第16話 切り抜きを見るルイ その2

 そして俺はお湯を注いだラーメンを片手に、また切り抜き動画を漁っていた。ふむふむ……来夢さんの別の動画も参考になりそうだし……お。伊吹さんの『テドロイド』実況動画もあるじゃないか。これは困ったね。


(テドロイドとは……選んだ選択肢によって物語が変わっていく、配信者の色がよく出る、アクションアドベンチャーゲームのことである)


「うへへへ、どれ見ようかな……」


 気色悪い笑い声を上げながら、俺は様々なサムネを見ていった……ふむ。やはりここは伊吹さんのテドロイド実況で、ラーメンを啜っていくことにするか。


「…………啜る〜!!」


 俺は少し前に流行っていた、ラーメン系YooTuberの挨拶を真似した……何かもう練習のおかげか、独り言を言うのに抵抗が無くなってきたぞ。これが†成長†ってヤツだろうか……?


 そして伊吹さんの動画を開き、俺は深く椅子に腰掛けて動画を眺めたんだ……おっと、そろそろラーメン出来上がった頃だろうか。俺はペリペリとラーメンの蓋を全て開ける……うむ、こってりとした良い匂いだ。


『こんばんは、基山伊吹です。本日はこのテドロイドというゲームを実況していきたいと思います』


 流石伊吹さん、丁寧かつシンプルな挨拶だ。俺もこういう挨拶真似したいけど、きっと茶化されるかなぁ? ……考えながら割り箸を割る。


『あ、声が小さいですか? 調整しますね』


 画面の中の伊吹さんは、丁寧に音量の設定をしていった。俺もこういった気遣い出来るようにならないとなぁ……と思いながら、ラーメンを啜る。そこで……画面右にある関連動画欄に『レイちゃんのセンシティブボイスまとめ』という動画があるのに気がついたんだ。


「……センシティブ?」


 俺は箸を止める……センシティブってなんだっけ。何かつぶやいたーでよく聞く単語だけど、どういう意味だろう? 俺の英語力じゃ分かんねぇや……まぁ。伊吹さんにも『レイの配信、見てないんですか?』って言われたし。アイツの切り抜きくらいは確認しておこうかな。


 そう思い、俺は伊吹さんのテドロイド実況動画を『後で見る』再生リストに追加して、俺はそのレイの切り抜き動画をクリックしたんだ。


 そして画面に表示されるは『フィット×フィット』という、ニャン天堂のフィットネスゲームのストレッチ画面と、夏服? を着たレイの姿だった────


『……あっ、キツイっ……あっ、はぅっ……! んっっ……! ふああっ……!!』


「ゴバハガッ!!?!?!?」


 艶めかしい彩花の声を聞いてしまった俺は、反射的にラーメンを吹き出す。え、何なになになにナニこれ!?!?


「そんな声出んの!!??」


 俺は画面にツッコむ……そのツッコミが正しいのかはさておき、俺の吹き出したラーメンの汁は、モニター、キーボード、そして裏返しにしたままのスマホに思いっきりぶっかかってしまったんだ。


「ああ……センシティブってこういうことかよ。とにかく早くティッシュ、ティッシュ……」


 俺はテカテカになってしまった機器類をどうにかしようと、ティッシュを箱ごと持ってきた。そして急いでそれらを拭いていったんだ……。


「うわぁ……スマホもビショビショ……いやコテコテだよ。電源入るかなこれ……」


 でも最近のスマホは防水機能も付いてるし、多分大丈夫だろう……と俺はテカった手でスマホを取り、電源を入れたんだ。そしたらロック画面に出てくるはおやすみマーク。ああ、そういや通知とか電話とか来ないように全部オフにしてたんだっけ。


 思い出した俺は、おやすみモードを解除した……そしたら止まらんばかりに溢れ出る通知。そのメッセージの相手は彩花は当然のこと、マネージャーさんやまだ絡んだことのない先輩VTuberの方々。そして視聴者のからのつぶやいたーも大量に届いていたんだ。


 そこに書かれているメッセージの内容は一様に『配信切り忘れてますよ!!』で……………………え。え、え。ちょ、えっ? へっ?


「……え、まって、まってうそうそうそ、ちょ、へ、やばいやばっばい」


 コテコテの指がなんのやら。俺はマウス手に取り、配信ページに向かったんだ。そこには…………。


『やっと気づいた!!!!』

『やっほー! 見てるールイくん?』

『初っ端からやってしまったねwww』

『大丈夫! 俺は何も見てない! レイちゃんのエッッッな動画を見てたことなんて知らないから!』

『失望しました。チャンネル登録と高評価しました』

『もう一回啜るーって言ってください!!!』 


「……………………」


 馬鹿みたいに盛り上がってるコメント欄があったんだ……ヤバい。ねぇ、ヤバいってこれぇ!!!!


「……え、えっと…………みんな。これ、ずっと流れてた?」


『うん』

『うん』

『まぁ……』

『流れてないよ!!!!』

『草』

『草を生やしていいのか分からない』


 …………ああ。終わりだ。俺の、VTuber人生……スゲー早かったな……。


「…………一旦アーカイブ非公開にします。編集して、きっとまた出すので……」


『いいよ』

『了解』

『ルイのために切り抜きは止めたげてな』

『でももうつぶやいたーにも流れてるしなぁ……』

『ルイルイらいぶ、トレンド一位で草』


「……えー。それで。切り忘れで多くの方々に迷惑とご心配をおかけしました……ほんっっっっとうに申し訳ございませんでした!!!!」


『いいよ』

『大丈夫だよ』

『俺は許すよ』

『だがこいつ(レイ)が許すかな!!』

『もうテンプレ出来てて草』

『面白かったしいいんじゃね?』

『個人情報とか言わなくてマジで良かった』


「視聴者のみんなも心配させてごめんね!!!! じゃあ本当にまた!!!!」


『乙』

『おつルイ』

『おつレイ』

『おつレイー』

『二回目の初配信でも神回を起こす男』

『やっぱこいつ、伝説か?』

『まーたルイが神回作ったのか』

『冷静に考えて、二回目の初配信っておもしろすぎるwww』

『一生推すぞ、ルイ』


 ……そして俺は逃げるように配信を切るのだった。








「…………うっ。うわぁぁああああぁぁああぁぁぁあああッ!!!!!!」

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