第24話 もう全部あいつ一人で……
……忘れた人のために解説しておくが。蓮見来夢さんは、我らがスカイサンライバーに所属している、凄腕FPSゲーマーのことである。特にスナイパー武器の扱いに優れており、実力はプロ同然とも言われているとか。俺が切り抜きで勉強していた、VTuberの一人でもあるね。
そーんな凄いプレイヤーが何で……。
「何で……初心者の俺とマッチしてんだよぉ!?」
『草』
『それはそう』
『そもそも本物なのか?』
『まぁアーペのマッチって結構適当だし』
『カジュアルだし、デュオだもんな』
いや知らないよぉ! そんなアーペのマッチが適当だったなんて……じゃあ俺は高レート帯のマッチに参加させられたってこと!? そんなのヒドイよぉ!!
【システム起動、準備完了】
画面では、アーペのキャラクターがボイスを発した。どうやら来夢さんは機動力が売りのロボットキャラ『バズ』を選択したようだ。ああ、次は俺の番……。
「えっ、やべ、どうしよどうしよ、じゃあ……こいつで!」
パニクった俺は攻撃特化の軍人キャラ『ハンカ』を選択した。もっと初心者向けのキャラもいたはずだろうが、今の俺は冷静では無かったのだ。
【素人は出ていって。ここからは本物の戦いよ】
「お前が言うなぁ……!! どう見ても素人はこっち側なんだよぉ……!!」
『草』
『草』
『草』
『草』
……そして試合開始前には、部隊紹介のバナーが表示されるのだが。来夢さんのバナーには、めちゃくちゃ光っているレアなバッジが3つ付けられていたのだった。つまりこれは『マジ』だということで……。
「あっ」
『草』
『えー本物確定です』
『本物だああああああああ!!!』
『面白すぎる』
『まーたルイが神回起こしたのか』
『神回しか起こせない男』
いやいや、神回とか言ってる場合かよぉ……!? 本物だということは、恐らく来夢さんも配信か動画撮影をしているのだろう……つまり来夢さん側の視聴者も、俺の行動を見る訳であって……いくらカジュアルだと言っても、下手な行動出来ねぇよぉ……!
『おい、画面見るんだ』
『ルイ、ジャンマスだ』
『飛べ、ルイ』
『渡米!!!』
どうやら俺が降下場所を決める、ジャンプマスターになってるらしい。ここは上手い来夢さんに変わるべきだろう……いやっ、駄目だ! 変わったら絶対、敵のいる方向に突っ込んでいくよ! 即ダウンは流石に避けたいから……!!
「ちょ、ごめんみんな! チキらせてくれ!!」
『いいよ』
『勝ちに行くなら正しい判断』
『まぁ初動落ちは面白くないからな』
『こっからはチキンプレイだ!!』
そう思った俺は時間を掛けて、中心部から離れた場所へ降下した。近くに敵部隊はいないみたいだ……ふぅ。とりあえずは一安心か。少し落ち着きを取り戻した俺は、みんなにこう尋ねてみたんだ。
「なんとか着地したね……ねぇみんな。来夢さんに挨拶してみてもいいかな?」
『え?』
『うん』
『唐突だな』
『先に物資漁れ』
『好きにしたらいいんじゃない?』
正論も混じっていたが、彼女はVTuberの先輩だし。こんな機会も滅多にないからと思った俺は、ゲーム内チャットで『こんにちは』と送信してみたんだ。そしたらすぐに『yoooooo!』と返事が返ってきて。
「……陽気なラッパー?」
『草』
『ライムがチャット返すの珍しい』
『向こうも気づいてくれたんじゃない?』
『流石にルイのこと知ってるでしょ』
『ルイの名前も分かりやすいしな』
ちなみに俺のゲームネームは『ルイ・アスティカ|VTuber』である。そのまんまだな。
「よし。とりあえず挨拶できたし、武器を探そう……あ。このスナイパーライフル、来夢さん使うんじゃないかな?」
俺は建物の中にスナイパー武器が落ちていたことを知らせるピンを刺す。そしたら来夢さんの扱うバズはそれに反応して、ワイヤーを使ってこっちまで飛んできた。
「うえっ!? そんな飛ぶのそれ!?」
そしてスナイパーを拾ったバズは、ジップラインを設置して次の安置エリアへと高速で進んでいくのだった……。
「ちょ、早い早い早い、ついてけないって……」
【敵を発見】
「いや、どこぉ!?」
来夢さんは敵を知らせる赤ピンを刺すが、俺には全然見えない。もう少し近づかなければ、見えないだろう…………と、思ったのも束の間。遠くからスナイパーライフルの銃声が聞こえてきて、バズは敵がダウンしたことを知らせるボイスを発したんだ。
【敵がダウン】
「うえぇっ!? つよぉ!!!」
一人ダウンしたのなら、ここは詰めて倒すべきだろう……俺は急いでピンの方向へと駆け出した……が。またスナイパーの銃声が何発か聞こえてきて。そしてバズの嬉しそうな声が。
【部隊を壊滅させたよ、やったね!】
「…………俺って必要か?」
『草』
『自信持って』
『しっかりしろ、ルイ!!』
『大丈夫大丈夫!!』
『生きてるだけで凄いってば!! ねっ!!』
『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』
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