第32話 公式番組の出演依頼

 そんな感じで放送が終わった後、ちょっとだけ雑談をして。俺らは通話部屋を解散したのだった。途中、彩花がお弁当の具材について色々聞いてきたのが気になったけど……もしかして本当にお弁当を作ってくれるんだろうか? 


 まぁ冗談の可能性もあるし、あまり期待はしないでおこう……彩花だって暇なわけじゃないし。俺も送れなかった青春を、いつまでも追い求めるのは止めよう……ダサいもんな……。


 ──


 そんな訳で次の日。今日は配信もバイトも無い、完全なお休みの日である……ふふ、何をしようか。ゲームするのも悪くないが、溜めに溜めまくったアニメを消化するのもアリだな……よし。今日はアニメ鑑賞の日にしよう……!


「ん?」


 そうやって決めた瞬間、スマホからはバイブレーションが。俺は誰から掛かってきたのかも確認せず……○ライムビデオを開きながら応答した。


「もしもし?」


 そしたらスマホの向こう側からは、可愛らしい声が返ってきて。


『もしもーし、ルイ君。お久しぶりです、根元ですよ』


「ああーネモさん! どうかしましたか?」


 電話の相手はマネージャーのネモさんだった。それに気づいた俺の反応で、ネモさんはちょっとだけ嬉しそうな声に変わって。


『ふふー。今日はですね、ルイ君に嬉しいお知らせを持って来たんです』


「嬉しい知らせ?」


『はい。なんと……ルイ君に公式番組の出演依頼が来たんですよ!』


「えっ? 公式番組……ってどんなのですか?」


 俺はクエスチョンマークを頭に浮かべる。もちろん公式番組という存在は知っていたが、番組にも色んな種類があるのも知っていたんだ。どんなのに出るんだろうと、俺が考えていると……ネモさんは口を開いて。


『はい。今回はですね「安藤先生の理科準備室」のゲストとして呼ばれています。毎週金曜に公式チャンネルでやってる番組ですね』


「理科準備室? ○んじろう的な実験でもするんですか?」


『違います……まぁ簡単に説明するとですね。中学校の理科教師の安藤和夫あんどうかずお先生と、その中学に通う学生の市ヶ谷いちがやもちさんが、理科準備室を模したスタジオでダラダラお喋りするって番組です。私も毎週見てますけど、ゆるい感じで面白いんですよ?』


「へぇー。でもそれ、ゲストが来る理由付けが難しくないですか?」


『ああ、それはたまに「理科準備室の扉が異空間に繋がる」という設定になってるから大丈夫です。だからルイ君が出演する時は、違う世界の扉から迷い込んだって体になりますね』


「ぶっ飛んだ設定っすね……」


 ……でもちょっと面白いかも。VTuberの何でもありみたいな設定は、俺結構好きだぞ。


『……あ、すっかり出演する体でお話してましたが。ルイ君はこの番組に出てくれますか?』


「ええ、もちろんですよ! 来た仕事はできる限り受けますから!」


『なら、良かったです。予定では来週の出演になりますから、事前に視聴して温度感を確認するのをオススメしますよ。きっとルイ君は安藤先生ともちさんのこと、ご存知無さそうですし』


「いやいや、知ってますよ! ……見た目は」


『見た目だけ知ってても意味ないでしょ……? 一応顔も合わせることになるんですから、どんな人か知っておくのは大切ですよ?』


「あっ、はい……分かりました」


 ここは素直にネモさんの言うことを聞いておくべきだろうな……ゲストで来た新人が、あまりにも何も知らなかったら、その番組のファンの人も嫌だもんね……。


『あとですね。何か相談事もセットで持って行くのをオススメしますよ。確か悩み事がある人が理科準備室に繋がりやすくなってる、みたいな設定があった気がします』


「そんなのあるんすか……?」


 でも確かに、何も話題も持ってこなかったら、二人に気を遣わせることになりそうだし……うん、何か考えておこうかな。


『これで以上ですかね。時間や場所はこの後メッセージで送りますので、確認しておいてくださいね?』


「はい、ありがとうございます、ネモさん!」


 そして通話を切ろうとしたのだが……その前にネモさんが話しかけてきて。


『……あ。それと、全く関係ない話ですけど……恋バナ配信、面白かったですよ?』


「えっ、見てくれたんですか!?」


 まさかネモさんが恋バナ配信を見ててくれたなんて……! と、喜んだのも束の間。


『はい。ルイ君がどんな回答するか、ちょっと気になったので。ニヤニヤしながら見ていました』


「ええ……? そんな理由でですか?」


 楽しみにしてたとかじゃなくて、俺の回答知りたかったからって……そんな理由でよく最後まで見れましたね……?


『はい。ルイ君の回答だけ、やけにリアリティがあって面白かったです。もしかしてあれ実話ですか?』


「いや、違いますから!! 俺には余ったクッキーをくれる同級生すら、存在してませんでしたから!!」


『あっ…………ごめんね?』


「急に謝られても虚しいだけっすよ……はぁ。じゃあ公式番組も頑張るので、それも見ててくださいよ?」


『はい。時間があったら見ます』


「何でそこは正直なんですか……?」


 そうやって言うと、ネモさんはクスクスっと笑って。


『冗談ですよ。楽しみにしてますからね、ルイ君?』


「はい……あざます。じゃあまた!」


『ええ。では、失礼しますね』


「失礼しまーす」


 そして俺は電話を切った後、○ライムビデオを閉じてYooTubeを開き……早速、安藤先生の理科準備室を第一回から再生していくのだった。


「……」


「……ふふ」


「……」


「…………予想以上に面白いぞ、これ!!」

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