第19話 配信、どうでしたか?

 ──そんなこんなで配信は盛り上がり……? 20分ほど時間は過ぎたんだ。謝罪配信だからパッと言って、パッと終わるつもりだったのに……どうしてこうなった。


「……えーっと、それでだな。今回みたいなことがあって、レイやリリィに俺のことを聞きに行く人がいたみたいなんだ。もちろん俺を心配してくれてのことだろうが……迷惑行為には変わらないから、今後はそういったことは控えるように頼むよ」


『ごめん』

『許してよ』

『分かった』

『でもルイがまた切り忘れたらどうすればいいんだ?』

『あたしがレイに連絡して、家凸してもらうから大丈夫だぞ!!』

『まだリリィちゃんいて草』


「いやリリィ、次は通話もつながるようにするから大丈夫だってば。まぁ……これ以上失うモノは何もないから、そんなに怯える必要も無いんだけどな」


『草』

『草』

『草』

『ちゃんと怯えてくれ』


「はい……じゃあ今日のところはこの辺で。ルイ民のみんなも、昼からの仕事や勉強頑張るんだぞ?」


『嫌です』

『当然ノージョブです』

『勉強したくないよおおおおおお!!!!』

『このままゲーム配信やらない?』

『退屈な謝罪配信なんか抜け出して……次の枠、行こ?』


「パーティー抜け出す人みたいに言うな。それに俺だってな、これからバ────」


『ば?』

『ば?』

『バイト?』

『バイトか?』

『バカンスだろ』


 あ……やべっ。これ以上墓穴を掘る訳には……!


「……じゃなくて、補習があるんだ。だからこのまま配信を続けることは出来ない」


『そっかー』

『残念』

『優等生なのに補習あんの?』

『家系ラーメン店のバイト頑張ってください!!!!』


「まぁ優等生にも色々あるんだよ。それじゃあみんな、お疲れ様。次はちゃんとした配信で会おうな」


『おつ』

『乙』

『おつルイ』

『おつレイ』

『おつラーメン』

『おつ麺』

『ラーメン』

『麺麺』


「やっぱり挨拶は統一するべきなのか……?」


 そんなことを呟きつつ、俺は配信を終了したのだった。


 ──


 終わった直後、またネモさんから電話が掛かってきた。きっと配信を見てくれてたのだろうな……俺はノータイムでそれを取る。


「もしもし根元マネージャーですか? 配信、どうでしたか?」


『どうでしたって……ルイ君はあれで良かったんですか?』

 

「えっ、まぁ……はい。ちゃんと謝罪は出来たし、それなりに良かったと思います。視聴者もそんなに怒らず、笑ってくれましたからね」


 そしたら数秒間の沈黙の後……ネモさんは口を開いて。


『そうですか。だったら私が言うことは何もありませんよ……お疲れ様です、ルイ君』


「あっ、えっ……?」


 まさか労われると思っていなかった俺は驚いて、声が出なくなってしまったんだ……それでネモさんは続けて。


『どうして驚いてるんですか?』


「いや、だって、俺が無理やり謝罪配信して、根元さんに迷惑かけたのに……!」


『ああ、そんなのいいんですよ。マネージャーってそういう仕事ですから。それに……』


「それに……?」


『ルイ君の放送、とっても面白かったですもの!』


「……!」


 俺はハッと目を見開く。視聴者のコメントでは、みんな面白いと言って笑ってくれてたけど……こんな風に直接、配信を褒められたのは初めてで。俺はめちゃくちゃ嬉しいと思ってしまったんだ。


「あ、ありがとうございます! あの……今更ですけど、こんな何も分かっていない俺のマネージャーなんて大変だと思いますけど……これからよろしくお願いします! 根元マネージャー!」


『ふふっ……ネモでいいですよ?』


「えっ?」


『ネモでいいと言ってるんです。まぁ、あまり好きなあだ名ではありませんでしたが……不思議とルイ君なら許せる気がするんです。だからルイ君が呼びたいように、私のこと呼んでくださいよ?』


「え、いいんですか!? じゃあネモさんって呼びます……ってうわやべっ、もうこんな時間だ!! マジでバイト行かなくちゃ!」


 ネモさんと喋りつつ、壁に掛かっていた時計を見ると、もう針は12時過ぎを刺していた。今日は13時からのシフトなので、流石にそろそろ出る準備をしなくてはならないのだ。


「じゃあネモさん! そろそろ支度しなきゃいけないので、失礼しますね! 本当にありがとうございました!!」


『ええ。頑張ってくださいね、ルイ君!』


「……はいっ!」


 そう元気に返事をして通話を切り、俺はバイトに向かう準備をしたのだった。

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