第21話 ルイのぐだぐだ個人配信

「恋バナ……?」


 そんな配信に俺を誘うなんて、どういう風の吹き回しだよ。生まれてこの方、まともな恋愛などしたことないと言うのに……そんな困惑している俺をよそに、彩花は元気な声のまま。


『うん! 実は私ね、定期的に恋愛相談をレイガール達から募集してるんだー。それで、今回ゲストとして新人の二人に来てもらえないかなーって思ってね! ほら、コラボがきっかけで、二人の面白さに気付く人もいるかもしれないじゃん!』


「ああ、なるほど」


 彩花が俺の恋バナに期待してる訳じゃないのは安心した。でも彩花の視聴者は、もう俺のこと知ってると思うんだけどなぁ……まぁリリィは別か。


「そういやリリィは何て言ってるんだ? 返事来たのか?」


『うん! 「やるやるー!」って喜んで言ってくれたよ! だから後は類だけ!』


「そうか……」


 リリィは乗り気みたいだし、どうしようか……場違い感は否めないんだけど……。


『やろうよー、類ー! 絶対楽しいよー?』


 ……まぁ。今のところ、彩花とリリィが一番緊張しないし。初コラボがこの二人なら、俺も安心して出れるからな。やってみるのも悪くないのかもしれない。


「……分かった。でもあんまり期待すんなよ?」


『ふふっ、類はいてくれるだけで面白いから大丈夫だよ!』


「どういうことだよ……?」


 相変わらず彩花は、俺の評価が高いというか、期待し過ぎているというか……まぁ悪い気はしないから、別にいいんだけどさ。


『とにかく、了承してくれてありがと、類! じゃあ早速、つぶやいたーで予告のつぶやきしとくね!』


「待て待て、彩花。その配信はいつやるんだよ?」


『えっとねー、ちょうど一週間後! 時間は午後8時からを予定してるよ!』


 来週か。バイトは…………夕方までだし大丈夫か。スマホに登録してるシフトの確認を終えた俺は、彩花に返事をした。


「ああ、それなら大丈夫だ。ちなみにそれはオンライン上でやるのか?」


『えっ? そのつもりだけど……あ、もしかしてオフコラボやりたい? リリィちゃんが良いって言ったら、そうしてもいいけど?』


「いや、いいよ。炎上しそうだし」


 初っ端から彩花の隣でゲーム配信してた俺が、炎上の心配するのは今更過ぎるかもしれないが。正式にVTuberになったからには、色々と気をつける必要があるのだよ……でも、彩花はあっけらかんと。


『そんなの心配しなくて大丈夫だよ。類の目標は「楽しむこと」でしょ? いちいちそんなの気にしてたら、楽しめることも楽しめなくなっちゃうよ?』


「はは……そうかもな」


 改めて目標を口に出されると、小っ恥ずかしいな……まぁ彩花の言うことも一理あるかもしれないけど。


「でも今回はオンラインで大丈夫だ。リリィにも手間掛けさせたくないしな」


『んー分かった! じゃあ今回はそういうことにしとくね!』


「ああ。じゃあ当日はよろしくな」


『うん! 楽しみにしてるね!』


 そんな嬉しそうな彩花の声を聞いた俺は、少し笑って。通話を切るのだった。


 ──


 ……そんで2日後。今日は初配信の時に予告していた、個人配信を行う日である。彩花とリリィのコラボ配信はもう少し先だから、気長に待っててくれ……ってな訳で、配信始めていくぞ。


 俺は慣れない手付きで配信の準備をして……そしてマイクに向かって、喋りかけた。


「はい、どうもこんばんは。スカイサンライバー所属のルイ・アスティカだ」


 そう言うと、相変わらずバラバラな挨拶が、コメント欄には飛び交ってきて。


『こんルイー』

『こんれいれい』

『こん麺』

『待ってたぜ』

『よぉ、ラーメン』


「イジっていいから、せめて名前で呼んでくれ……んで。今日が2回目の配信ということで。まだまだ緊張しているけれど……何とか頑張っていこうと思うよ」


『ん?』

『?』

『2回目?』

『謝罪配信を無かったことにするな』

『記憶が消去されてて草』

『謝罪配信の枠もバッチリ残ってるんだよなぁ……』


「そんで今日は、人気FPSゲームのアーペでもやっていこうかなって思っているよ。みんな知ってるし、ルールも分かりやすいもんね」


『おお』

『いいね』

『期待していいのか?』

『ルイのランクは?』


「俺のランクが知りたいのか? 聞いて驚け……ブロンズだ」


『草』

『溜めるな』

『何だその間』

『こんなに上手そうなのに……』

『今どきブロンズは、逆にレアかもしれない』


 一応解説しておくが、ブロンズランクは下から数えて2番目のランクである。まぁこれより下のルーキーランクはポイントも何も下がらないので、実質ブロンズが最下層みたいなところはあるが……。


「まぁまだ練習中だし、もう少し上手くなってから、ランクは回すつもりだけどね。それじゃあ起動しますかと……」


 そして俺はデスクトップに配置してあるアーペをクリックした。だが、そこに表示されたのはタイトル画面ではなく、アップデートの確認画面で……。


「あ、やべ……アプデしてなかった」


『草』

『草』

『あーやっちまったねぇ』

『確認しときなってwww』

『2回目だから仕方ない』


「そ、そうそう。2回目だからまだ慣れてないんだ……許してくれ」


『許さない』

『許さない』

『俺は許すよ!!!』

『でもこいつが──』


「もういいよその流れは!!」


 ……しかし困ったな。このアプデはかなり時間が掛かりそうだし。別ゲーで時間を潰すのも違う気がするからなぁ。それなら……。


「んーじゃあ……アプデが終わるまで、雑談でもしようか?」


 俺のその言葉に……コメント欄は狂喜乱舞するかのように、盛り上がるのだった。


『やったああああああああああ!!!』

『きたあああああ』

『生きててよかった』

『ルイの雑談だぁ!!』

『よっしゃ! ラーメン用意してきます!!!!』


「…………そんな喜ぶことか?」

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