第31話 キュンとするシチュエーション?

 ──それから俺らは、何個か質問を解決していった。まぁ解決したのか怪しいものもいくつかあったが、コメントは盛り上がっていたので良しとしよう……。


「ふぅー結構読んだねー。時間的にそろそろおしまいかな?」


「ええーっ! もう終わるのかー!?」


「まぁ、2時間超えてるしな」


 モニター下にある時計には『22:24』の表示がされていた。予定では、もうとっくに配信を終えてる時間である。


「んー。そっかぁ……」


 だけどリリィは分かりやすく悲しそうな声を出した。確かにこの楽しい時間を終えるのは、ちょっとだけ俺も寂しいのだが……。


「じゃあ、最後に簡単なやつ読もっか! それを答えて、配信を終わろう?」


 そんな気持ちを読み取ったのか、彩花は俺らにそんな提案をしてきたんだ。


「ああ、いいんじゃないか?」


「うん、分かったぞ!」


 その提案にリリィは納得したようで、元気に返事をした……聞いた彩花は笑って、そのままお便りを読み上げていくのだった。


「じゃあこれが最後だね! えー、スデイレちゃんからのお便りです! レイちゃん、ルイくん、リリィちゃん、こんにちは!」


「ああ、やっと真面目に名前読んでくれる人来た……」


 当たり前だというのに何だろうな、この嬉しさは……?


「突然ですけど、三人がキュンとするシチュエーションを教えてください! ……だって!」


「……そんだけ?」


「それだけ!」


 それ本当に聞きたい質問なのか……? まぁ、この質問は打ち合わせの時にも聞いていなかったやつだし、彩花がすぐに終わりそうなのを選んだんだろう。でもキュンとするシチュエーションって言われても……そんなパッと思いつくもんなのか?


「じゃあ……誰から言う?」


「はいはい! あたしから言うぞ!」


「おお」


 そんな率先して言うものでも無いと思うけどな……そしてリリィは妄想してるのか、ニヤニヤと笑いながら喋りだして。


「えへへー。あたしはなー。ほっぺに缶ジュースをピトってくっつけられて『リリィ、最近元気ないぞ。大丈夫か?』みたいなことを言われてみたいな……!」


『ベタ』

『ベタだあ』

『昔の少女マンガ?』

『逆にそれ女子マネがやるやつでは?』

『リリィに元気ない時ってあんの?』


「うん。ベタだなぁ……」


「えー良いだろー!? キュンとするだろー!?」 


 いやぁ、そんなのフィクションでしか見たこと無いし。そして何より……。


「急にそんなことされたら、普通にキレちゃいそうだ。『うわ、冷たッ!!』って」


「……ルイはされたことないのに分かるのか?」


「言い返せないからやめてくれ」


『草』

『草』

『草』

『つよい』

『それは禁止カードだ』


「んー。じゃあルイは、どんなことにキュンとするんだよ?」


 そしてリリィは俺に尋ねてきた。うーん……キュンとすると言っても、色々ジャンルがあるけれど。まぁ例えば……。


「そうだなぁ……お弁当作ってきた後輩が『ルイ先輩のために作ったんです! 自信ないけど、食べてくれたら嬉しいです……!』って言いながら、恥ずかしそうにお弁当を渡してくる、みたいなのはグッと来るかもな……!!」


『うわ』

『うわぁ……』

『アフレコきつい』

『後輩ってところが一層キツさを増す』

『でも正直分かる』

『ルイはそんな青春を送れなかったんだね……』


 コメントからはかなり引かれていたが……二人は黙ったままでいたんだ。


「……何か言ってくれよ、リリィ」


「いや、人の理想に口出しするのは良くないかなって……」


「そんな優しさいらない!!」


 いやいや、キモいと思ったならそうやって言ってくれよ! 憐れんだ目で見られる方が、俺的にはキツイから!!


「はぁ……じゃあ、二人とも恥ずかしいこと言ったし。レイの答えも聞かせてくれよ?」


 最後に、俺は彩花へと尋ねてみた……そしたら彩花は予め考えていたかのように、スラスラと答えを口にするのだった。


「うん、私はねー。自分が困ってたり落ち込んでたりする時に、助けに来てくれたら嬉しいなって思うかな? そして優しく頭をナデナデしてくれたら……もっと嬉しいかも!」


『いいねぇ』

『可愛い』

『まともだ』

『前二人が強烈過ぎたんだよ』

『ルイとリリィはアニメの見過ぎだ』


 彩花の回答は比較的称賛されていたが、俺からすれば頭ナデナデという行為も完全にフィクションの類いに入るんだよなぁ。それに……。


「……レイの言うそれは『ただしイケメンに限る』ってヤツなんだろ?」


「えっ? あははっ! まぁそうだねー。頼れる白馬の王子様みたいな人じゃないと、キュンとはしないかもねー?」


「だと思ったよ。あーあ、聞くんじゃなかった…………」


「……ルイ、どうして悲しそうなんだ?」


「は、はぁ!? なに言ってんだリリィ!? 全然悲しくなんかねぇーし!?」


 突拍子もないことをリリィに言われ、変な声で反論してしまう。いやいや! 何で彩花のキュンとするシチュエーション聞いて、俺が悲しくならなきゃいけないんだよ……!?


『草』

『草』

『かわいい』

『小学生か?』


「あははっ! じゃあ今日はこの辺で終わろっか! みんな、長時間ありがとね! おつレイだよ!」


 そしていい感じの落ちを見逃さなかった彩花は、ここで締めの挨拶に入った。続けて俺とリリィも挨拶をした。


「みんな、おつリリィ!」


「うん……おつかれだ」


『おつレイ!』

『おつー』

『楽しかったよー!』

『面白かった!!』

『三人のコラボまたやってくれ~!』

『絶妙なバランスだった』


 そして一通りコメントを見た彩花は、配信を切ったのだった。


 ──


「いやー! 今日はホントに楽しかったぞー!」


「ふふっ、お疲れ様だよ二人とも! ……ね、類。今度お弁当作ってあげよっか?」


「何でだよ」

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