第17話 マネージャーのネモさん

 ──その後の記憶はほとんど残っていない。ただ目覚めた時、枕元には普段飲まない、缶チューハイの空き缶が何本も転がっていたのだった。


 そんなワケで次の日。


「…………うっ。うああっ…………頭いてぇ……」


 俺はうめきながら身体を起こす……非常に身体がダル重い。ンだよ……俺が何したってんだよ……? 俺はこの世界に逆ギレをかましながら、地面に転がっていたスマホを手に取ったんだ……そこには。


「…………うげ」


 酔いも覚めるほどの着信履歴とメッセージが残っていた。相手は彩花と、マネージャーさんと……ちゃっかりリリィもいるし。とりあえず優先すべきは……マネージャーだろう。俺は彼女から届いてたメッセージを開いたんだ。


『配信切れてませんよー!』

『おーい!!』

『「不在着信」』

『なにゆったり切り抜き見てるんですか!!』

『SUSURU!!??』

『それはまずいって!!』

『良かった気づいた!』

『「不在着信」』


 ……何で途中、すするで歓喜してんだよ。俺は更に下へとスライドした……。


『電話出てください!!』

『もしかして寝ました?』

『「不在着信」』

『じゃあ起きたら速攻私に折り返してください!!』

『速攻ですよ速攻!!』

『いいですねッ!!』


 何で最後○ョジョみたいになってんの……? とりあえずまぁ……折り返せと書かれていたので、俺はマネージャーさんに電話を掛けたんだ。そしたら何コールか後に反応があって。


『もしもし、ルイ君ですか!? やっと起きたんですか!?』


 と、強い口調でありながらも、どこか笑ってしまうような可愛らしい声が聞こえてきたんだ。ちなみに今更だが、俺に付いてくれたマネージャーさんは、根元ねもとさんという女性の方である。別に会ったりはしていないため……顔や年齢など、それ以上の情報は得られていない。


「あ、はい、起きました……おはようございます」


『もうこんにちはの時間ですよ! まったく……』


 その声を聞いた俺の頭の中では、小さな女の子が腕を組んで、プイっとしているような光景が浮かんできたんだ……オタクの想像力もここまでくると笑えますね。


「えっと、今……何時っすか?」


『午前11時半です! みんな眠たい中、お仕事を頑張っているお時間ですよ!』


 午後から働く人もいるんじゃないの? という屁理屈は置いといて……午前中ならまだおはようって使えそうじゃない? まぁそんなこと言うと、また怒られそうだから黙っておくけど……。


『それでですね、ルイ君! 昨日とんでもない放送事故起こしたでしょ!!』


「う、うああああっ……!! ……思い出したくもないです……!」


 放送事故、というワードで俺の頭は更に痛みを増す。確か昨日、俺はとんでもないことをやらかしたはずだが……ダメだ、どれだけ過去を美化しようとしても、嫌な記憶だけが蘇ってくるよ……!!


『そういう訳にはいきません! まずはルイ君、昨日非公開にした動画を公開してください! もちろん、事故の部分は編集で切り取ってですよ!!』


「あっ、はい……今からですか?」


『当然です!! アーカイブで見ようと思ってた人だって、大勢いるんですよ!!』


「そ、そうっすよね……」


 そりゃ、みんながみんな生で見られるとは限らないしな……俺は電話を繋げたまま、パソコンを起動させたんだ。えっと、編集ってどうやってやるんだっけ……?


『あとですねルイ君! それが終わったら、つぶやいたーの更新もしてください! あれから音沙汰が無くて、みんな心配してるんですよ!』


「えっ? ああ、左様でしたか……」


『さようです! レイちゃんとかリリィちゃんにも鳩が飛んで、みんな迷惑してるんですよ!!』


 鳩が飛ぶ……? 何だそれ。そういう言い回しでもあるのだろうか?


「……とにかく、つぶやいたーも更新すればいいんですね?」


『そうです! ご自身の言葉で謝罪をしてください!』


「はい……承知しやした……」


 そして俺は何とか編集をし、放送事故部分の箇所を切り取って、俺の初配信のアーカイブを公開したんだ……まぁどうせ放送事故の切り抜きは、消せないほど上がってんだろうけどなぁ……。


『……公開しましたか? 次はつぶやいたーです!』


 マネージャーは俺の手を休めないよう、定期的に声をかけてくる……だが二日酔い状態の俺は頭が回らず、何かもう限界に達しそうだったんだ。


「…………ああ。ダメだ、思いつかない。どれだけ言葉を練ろうと、ルイ民のみんなに馬鹿にされる未来しか見えないっすよ……」


『あのですね……ルイ君! あんまり私から方針とかキャラを決めるような、そういったことはしたくないんですけど……もうルイ・アスティカはクールキャラでやっていけないです! 確実に!!』


「ですよねぇ……」


 初配信の内容だけなら、まだボロは出てなかっただろうけど……あの切り忘れ後の言動を全部見られてしまったら、もう最強魔道士なんて名乗れないよ。レイのエッチな切り抜き見て、ラーメン啜ってる変態でしかないもん……。


 ……はぁ。もう俺は一生お笑いキャラで行くしかないというのか……? こんなにカッコいいキャラクターを貰ったというのに……!! 女性人気も狙えたかもしれないのに……!! ちくしょう……ちくしょおぉぉぉぉ……!!


 ……もうこれ以上何も考えたくなかった俺は、マネージャーにひとつ。こんな提案をしてみたんだ。


「……あの、ネモさん」


『何ですか急に変な呼び方して……ちゃんとマネージャーって呼んでください』


「……根元マネージャー。今から配信してもいいですか?」


『えっ……うええっ!? 何で!!??』

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