第15話 切り抜きを見るルイ その1

 そんな配信されたままの状態になっていることはつゆ知らず……俺は完全に素の声に戻っていたんだ。


「ふぁぁーあ……ねみぃ」


 プレッシャーから開放された俺は、大きな欠伸をした……さて。これから何をしようかな。エゴサは……何か怖いから止めておくか。ボコボコに言われてたら普通に立ち直れないし。するにしても、もっと精神が安定してる時にやるべきだろう。


 彩花に電話……はしなくてもいいだろう。確かにアイツには元気づけられたけど。配信前にも配信後にも電話したら、何かアレみたいじゃないっすか。ほら……めんどくさい男女の関係のアレ。だからまぁ……お礼は今度会った時にでもしておこうかな。きっとそれでも彩花は許してくれるはずだ。


 でも寝る……にしても少し早い気がするなぁ。今は午後9時前だし、明日のバイトも午後からだったはずだ。まぁだからといって、アーペのランクを上げる元気は流石に残ってないしなぁ……んじゃ、とりあえずは……。


「飯でも食うかな……」


 夜飯を食べていなかったことを思い出した俺は、キッチンに向かったんだ。もちろん自炊する元気も無いし、弁当も無いから……結局はいつものこれになる訳で。俺はダンボールに積まれてある、カップ麺のひとつを手に取ったんだ。


「やっぱこれだね~とんこつラーメン」


 呟きながら俺は好物のカップ麺の蓋を開けて、電気ケトルでお湯を沸かす……そのお湯が沸くまでの間、俺はリビングに戻って、パソコンで動画でも見ることにしたんだ。


 鼻歌を歌いながらカチカチとクリックし、YooTubeを開く。ここ数日、VTuberの知識を得るために、VTuber関連の動画ばかり見ていたから、俺のホーム画面はVTuberの配信やその切り抜きで埋まってたんだ。それじゃあせっかくだし……。


「勉強しとこっかな」


 でも勉強と言っても、VTuberの先輩は皆面白い人ばかりで、実際俺はそのVTuberというコンテンツを普通に楽しんでいたんだ。まぁ、俺がこの中の一員に加わっているという実感は、未だに無いんだけどな……おっ。『天才スナイパー蓮見来夢はすみらいむ、圧倒的な実力を見せ付け20キル』か……これは気になるねぇ。


 確かこの蓮見来夢という少女は、スカサンに所属してるライバーの一人だったはずだ。調べていたから存在は知っていたが……そんなにゲームが上手い人だったのか。これはチェックせねばな……俺はその動画をクリックした。


 広告の後、動画は再生された……どうやらゲームはアーペのようで、画面端にはヘッドホンを首にかけている、紫髪赤目のVTuberの少女は、ぴょこぴょこ左右に動いていた……って。


「……えっ?」


 思わず俺は声を上げてた。アーペでは画面右下に持ってる武器が表示されるのだが……彼女の持っている武器は二丁とも長物と言われる、スナイパーライフルだったんだ。いやいや、流石にこれは初動でいい武器が拾えなかっただけだろ……?


『お。いいの落ちてるよー』


 画面の中の少女はダウナーな声で、強武器と呼ばれているサブマシンガンにピンを刺した……いや、何でだよ!


「拾わんのかい!」


 思わず俺は画面にツッコむ……そしてどうも彼女は、激戦区と呼ばれるプレイヤーが多く降下する場所に降りていたようで、複数の部隊による戦闘が繰り広げられていたんだ。


『ふふ、こんなにいい装備拾ったからには、負ける訳にはいかないねぇ』


 いい装備って……流石に初動スナイパーは外れに近いんじゃ……? いやサブマシンガン落ちてたんだけどね……とそんな俺の不安をよそに、彼女は動いて。民家に隠れながら、別部隊と戦っている敵キャラの頭を撃ち抜いたんだ……スコープ無しで。


「え、うまっ!?」


 また俺は声を上げてしまう……そして来夢さんは当然のように笑い声を上げて。


『へへー。よそ見しちゃだめでしょー』


 そうやって言いつつ、来夢さんはリロードを挟む。そこで発砲音で気づいた敵が近づいて来るが……その敵にも落ち着いて照準を合わせて、一発、二発と弾を直撃させ、相手キャラをノックダウンさせたんだ。


「ええ……強すぎだろ……」


 あまりの上手さに俺は絶句していた……そして彼女は誇らしげに。


『まぁー、スナイパー持ったウチの前に立つなんて、それはもう倒してくださいって言ってるようなものだから……』


 その間、他の敵がスキルを使って、こっそりと裏取りしていたらしく……突然背後から銃声と、アーマーの削れる音が聞こえてきたんだ。


『ふぎゃあっ!? ちょ、やばっ、助けっ……!!』


 そこで撃たれていることに気づいた仲間が駆けつけたようで、その敵をフォーカスして一気にダウンに持っていったんだ。

 

『…………ふぅ。やっぱり持つべきものは仲間だね。ありがと』


 そして何事も無かったかのように、落ち着いた声に戻った来夢さんは回復を巻き……また、物資を漁りに来た敵の頭を撃ち抜いていくのだった。ああ、ちょっとだけ人間っぽい、かわいい所が見れて安心したぜ……まぁ腕がバケモノなのは変わらないんだけど。


 で……俺はその動画を夢中で最後まで見て……そして終わった頃にようやく、ケトルでお湯を沸かしていたことを思い出したんだ。


「……あ。やべ、忘れてた」


 それに気づいた俺は立ち上がって、ケトルの方へ歩いて行ったんだ…………まぁ。配信のためにマナーモード+おやすみモードにしていたスマホの通知が、とんでもなく溜まっているのに気づくのは……もう少し後になってからなんですけどね。

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