経過しようという所であった。つまり……もう少しで番組が終わるということである。
「……そっか。もっと二人と喋りたかったけど……別れも青春だよね?」
『草』
『草』
『うるせぇwww』
『そういうキャラじゃねぇだろお前w』
『早く行けってwww』
「ええ。きっとまた会えますよ」
「……はい! じゃあまた会いましょう、先生! もち!」
「またね、ルイルイー!」
そして光に包まれる効果音と共に『ルイ』は画面から消失したのだった……。
「……帰って行きましたか」
「面白い子だったねー。でもあんな強そうな魔法使いも、青春を追い求めてるものなんだね?」
「天才ゆえに孤独って感じだったのでしょうか……でも、彼ならもう大丈夫ですよ。今からでも青春出来るってことに気づけましたから」
「……そっか。んじゃ、センセー、もち達も青春しよっか! 最近駅前に新しいゲーセンできたみたいだから、一緒行こー?」
「それは出来ませんよ、もちさん。僕らは教師と生徒の関係なのですから」
「ぶー。つまんなーい。センセーのけちんぼー」
「何とでも言ってください」
「はぁー……じゃ、もちももう帰ることにするよ。今日は理科の宿題が、たーんまり出てるからねー?」
「ふふっ、はい。気をつけてお帰りくださいね?」
「じゃーね、センセー?」
ドアの開閉音と共に、もちの姿も消えるのだった。そして最後に残った安藤先生はポツリと呟いて。
「……まぁ。僕の場合もちさんがここに来てくれるだけで、いつでも青春を味わえるんですけどね…………さて、もう一仕事頑張りますか」
そしてキーボードの叩く音。それが次第にフェードアウトして、安藤先生の理科準備室のエンディングテーマが流れていくのだった…………。
『乙』
『おつー!!』
『良い回だったな』
『感動回じゃないか……』
『すごいほっこりする回だった』
『ルイも良いスパイスだったな』
『楽しかったー!』
──
「……今日の放送、めちゃくちゃいい終わり方じゃないでした!?」
「ええ。過去最高の出来でした」
「ふふー。これも青春の力だね、ルイルイ?」
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