第20話 彩花からのお誘い
──
……そんな訳で6時間後。
「だぁぁああああっ……マジで疲れたぁ……」
バイトを終えた俺は、自宅へと帰還していた。ああ、謝罪配信からのバイトは中々にハードだったぜ……やっぱりバイトの時間、少し減らしてもらおうかな……うん、そうしてもらおう。じゃないと俺の身体が持たないからな──
「……ん?」
そんなことを考えていると、スマホから着信音が鳴り響いてきて。手に取って見ると、そこには『彩花』の二文字が表示されていたんだ。ああ、そういや彩花と最後に連絡取ったのって、初配信の前だったっけ……まぁ昨日のことなんだけど。
結構疲れてるけど、向こうから掛けてくれたみたいだし。お礼も言いたかったから、丁度良かったや……そう思った俺は応答のボタンをスライドして、電話を取ったんだ。
「もしもし?」
そしたらいつもの彩花の声が聞こえてきて。
『もしもーし、類ー? そっちから連絡しにくいだろうと思ったから、こっちから掛けてあげたよー?』
「えっ? どういう意味だ?」
俺がそう尋ねると、少しだけ彩花は言い淀んで……。
『んーと……放送事故のこと、忘れたの?』
「あ」
放送事故、という単語でまた嫌な記憶が蘇ってくる……ああ、そうだよな! 彩花だって俺の初配信、ちゃんと見てくれたはずだもんな! ってことは、配信切り忘れた後の俺の行動も見てない訳がないもんな!!
ラーメン啜りながら、レイのセンシティブ切り抜きを見ている俺のことをッ……!
「……え、えーっとだな。その、アレは何というか……VTuberについて勉強しようと思って、切り抜きを見てて……それでまぁ、間違えて押したと言うか……」
『……』
俺は喋りながら何とか言い訳を探していったが、彩花は何も答えないままでいた……えっ、もしかして怒ってるのか……?
……いや普通そうだよなぁ! だってあんな何万人も見ていた配信で、自分の恥ずかしい切り抜き流されたら、誰だって怒るよなぁ! 俺だったら怒るもん!!
これ以上、下手な言い訳してもマズいと思った俺は作戦を切り替え……謝罪する方向へと舵を切ったんだ。
「いや、ごめんって彩花! でもマジでわざと流した訳じゃないんだよ!! 信じてくれ!!!」
……そーんな必死な俺の謝罪が功を奏したのかは知らないが。彩花は徐々に笑い声を大きくしていって。
『……ふふっ、ははっ、あははっ! 分かってるって! 類が自分からそんな動画見る訳ないもんね! ちょっとからかっただけだよ!』
「あ、そう……なら良かったよ……」
いや別にからかわれるのは良くはないが。怒っていないのなら、ひとまず安心したよ……。
「……ちなみに。あの『フィット×フィット』の動画、彩花は狙ってやっていたのか?」
『狙ってって?』
「いやだから……そういう声を出したら、視聴者は盛り上がると思ったとか、切り抜きされて話題になると思ったとか……」
『…………それはナイショ』
「あ、そう……」
まぁ内緒ってことは、そういうことなんだろうな……意外と彩花は策士ってこと知ったし。チャンネルを伸ばすために、色々と頑張っているんだろう……今更だけど、レイのチャンネルって何年目なんだろうな……?
『……ま、切り忘れとか色々あったけど、類のことはめちゃくちゃ話題になったし。結果としては大成功なんじゃない?』
「そうかなぁ? 俺としてはあんまり納得いってないんだけど……いきなり変な設定付けられちゃったし。全部、切り忘れた俺が悪いんだけどさ」
『それってラーメンのこと?』
「ああ」
まぁ他にもレイ好きだの、幼女枠だの色々と言われたけども……魔道士がラーメン好きって、やっぱり世界観おかしくないか? それともみんなは気にしていないでくれているのか……そんな俺の悩みを察したのか、彩花はまた笑って。
『ふふっ、そんなに気にしなくても大丈夫だよ! VTuberってのは、キャラクターと中身がうまい具合に融合していって、徐々に形成されて……そして完成していくものじゃないかなって、私は思っているんだ!』
「うーん……? 未だによく分からないな……」
『きっと類も後から分かるようになるって! とにかく……お疲れ様だよ、類!』
そして彩花も、俺に労いの言葉を掛けてくれたんだ。何だかんだ彩花って、誰よりも俺の初配信を心配してくれた人だもんな……俺もお礼を言っとかないと。
「ああ、彩花もありがとう。助かったよ」
『えへへ……あ、そうそう! 類に電話したのは、もう一つ理由があってね!』
「何だ?」
俺がそう聞くと、彩花はまた声のトーンを一段階上げて。こうやって言ったんだ。
『コラボのお誘いをしようと思ってさ! ねっ、類! 私とリリィちゃんと類の三人で、恋バナ配信してみない?』
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