第5話 一緒にやろうよVTuber!

 ──そして配信が終わった後、俺らは各々スマホをイジっていた。俺は適当にソシャゲをやっていたのだが、どうやら彩花の方はエゴサをしていたみたいで……。


「ねぇ、類! 放送の反響が凄すぎてトレンド入りしてるんだけど!! 次のコラボいつですかってコメントもめっちゃ来てる!! こんなの初めてだよっ!!」


「ええ……?」


 俺はスマホから顔を上げ、困惑の声を上げる。いや別に配信の感想とかはどうだっていいんだけどさ……俺なんかとコラボして、話題になって大丈夫なの? 普通に嫌じゃない?


「いやレイ……じゃなくて彩花。彩花はそれで嬉しいのか?」


「えっ? そりゃー嬉しいよ! だってこんなにもたくさんの人が見てくれたんだからさ! ……あ、なんかデータ取ってる人によると、今回の放送が初配信の次に人が多く集まったんだって!」


「ええ……?」


 VTuberの初配信は注目されるから、同椄が多くなるのは何となく知っているが……その次が俺とのコラボって。やっぱりそれ、ファンから怒られない?


「えーえーばっかり言わないでさ! 類も感想見てよ! みんな面白かったーって言ってくれてるからさ!」


「はぁ、分かったよ……」


 俺は彩花から配信に付けられていたハッシュタグを教えてもらい、渋々『つぶやいたー』でそれを検索してみたんだ。どれどれ……?


「『超神回だった』『ルイ君とまたコラボしてほしい』『めちゃくちゃ楽しかった!!』『レイちゃんは知らん男とコラボしないでほしい』……だとよ」


「そ、そういう人もたまにいるけれど……大体は好意的な感想ばかりでしょ?」


「まぁーな」


 わざわざハッシュダグ付けて、感想を書き込むくらい熱心なファンなんだから、優しい人が多数なんだろうけど……呟いてないだけで、俺とのコラボをよく思っていなかった人もきっといるだろう。俺はその先まで見えているんだ。


「それでさ……類はどうだった? 配信、楽しかった?」


「楽しかったって…………まぁ、久しぶりに彩花と遊べたのは楽しかったよ。配信とかは関係なしにな」


「……ふふっ! そっかそっか! それなら良かったよ!」


 俺の言葉を聞いた彩花は、昔から変わることのない無邪気な笑顔を見せてくれた……ああ。俺はこの笑顔を見るために、彩花に色んなことを教えたりしていたんだよな…………はっ、いかんいかん。何をノスタルジックに浸っているんだ、俺は。


「でさ、類! 次のコラボはいつにする? 明日とかはどうかな?」


「おいおい……さっき俺が言ったこと忘れたのか? 放送に出るのは今回だけ……それに明日は一日中バイトが入っているから無理だ」


 彩花は今夏休みだろうが、フリーターの俺にはそんなものは無いんだ……それで俺の言葉を聞いた彩花は一瞬だけ悲しげな表情をしたが、すぐに元に戻って。


「そっか……じゃあまた今度ね! 一緒に遊ぼ?」


「ああ、それは別に構わないけど……他に遊ぶ相手いないのか? 俺なんかよりもっと大学の友だちとか、他のVTuberと絡んだりすればいいのに……」


「……やっぱり類って鈍感」


「え?」


「ううん、何でもないよ。それじゃあーまたね、類?」


「ああ、またな」


 少し気になる発言はあったが、特にそれには触れないでおいて……荷物を持って、俺は彩花の家を後にしたんだ。


 ──


 それから彩花の配信に出演して、数日が経った。その間、俺は何事もなく過ごしていたのだが……。


「……ん?」


 ある日のバイト終わり。俺のスマホには彩花からの着信と、ひとつのメッセージが届いていた。メッセージを開いてみると『大変なことが起きたから、早く折り返して!!』とだけ書かれてあったんだ。


『大変なこと』という彩花の大雑把な説明に、少し嫌な予感がしたが……まぁ、これを無視する訳にはいかないだろう。思った俺は彩花に電話を掛けた……そしたらすぐに応答してくれて。


『もしもし、類!?』


 焦ったような彩花の声が聞こえてきたんだ。


「彩花、何かあったのか?」


『うん! あのね、すっごいことが起こったんだよ!!』 


「凄いこと?」


『うん! 類さ、前に私の配信出てくれたでしょ?』


「ああ……」


 もうその記憶はかなり、脳の端っこの方に追いやられていたのだが……何か問題でも起こったのだろうか?


「もしかして、炎上でもした?」


『いや違うよ!! あの配信を見た運営さんが、類のこととっても面白いって言ってくれてさ! ウチの事務所に入ってほしいって言ってて……! それで、私からお願いしてくれないかって言ってきたんだよ!!』


「…………はい?」


 彩花の言葉だけの説明じゃ、よく意味が分からないんだが……要するに。


『つまり、類は企業のVTuberにスカウトされたってことなんだよ! こんなこと中々無いから、とっても凄いことなんだよ!?』


 …………えーと? 俺が……VTuberに? ……冗談も休み休み言ってくれ。


「断る。俺はそんなのならないぞ」


 そしたらまた、彩花の大声が耳元に飛び込んできて。


『えーーっ!!? 何でさ! 一緒にやろうよVTuber! 楽しいよー!?』


「いや、楽しいって……俺は人を喜ばせるようなことは出来ないし。そもそもVTuberのことなんてよく知らないんだ。そんな俺がなれる訳ないだろ?」


『なれるよ! 私だってなれたんだからさ!!』


「それはお前が面白いし、話も上手いからだろ……」


『私は、私よりも類の方が面白いと思っているし! それにゲームだって類の方が上手じゃん!!』


「まぁ、ゲームはな……?」


 逆に言えば、それぐらいでしか彩花に勝る所が無いんだけど……つーか俺よりゲーム上手いやつなんて、そこら中にいるっていうのに……。


『とにかく! 今から私の家に来てよ! バイトが終わったなら来れるでしょ?』


「何でだよ。どうせまた配信とかするんだろ?」


『いや、絶対しないから安心して! それに……ほら! ウチで晩ごはん食べてったらいいじゃん! 昔、家によく来てたでしょ?』


「昔過ぎだろ……それ、俺らが小学生ぐらいの時の話じゃないか?」


 今更だが彩花は実家暮らしなのに対し、俺は一人暮らしだ。だから幼馴染とはいえ、もうお互いの家はそこそこ遠いんだけど……。


『いーじゃんっ! ママに類が来ること伝えとくから、絶対に来てよねっ!』


「あっ」


 一方的にそう言われて、通話は切れてしまったんだ。はぁ……全く。どこまでも勝手な奴だよ、彩花は。


 …………でも実際、今月はゲームに課金しまくって、かなり金銭的にピンチなんだよな。だから彩花の家に行って、夕飯代が浮くのなら……あわよくばおかずとか貰って、何日間かそれでしのげると言うのなら……。


「はぁ……背に腹は代えられない、か」


 そうやって決めた俺は自転車に乗り、バイト先から彩花の家に向かったのであった。

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