第35話 アンタ……火属性か?
そして本番。俺らは収録スタジオに移動して、スタンドマイクとノートパソコンが置かれた机の前に座らされた。このパソコンはアバターを動かすためにあるのか、コメントを確認するためにあるのか……はたまた、両方の性質を併せ持つ♣のか。後で聞いてみよう。
そして周辺には何人かスタッフさんもいて、高そうな機材も多く並んでいた。それらが何に使われるものか、俺には全然分からないが……あれで効果音とか出すんだろうか?
ひとまず俺はスタッフさんに挨拶して……時間まで台本に目を通すことにした。安藤先生ともちは雑談をしてるらしい。ああ、裏でも仲良い所見れて嬉しいな……と俺は横目で光景を眺める……行動が完全にただのオタクなんだよなぁ、俺。
「前、失礼しますねー」
台本を読んでる途中、スタッフさんが俺の前にあるパソコンをイジって何か設定をしていたので、俺は彼に話しかけてみた。
「これって何に使うんですか?」
「ああ、これはモデルを動かすために必要なんですよ。ここにwebカメラ付いてますし……あとコメントもこれで確認出来ますよ」
……あ、当たってたぁ……俺の中のヒソカ……!!
「そうなんですね。ありがとうございます!」
「いえいえ。頑張ってくださいね、ルイさん」
そう言って、若い男性スタッフは去って行った……いやぁー。改めてだけど、色んな人に支えられて成り立ってるんだなぁ、VTuberって……俺も頑張らなきゃな。
「おっと。開始まであと1分ですね」
「ふふー、ワクワクしてきたね、ルイルイ?」
「そうだね……楽しみだ!」
本当はまだまだ緊張してるけど。それ以上に楽しみが上回っていたのは、確かだった。
そして放送時間の19時になって。『安藤先生の理科準備室~!』タイトルコールの後、ほのぼのとしたBGMをバックに二人の会話が繰り広げられるのだった……。
──
『待機』
『きたー!!』
『きたあああああああああ』
『こんばんわー』
『待ってた!』
『ギリギリ間に合ったー!!』
「……ねぇーセンセー。好きな四字熟語って何?」
「唐突ですね、もちさん。どうかしたんですか?」
「いやー。今日国語の授業で、好きな四字熟語を挙げようって時間があったんだけど……そこでボケる男子が、つまんないったらありゃしなくてー」
「へぇ。例えばどんなのでしょう?」
「うーんと。スマホゲームに出てくる必殺技とか、ネットスラングとか。あと、セクシー女優の名前とか!」
「……なるほど」
『草』
『目に浮かぶなぁ……』
『つまんない男子中学生の解像度が高すぎる』
『身内だけで盛り上がってるヤツじゃん』
「それで、センセーならどう答えるかなって思ってねー」
「そういうことでしたか。なら……僕は無難に一期一会とかを選ぶでしょうか。一度の一度の出会いを大切にしていきたいと思っていますからね」
「ああ、良かったー。焼肉定食とか答えようもんなら、ここ爆破してたよー」
『草』
『草』
『草』
『草』
『爆破……うっ、頭が……!』
『また先生がタイムリープすることになるな……』
「あはは……冗談でも、そういったことは言わないようにしましょうね?」
「はーい」
そしてここで二人の視線が俺に向けられた……つまりここからは、俺のターンということだ。俺は台本を片手に演技をしていく……。
「……はぁー。ったくレイのヤツ、魔導書の返却を押し付けやがって……何で俺が図書館まで行かなきゃいけないんだよ?」
『おっ』
『うおー!』
『きた!』
『ルイだあああああ!!』
『ラーメンマンきちゃあー!!』
配信画面に『ルイ』のアバターが表示され、コメントは一気に盛り上がる。湧き上がる嬉しい気持ちをグッと抑え……俺は演技を続けていった。
「よし……ここだな?」
俺の言った直後に『ガラガラ』という扉の開くSEが入る……タイミングは完璧だ。
「おっ?」「おやおや」
そして二人は俺と初対面(したという体)の声を発した。負けじと俺も、ロールプレイを続ける。
「…………なっ、えっ? ここはどこだ……!? 確かに俺は、図書館の扉を開いたはずなんだが……!?」
「あれっ、もしかして新入生? 図書室は3階だよ?」
「いやいやもちさん、彼をよく見てください。恐らく彼は別世界から飛ばされてきた方ですよ。服装や髪色が僕らと全然違うじゃないですか」
「うおっ、ホントだ! その帽子かっこよーっ! もちもあれ被りたいです!」
『確かにもちちゃんに似合いそう!』
『あーあルイ、この二人に出会っちまったか』
『RPしてるルイが新鮮で笑える』
『強キャラなルイは公式番組でしか見れないなw』
イジってくる視聴者をよそに、俺は台本を読み上げる。
「いや、ちょっと待ってくれ……状況が分からないんだが……? まさか、俺が転移魔法を喰らったとでも言うのか……!?」
「いや、多分違います。たまに時空に歪みが生じて、ここの扉が別世界の扉と繋がっちゃうことがあるんですよ。先月も妖精の国と繋がってましたからね」
「……じゃあここは?」
「ここは
「もちさん……余計なこと言わないでください」
『草』
『先生可愛いなw』
『その設定始めて知った』
『背景にコーヒーメーカーあるもんな』
俺もその設定は始めて知ったが……ここでは『ルイ』らしい台詞をチョイスしていく。
「へぇ……別世界の学校か。面白い……」
「ああ、待って待って! 他の生徒にバレたら面倒なことになるから、時空が戻るまではここに留まっておいて?」
「そうですね。僕もそれをオススメします。目立つのは貴方も避けたいでしょう?」
「まぁそうだな……分かった。君らに従おう。えっと……」
「もちだよ、市ヶ谷もち!」
「僕は安藤和夫です。理科教師であり、彼女の担任も担当しています」
彼らに続いて、俺も自己紹介をしていく。ここで俺はちょっとだけ、アレンジを加えてみた。
「俺はルイ・アスティカ。魔道士、いわゆるウィザードってヤツだ」
『ウィザード?』
『嘘付かないでください』
『ラーメン屋さんだろ?』
『いつの間にラーメンマンからジョブチェンジしたんだ』
『嘘だろ……ルイ、ラーメン屋畳んだのか……!?』
「……」
……コメントで笑ってしまいそうになるが、俺は唇を噛み締め我慢する……。
「うぃざーど?」
「魔法使いってことです。でももしそれが本当なら……非常に興味がありますね」
「でももちだって、PKファイヤーくらいは出来るよ?」
「ゲームの話ですか?」
「違う違う! センセーがやってたやつ!」
「……もしかしてフラッシュペーパーのこと言ってるんですか? あれ危険だから、遊び半分で使っちゃ駄目なんですよ?」
……フラッシュペーパーとは。可燃性が高い、一瞬で燃える紙のことである。この紙はマジックなどでよく使われる道具であり、安藤先生が実験配信で使用したことで、ちょっとだけネットで話題になっていたのだ。
「でもセンセー、配信で見せてたじゃん!」
「僕は先生だから良いんです。それに一度授業で炎見せると……やんちゃな男子生徒の心を一気に掴めるから、練習する必要があるんですよ」
何だかリアリティのある発言だな……まぁ、ここでの俺の台詞はこれ以外あり得ないんだがな。
「へぇ…………アンタ、火属性か?」
「あははっ、違いますよ?」
『草』
『草』
『草』
『草』
『草じゃなくて火だぞ』
『火生える』
『生えねぇよ』
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