第22話 ルイのファンマーク?

「……といっても雑談のネタを用意してる訳じゃないし、慣れてる訳でもないからさ。何か話題ないかな、ルイ民のみんな?」


 そう言って俺は、流れてくるコメントに目を通していった。どれどれ……。


『そう言われてもな』

『何でもいいぞ』

『好きに喋ってくれ』

『ラーメントークは?』

『そういやルイが言ってたうまとん食ったけど美味かったぞ』


「おっ、うまとん食ったやつもいるのか! 何だか嬉しいねー」


 自分の好物を視聴者のみんなと共有して、しかもそれを食べてくれるのは素直に嬉しいことだよな……まぁ俺はただ、ラーメンを啜ってただけなんだけど。


『いいなー私も食べたい』

『俺も食ったぞ! 醤油派から豚骨派に寝返ったぞ!』

『注文したけど、まだ届いていないわ』

『九州のばあちゃん家から取り寄せたぜ』


「でも……みんな影響され過ぎじゃない?」 


 それにしては購入報告が多すぎる気がするんだけど。俺の視聴者は影響されやすい人が多いのか……? まぁ俺も好きなアニメキャラの好物を真似て、毎食メロンパン食ったりしてた頃もあったけど……みんなそういう時期なのか?


『だってあんなにうまそうに食うもん』

『俺も食いたくなってきた』

『ルイにグルメリポートしてほしいなぁ』

『なあルイ!『#ルイ民ラーメン部』で検索してくれ!』


「確かにグルメリポートは面白そうだが……えっ、何? ルイ民ラーメン部……? そんなタグは作ってないんだが……?」


 気になったコメントを拾った俺は、早速そのタグをつぶやいたーで検索してみた……そこに出てきたのは、沢山の美味しそうなラーメンの写真だったんだ。


「うおっ!? めっちゃうまそー!」


 お店のラーメンや、カップラーメン。うまとんはもちろん、レイのキーホルダーを隣に置いて撮影された写真もあったんだ。どうやら特にレギュレーションは決まってないようで、ただラーメンが写っていればいいらしい。


 もちろんこうやってタグを作って、盛り上げてくれるのは凄く嬉しいことなんだが……気になることがひとつ。俺はマウスホイールを回しながら呟いた。


「にしても写真多くないか……? 本当にこれ全員、ルイ民なの?」


 まだデビューして数日しか経ってないというのに、そのタグには100件以上の投稿があったんだ。この異常な数字に俺は困惑していたのだが、コメントは同意のするものばかりで……。


『ああ』

『せやで』

『そうだぞ』

『俺の垢映ってたぞ!!』

『ちゃんと名前見て』


「名前見てって……みんな普通の名前だよ?」


『その隣』

『一番右』

『ラーメンのやつ』

『ファンマーク付いてるじゃん?』


「ファンマーク……?」


 よくよく見ると、そのタグを付けている人の名前の最後には『🍜』のマークが付けられていたんだ……俺はその絵文字をマウスカーソルで囲むような動きをして、みんなに尋ねる。


「……これ?」


『それ』

『それ』

『これ』

『🍜』


「うそだろ」


 確かにファンマークという文化については勉強していたが……まさかこんなことになるとは……。一応知らない人のために解説しておくけど、ファンマークってのは、その配信者のファンであることを示すために付けるマークや絵文字のことである。


 その種類や組み合わせは豊富であり、流石に俺はスカサンに所属している人みんなのマークは把握しきれてなかったから、初回放送では決めることはしなかったんだ。いずれ決めるか、別に無いままでも良かったんだけど……。


「本当にこれでいいのか? ラーメンだぞ!?」


『うん』

『うん』

『🍜🍜🍜🍜』

『ぴったりじゃん』

『俺も今から付けてくる』


「いや、いやいや。自分で言うのもアレだけど、俺って結構凄い魔道士なんだぞ!? 知ってるか!?」


『あ、そうなんだ』

『初めて知った』

『そういえば変な服着てるね』

『コック帽にしてはずいぶん尖った帽子だね』


「お前ら……他の案は考えるつもりはないのか?」


『ラーメン以外考えられない』

『まぁもう飽和状態だからねー』

『かっこいいのはもう取られてるし』

『じゃあレイちゃんと同じマークも付けよう』


「じゃあレイと同じマークって、じゃあの意味が分かんねぇよ……」


 ……どうしてもみんなはラーメンにしたいらしい。あまり納得できないんだけど……もう既に付けてるみたいだし。これもひとつの愛だと言うのなら、俺もそれに応えてやるしかないみたいだ……。


「……ああ、分かったよ。お前らがそんなにラーメンにしたいならいいよ、俺は受け入れてやる……でも決めたからには、お前らも付けるんだぞ?」


『いやぁ……』

『うーん』

『それはちょっと』

『もう付けてます!!』


「何で否定的な意見が多くなるんだよ……でももう俺は止まらねぇからな……!!」


『あーあ』

『いけえええええええ!!!』

『ルイ君壊れちゃった』

『ルイ……やるんだな!?』


「やるんだよ、今ここで……!」


 そして俺はそのまま、つぶやいたーのプロフィール編集画面に遷移して。『ルイ・アスティカ』の隣に🍜の絵文字を配置したんだ。


「ははっ……やったぞ、お前ら! 次は誰の番か分かるよなぁ?」


『?』

『わかんにゃい』

『さぁ?』

『一体誰のことなんやろなぁ……?』

『多分俺らには言ってないから、みんな安心していいよ』


「……きっ、貴様ァァア!! 逃げるなァ!! ラーメンから逃げるなァアア!!」

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