第30話 ぼっち名探偵と光のリリィ

「うひひっ、ラーメンマン……!! ラーメンマンって……!!」


 リリィは特徴的なあのビジュアルを思い出したのか、笑い続けている。その笑い声につられた彩花は、読むのを一旦中断したのだった……そのタイミングで、俺はさっきから気になっていたことを彩花に尋ねてみた。


「なぁレイよ……さっきから気になってたけど、俺イジられまくってない? 本当にそうやって書いてるのか?」


 すると彩花はケロッと。


「うん。私は送られてきた文の通りに読んでるよ? 類にも見せてあげようか?」


「……いや、いいよ」


 彩花はそういった嘘はつかないから、本当なんだろう……じゃあさっきまでの全部は、視聴者からのイジりってことか……いや、良いんだけどね? それもひとつの愛だと言うのなら、俺はラーメンマン呼びも受け入れるけどね?


 ……そしてようやくリリィのツボが収まったようで、笑い声は聞こえなくなってきた。そこで彩花はお便り読みを再開するのだった。


「僕は中学生なのですが、今年のバレンタインデーにあまり喋ったことのない女の子から手作りクッキーを貰いました。それ以来、その子のことが気になって仕方ないです。これって脈アリでしょうか? 脈アリなら、告白するべきかどうか教えてください……だって!」


「……」


 出たな、この質問……この中学生にマジレスするのは心が痛いけど、勘違いをしたままでいる方がきっと辛いから……俺が言ってやるしかないんだッ……!!


「いやー、私は結構気があると思うんだけどねぇ。だから早く告白するべきだと思うけど……類はどう思う?」


「本気で言ってるのか、レイ……俺は脈ナシだと思ってるよ。それも高確率で」


「ええっ、何で!?」


『まぁそうだよな』

『義理の線が強い』

『いやー手作りは気持ちこもってると思うけどな』

『レイちゃん派だな俺は』


 二人の論争にコメントは、ルイ側とレイ側の二陣営に分かれ始めた……おお、凄い。何かの討論番組みたいになってきたぞ。


「まぁお便りにはあまり詳しく書かれていないから、俺の想像が多くなるけど……まずバレンタインデーにクッキーを貰った、という所がポイントだよ。バレンタインと言ったら普通、何を渡す日だ?」


「分かったぞルイ! チョコレートだ!」


「リリィ正解。そう、バレンタインはチョコを渡す日になっているんだ」


『チョコ以外も渡すことあるんじゃ?』

『マフィンとかクッキーもアリでしょ』

『チョコが嫌いな人もいるだろ!』


「みんなの意見も分かるけど、今は一般的な話をしている……だからここではチョコではなく、なぜクッキーを選んだのかを考える必要があるんだ」


「じゃあ類、どうしてその子はクッキーを選んだの?」


「俺が思うに、多分その子はお菓子作りが得意だったんだろう。市販のチョコを溶かして固めただけの、なんちゃって手作りお菓子を配ってる同級生とは格が違う」


「類……全国の女子中学生を敵に回してない? 大丈夫?」


 言ってて自分もちょっとマズいと思ったが、俺に女性ファンはもうほぼいないし……それよりも彼に現実を見せる方が大事なんだ!! そう思った俺はここでギアを上げ、みんなに強く訴えかけた。


「……そこで彼女はクッキーを作った! でも作ったことのある人なら分かるけど、案外クッキーって多くの量を作ることが出来るんだよ! もちろん何回も焼く必要があるから、時間は掛かって大変だけど!」


『ん?』

『あれ』

『流れ変わったな』

『まさか……』


「多くのクッキーが出来上がるということは、そのクッキーを渡せる人も必然的に増える……つまり! あんま喋ったことのないクラスメイトの君にも、渡す余裕が出来るってことなんだアッ!!」


『うああああああああ!!!!』

『やめろおおおおおおおおおおお』

『そういう意味だったのか!!!』

『学生時代似たことあったわ!! 知りたくなかった!!』 


 コメントは阿鼻叫喚するが、俺は追い打ちをかける。


「更にっ、ここにはクッキーとしか書かれてないけど、本命にはチョコクッキーだったかもしれないし、型を取った可愛い形のクッキーだったかもしれないんだよ!!」


『あああああああああああ!!!』

『もう止めましょうよ!!!』

『オーバーキルだって!!』

『やめたげてよお!』

『モウヤメルンダッ!!』

『もう止めてルイ! とっくに質問者のライフは0よ!』


「……以上だよ。レイ、納得したか?」


「あ……うん、えっと。納得はしたけど……類に友達が少ない理由も、ちょっとだけ分かったかも」


「えっ」


 彩花の言葉に、心臓がキュッっとなってしまう。キュンじゃないよ、キュッだよキュッ…………やっぱり俺ってデリカシーないのかなぁ……?


「じゃあ類の答えを踏まえて……リリィちゃんはどう思った?」


 ここで彩花はリリィへと振った。俺の発言の後の答えは、相当難しいものだと思うが……リリィはちょっとだけ悩んだ後。


「そうだな……確かに、ルイの考えも間違ってないかもしれないけど……でも! 少なくとも、オマエは嫌われてなんかないと思うぞ! どれだけクッキー作ったって、嫌いな人に渡すヤツなんかいないもん!」


 そうやって質問者を励ましたんだ。そしてリリィは続けて……。


「だからオマエは自信持っていいぞ! その子がオマエのこと好きかどうかまでは分からないけど……関係なんかどうにでも変化するから! だからまずはその子に、クッキーの作り方でも聞いてみたらどうだ?」


 質問者にアドバイスまでしてあげたんだ……なんて良い子なんだ、リリィは……!


『完璧過ぎる答え』

『リリィちゃんは優しいなぁ……』

『リリィに相談枠とか取ってほしいなこれは』

『リリィちゃんのファンになります!!』


 そんな完璧なリリィの答えに比べて……俺は……俺はっ……!


「……なんか。自分のことが恥ずかしくなっちゃったな」


『草』

『草』

『反省出来てえらい』

『偉いか?』

『でも、ルイの現実的なアドバイスも必要だと思うよ』

『リリィちゃんが一番、質問者に寄り添ってるけどね……』

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