第36話 青春コンプレックス?

「……それでルイ君。最近、何かに困ってることってありませんか?」


「えっ、どうしてだ?」


「ここに辿り着く人って、何か悩み事があったりする人が多いんですよ。詳しい原因は未だによく分かっていませんけれどね?」


 ……そう。この番組に来るゲストは、何かしら悩みを持っているみたいな設定になっている。当然その内容はゲストに委ねられるので、ここからは台本に無い会話が繰り広げられることになるのだ。


「まぁ……無いと言えば嘘になるけど……」


「そうですか……よかったら、僕らに話してみません? 知らない人の方が、案外喋りやすかったりするものですよ?」


『先生優しい』

『過去一自然な入りだな』

『ルイに悩みってあるのか?』

『モテないことでしょ』

『ラーメンキャラが拭えないことじゃない?』


 コメ欄では俺の悩み予想が始まる……この流れを変えるためか分からないが、もちは俺に話しかけてくれたんだ。


「あ。ルイルイ、とりあえず座ったらどう?」


「ルイルイ? ああ、そうするよ……」


 そしてもちはダミ声で。


「でってけでってんでーんー。りかしつのいす~!」


「背もたれ無いやつだぁ」


『草』

『草』

『草』

『懐かしい』

『何で旧ドラなんだよw』


 ──


 それから放送画面の背景には理科室のイスが用意され、俺は二人にお悩み相談をすることになった。


「それでルイ君、どんなことで悩んでいるんですか?」


「えっと。悩んでるって言うと、またちょっとニュアンスが違うかもしれないけど……たまに心が苦しくなることがあるんですよね」


『いつの間にか敬語になってて草』

『いつものルイに戻ってるってw』

『短いRPだったな……』

『心が苦しい?』

『重症じゃないか』


 そこでもちが会話に入ってきて。


「心が苦しい? ルイルイ……それ、恋じゃね?」


「結論づけるのが早すぎますよ、もちさん……でも身体的なことなら休養するなり、お医者さんに相談するべきだと思われますが……」


「ああいや! そんな深刻なヤツじゃなくて! 軽いやつですよ!」


 俺は慌てて両手を振って否定する。そして安藤先生はお医者さんのように、詳しく中身を尋ねてきて。


「じゃあ、どのような時に苦しくなるんでしょうか?」


「えっとまぁ……例を挙げるならですね。日常系アニメを見ても、みんな楽しそうで羨ましいなぁって思ったり」


「ふむ」


「文化祭でバンドやってる動画を見て、こんな体験したかったなぁって憧れたり」


「んー?」


「高校生カップルを見て無性に寂しくなったり。ギャルゲーやってても、学生時代にこんな恋愛したかったなって思って、苦しくなったりするんですよ…………あっ、俺はまだ学生なんですけどね!?」


『学生時代……?』

『気付くのが遅い!』

『まぁルイの気持ち分かるよ』

『俺もそんな学生生活送りたかったよ……』


 コメントでは俺の気持ちを分かってくれる人が結構いたみたいだ。そして安藤先生は、少しだけ考える素振りを見せた後……。


「ルイさん。恐らくそれ、青春コンプレックスってやつじゃないでしょうか?」


「青春コンプレックス?」


「ええ。現代の人に多く見られる症状です。きっとソーシャルメディア等が発達したことが影響しているんでしょうけれど……」


 このタイミングでもちは、安藤先生にそのことを質問してくれて。


「センセー、青春コンプレックスってどういうこと?」


「簡単に説明すると……学生時代に青春を送ることが出来なかった人達が、現在までそのことを引きずってしまう状態のことですね」


『辛辣ゥ!』

『ルイは学生だぞ……設定上は……』

『まんま俺じゃん』

『視聴者にも大ダメージ入ってるって』


 そんな予期せぬダメージを視聴者に与えてしまったが……もちはケロッと。


「ああー。そんなのがあるんだねー……でもルイルイ。そんな悩みなら、一瞬で解決できると思うよ?」


「えっ?」


 反射的に俺はもちの方を向く。そして俺と目が合った彼女は、自分のほっぺに手を当てて……口角を上げたまま、こう言ったんだ。


「今から青春すればいいんだよー、青春を!」


「えっ、今からって……?」


 もちの回答に俺は困惑するが……そのポーズのまま、もちはため息を吐いて。


「はぁー。そういう所が駄目なんだよー、ルイルイ。大人になってから制服着て、テーマパークに行く人もいるんだよー?」


「まぁ……それは知ってるけど」


「それに人生で一番若いのは今日なんだからさー。悩む暇があったら、今すぐ行動あるのみじゃない?」


 もちの言葉に俺はハッとする……それを聞いた先生は微笑んで。


「あははっ。確かにもちさんの言う通りですね。何事も遅いことなんかありませんし……それに、ルイ君には青春しやすい環境が揃っているでしょう?」


「環境?」


「ええ。ルイ君はスカイサンライバーという、愉快なグループに加入しているじゃないですか。青春するのにもってこいの仲間が大勢いますよ?」


「……!」


 そっか……もう俺は独りじゃなくて。スカサン内に友達が沢山いるんだ……! もちろん目の前にいる、二人も……! 


「……じゃ、じゃあ……俺は安藤先生を遊びに誘っても良いんですか!? 海とか山に誘っても良いんですか!?」


「あははっ。ええ、もちろんです。都合が合えば、喜んで行きますよ?」


「本当ですか!? やったぁ……!」


 そこでもちは不満そうな声で。


「えー。ルイルイ、もちは誘ってくれないんですかー?」


「あっ、いや、もちもいいなら、是非俺と遊んでほしいな……!」


「やったー。じゃあ今度、ルイルイの青春取り戻し会でも開こっか?」


「ん? あ、ああ! やろう! 何するか分かんないけど……!」


『良かったな、ルイ』

『もちちゃんのお陰で解決したな』

『泣けるぜ……』

『ハッピーエンドだ』

『俺の分まで青春してくれ、ルイ』

『ルイの青春を俺らに見せてくれ!!』

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