第6話 いーや類、絶対この子好きだよね?
──彩花の家に到着した俺は自転車から降り、インターホンを鳴らす。そしたら鍵の開く音がして、扉から出てきたのは……。
「えっへへー。やっぱり来てくれたね、類!」
ニヤニヤと笑みを浮かべている彩花だったんだ。
「はいはい、来てやったぞ」
俺はわざと素っ気ない態度を取ってみるが……どうせこいつにはバレてるんだろうなぁ。
「ふふ、本当に嫌なら来ないでしょ?」
「うるせー」
「あははっ! それじゃあ、上がって?」
「ああ」
そして家に上がった俺は、彩花に案内されて階段を上り……また『レイ』のポスターが貼られている、彩花の部屋へと入ったんだ。
彩花は部屋の扉を閉め、また丸椅子に座るよう俺に促した……別に断る理由もないので、俺はそこに座ったんだ。
「それで……何で俺を呼び出したんだ? 説得しようとしても無駄だぞ?」
「まぁーまぁーいいから。一回『スカイサンライバー』の所属ライバー見てみない? 個性的な子ばかりで面白いんだよー?」
「見てみないって言われても……確かそこ、100人近くいるんだろ? 全員見る時間なんてないだろ」
「おお! よく知ってるね! だから類が気になった子選んでよ! その子の面白い切り抜きとか見せてあげるから!」
そう言って彩花はゲーミングチェアに座って『スカイサンライバー』のホームページを開き、所属タレント一覧の画面を見せてきた。俺はマウスを受け取り、そのページを眺めていったんだ。
「いや、気になった子って言われてもなぁ……うお、本当におじさんのキャラクターとかもいるんだな」
「そうだよ! おじさんも意外と人気なんだ!」
「ふーん、そんなことあるのか」
イメージ的に美少女達がキャッキャウフフしてるのが、VTuberだと思っていたんだが……意外とそんなことはなかったようだ。やっぱり世界って広いな。
「それで……類はどの子が気になるの?」
「え、だからこのおじさん……」
「おじさんはナシ!」
「何でだよ」
「いやーおじさんはねー。番組で共演した時、優しくて面白かったんだけど……放送はあんまり見てないから分かんないんだよねー。麻雀配信とかが多いからさー」
え、番組って……? VTuberって、そんなタレントみたいなことやってんの?
「彩花……番組って何だ?」
「ああー。ライバーには、番組とかラジオとかやってる子がいるんだよ。規模はまちまちだけど、運営さんが協力してるやつは、ちゃんとしたスタジオとか借りてやってるんだよ?」
「そりゃまたすげぇな……」
もう本当のアイドルみたいだ……いや、マジのアイドルよりもアイドルらしいことやっているんじゃないのか?
「じゃあ彩花も番組やってるのか?」
「ううん。私はゲストで出演するくらいだよ。そこでおじさんと共演したんだ!」
「へぇーそうなのか」
まぁ番組って週一とか、少なくても月一くらいでやるもんな。だから時間が取れる人がやったりするものなんだろうか……いや、全然知らないけどな?
「それで結局、類はどの子が好きなの? できれば女の子だと助かるな!」
「何でだよ」
「だって私と関わりが多いのって、女の子のライバーだもん! 女の子なら大体は喋ったことあるからさー!」
「あ、そうですか……」
いや、つってもな……彩花の前で選びにくいんだよな。ここにいるのみんな美少女だし……性癖みたいなの彩花に知られたら、めちゃくちゃ嫌だもん。まぁだからと言って……ここで『レイ』を選ぶような勇気は、俺は持ち合わせていないんだけどな。
「…………」
一瞬、俺はスクロールの手を止めてしまった。カラフルな髪色の並ぶライバー紹介ページで、黒髪二つ結びの制服少女は、逆に浮いてるように見えたんだ。
「お、その子が気になるの?」
「まだ何も言ってないだろ……?」
しかし……こういった時の彩花は鋭いもので。すぐに俺の嘘を見抜くのだった。
「いーや類、絶対この子好きだよね? 類はこういうシンプルな子を可愛いって思っちゃうもんね?」
「お前は俺の何を知ってんだ……?」
……実際それは事実なので、強く否定出来ないところが憎いのだが。そして彩花はテンションを上げて、その子の説明をしてくれるのだった。
「ふふ、この子はね『
「ふーん。制服着てるけど、高校生なの?」
「うん! 高校生って設定!」
「設定ね……」
冷静に考えりゃ、そりゃそうか。マジの高校生なんて、中々採用出来ないだろうからな……。
「んーよし! それじゃ、いぶっきーの切り抜きでも見よっか! えーっと…………これとかどう?『トラックを横転させた後、火をつけて爆笑する基山伊吹』」
「いや、何をしてんのこの子は!?」
「あ、ごめん類! これパート2だった!」
「パート2!?」
俺は焦ったが、よくよくサムネを見ると、それはゲーム画面だったんだ……いやまぁ、それはそうだよな……リアルでそんなことやったら、お縄モンだもんな……。
「あ、パート1あったー。じゃあこれ見ようか!」
「ああ……」
そして俺は彩花の隣で、伊吹という少女の切り抜きを見ていったんだ。
……動画の内容は、声質も想像通りの大人しそうな子が、やりたい放題出来るオープンワールドゲームで、めちゃくちゃ犯罪行為を行うといったような切り抜きだった。ああ、確かにこのギャップは面白いかもしれないな……。
「あはははっ! いぶっきーやり過ぎだって!」
その動画を見て、彩花は腹を抱えて笑っていたんだ……そうか。VTuberってこんな風に見てる人たちを笑顔にさせる、思った以上に凄い人たちだったんだな。
「……ふふ」
「あー! 類も笑った!」
「いや笑ってねぇって……」
「いやいや、そんな強がらなくていいって! ここには私しかいないんだからさ!」
何気なく言った彩花の言葉に、俺はハッとしてしまう。そうだよな。彩花の前でさえ、感情を隠そうとするなんて……俺らしくないよな。
「……ああ、だな」
「ふふっ、それでいいの。類は類のまんまでさ!」
「……ははっ」
「あははっ!」
……そして俺らは他の動画にも飛んで、伊吹の切り抜きを見ていったんだ。彩花の母親が晩ごはんが出来たことを俺らに知らせるまで、その時間は続いていったんだ。
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