第34話 あ、もちは◯ローラ派だけど

 ──


 ……それから誤解を解くために、俺は安藤先生から離れ……反対に彼女は先生に近づいて、俺のことを尋ねていた。そんな俺達の仲介役に先生はなってくれて。


「ああ、紹介しましょうか。彼がゲストのルイ君です。そしてこちらの彼女が市ヶ谷もちさんですね」


「「ああー」」


 やっぱりこの人がもちさんの中の人だったのか……同時に俺らは顔を見合わせる。そしたらもちさんの方から、俺の傍までやって来て。自己紹介をしてくれたんだ。


「やっ、どもどもー。もちでーす。気軽にもちって呼んでいいよー?」


「あっ、どうも、ルイ役の類です……!」


 俺も緊張しながらも、もちさんに自己紹介を返した……見たところ彼女は今どきの子って感じで、年齢は俺よりも下に見えたんだ。まぁ流石に中学生とまではいかないだろうが……それでもちさんは、俺の顔を見つめたまま。


「あー。やっぱルイルイって本名だったんだねー? なんとなくそうなんじゃないかなーって、もちは思ってたんだけど」


「そうなんですか……?」


 それよりもルイルイ呼びが気になるけど……特にツッコまないでおこう。


「あ、もちにはタメ口で大丈夫だよ? 多分、ルイルイの方が年上だし」


「そ、そう……そうなの?」


「うん」


 だったらタメ口でも大丈夫かな……でも安藤先生はもちさんに対しても、敬語なんだけどな。まぁ先生はそういったキャラだから、もちさんも納得してるんだろうけれど……というかもちさんじゃなくて、もちって呼ぶべきなのか……?


「……でね、そう思ってた理由はねー。レイちゃんとのコラボ配信見てた時、レイちゃんの『ルイ』って呼び方があまりにも自然過ぎたんだよ。まるで何年間も呼んでたかみたいに……ね?」


 …………え、いや、鋭っ!? 配信だけでそこまで見抜くなんて、もちさんの観察眼は侮れないや……。


「流石だね、もちさん……いや、もち。白状すると、レイは俺の幼馴染なんだよ。と言っても、また頻繁にやり取りするようになったのは、最近のことなんだけどさ」


 それを聞いた二人は、ちょっとだけ驚いた表情を見せて。


「へぇー! レイちゃんと友達なのは知ってたけど、幼馴染なんだー!」


「あっ、でもこのことはあんまり他言しないでほしいな……?」


 このことを視聴者が知ったら、変な勘違いでもされそうだし……何よりそのネタでイジられるのは、彩花も嫌だろうしな。一応、我々はバーチャルな存在だからね。


 それを聞いたもちは、首を縦に振ってくれて。


「うん、もちろんだよー。……でもいいな、幼馴染かぁー。何だかもち、そういった関係に憧れちゃうよー?」


「そう? でも一緒に学校に行ったりだとか……そういう幼馴染らしいことをした覚えはあまり無いけどね」


 主に俺が恥ずかしがってたからな……小学生の頃はよく遊んでいたけど。中学からは早起きして登校中に彩花と鉢合わせないようにしたり、高校ではわざと彩花とは別の高校を受験してたからな……うん。今でこそ彩花といる所を誰かに見られても、なんとも思わないが。当時は若かったからなぁ……。


 そしたらもちは段々と、不満そうな表情に変わっていって。


「えー。どうして? 幼馴染は窓から部屋の行き来するのが普通じゃないの?」


「それは漫画の読み過ぎだって……」


「じゃあ毎朝起こしに来るとかは?」


「ないない……」


「小さい頃、婚約の約束をしたとか……」


「ないないないない! というかどんだけ幼馴染のテンプレ押さえてんの、もちは!?」


 あまりにも彼女の口からあるあるが出てくるもんだから、驚いてしまうよ……そんな俺を見たもちは、ケラケラと。


「あははー。もちはラブコメとか恋バナとかが大好きなんだよー。それに幼馴染系ヒロインって、可愛い子が多いと思わない?」 


「うん、まぁ……確かに○ラクエ5では◯アンカ派だけどさ」


「あ、もちは◯ローラ派だけど」


「何でだよ」


 分かり合えたと思ったら、急に崖から突き落とされたんですけど……幼馴染好きが◯ローラ選ぶことってあるの? そんなことが許されていいの? ……そして。二人の視線は自然と安藤先生の方へと向けられるのであった……。


「あ、僕ですか? 僕は圧倒的に◯ボラ派ですね」


「第三勢力きたぁ」


 ──


「そういえばもちさん、今日は来るの早いですね。何かあったんですか?」


 安藤先生の問いかけに、もちさんは何か思い出したのか。ポンと手を叩いて。


「そうそう、今日は占いの結果が良かったから、早くスタジオに来てみたんだよー。結果としてルイルイとセンセーの面白い場面見れたから、当たってたみたいだけどねー?」


 面白い場面って、俺がハグしてたシーンだよな……? それ見て占い当たってるってよく思えるよな……。


「そういえばもちって、占い好きだったっけ」


 俺のその言葉に、もちは嬉しそうに反応して。


「おっ、よく知ってるねー?」


「一応この番組のファンですから。歴は浅いですけど」


「へぇー」


 前にもちは番組で占いが好きなことを公言していた。そのことを俺は覚えていたのだよ……そしてもちは続けて。


「じゃあルイルイ、この番組の流れとかも知ってる感じ?」


「まぁ大体は。ゲスト回は、理科準備室に迷い込む所からだよね?」


「そうそう。最初は私とセンセーが喋ってるからー。ルイルイは自由に寸劇しながら理科準備室に入ってね?」


「分かったよ……でも緊張するなぁ……」


 番組の自由度が高い以上、ミスや滑ったりするのは全部自分のせいになるから、その辺のプレッシャーはかなりあるんだよなぁ……と、そんなことを思ってると。安藤先生が俺に声を掛けてくれて。


「大丈夫ですよ、ルイ君。視聴者の皆さんも優しいですから」


「もちろんそれは分かってますけど……でも、優しさに甘え過ぎるのも良くないかなって。俺はこの番組が好きだからこそ、きちんとやり遂げたいなって思ったんです」


 そんな俺の言葉に……二人は顔を見合わせて。


「おおー、もちよりちゃんとしてる」


「ふふっ、僕らも見習わなければなりませんね?」


「ああいや、マジでお二人は普段通りで大丈夫ですから!」


 俺のせいで空気が変わるのも嫌だし……あくまでもこの番組は二人の番組で、俺はただのゲストということを忘れてはならないのだよ。


 そして安藤先生は俺の緊張をほぐすためか、こんな提案をしてくれたんだ。


「じゃあせっかくですし、少し練習しておきますか? 台本ありますし」


「いい案だね、センセー? でも練習なんて何ヶ月ぶりだろ?」


「練習無しで、よくあんな神回連発出来ますね……?」


「あははっ、光栄です……では、オープニングトークに入る所からいきましょうか」


「はーい」


「……はい、お願いします!」


 そして俺らは渡された台本を開いて。三人で番組の流れを確認していくのだった。

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