第3話 即死コンボはやっぱり盛り上がる

 ──そして俺らは何回かレースをプレイしていった。結果は全部……俺の勝ちだった。


「くそぉー!! また負けたぁー!?」


 いつもの彩花とそこまで変わらない声で、悔しそうに言う。わざわざ彩花がタイマンにしてくれたお陰で、実力差がはっきりと出るようになってしまったんだ。


『レイ虐助かる』

『流石にルイくん上手すぎね? プロ?』

『正直レイを馬鹿にしてる奴らでも、ここまで大差で勝てないだろうからな』


 コメントに乗せられて、つい気持ちよくなってしまう。ああ、配信ってこんなに楽しいものだったんだな……いや、俺が彩花をボコってるのが単に楽しいだけなのかもしれないが。


『ルイ君は上手いのに何で配信しないんですか?』


 次のコースのロード中、いい感じのコメントがあったので、俺はそれを拾ってみた。


「ルイは上手いのに何で配信しないのか……それは単純にやり方が分からないからだね。それに配信って面倒そうだし」


 ゲームが上手いのに動画あげたりしない人の理由って、ほとんどそんな感じだと思うよ。だって機材とか編集とか全然分かんないし……調べてたとしても、それらを揃える勇気とお金が無いんだよな。


『えーもったいない』

『始めたら推すのに』

『レイに教えてもらったら?』


 まぁ、確かに彩花に教われば出来るかもしれないが……別に俺は配信者を目指している訳ではないんだよなぁ。


「えっ? 配信したいのなら私が教えてあげてもいいけど……あ、ダメだ。愛してるレイガール達を類に取られてしまうじゃん……!!」


『草』

『草』

『草』

『草』

『レイボーイはいいのかよ』


 おお、すげぇウケてる。まぁ、なんだかんだ彩花も面白いこと言えるもんな……そんなことを思いながら、俺は緑まりも(投擲アイテム)を後ろにくっついて走っているまりピオのマシンにぶち当てるのだった。


「キャーーッ!!!??」


「うっさ」


『うるせぇ!!!』

『鼓膜破壊された』

『パソコンから音出なくなったんですけど』

『怨 霊 注 意』

『草』


 彩花は叫んだ後、ホームボタンを連打してゲームを中断し……そこから別のゲームを開始させたんだ。


「ふ、ふふふっ…………さっきまでのはお遊びだよ、類……!! 私が本気を出せば類なんか、ボッコボコなんだからね……!?」


『きたあああああああああああああ!!』

『闇堕ちレイキタぁ!!』

『初めて生で見れて感動してる』

『はい切り抜き』


 またコメントが盛り上がってるけど、次は何が起こったんだ……?


「レイ、どうしてコメントが爆速になったんだ?」


「あ、それは私が闇レイに変身したからで……」


「えっ? どこが変化したんだ? 絵も何も変わってないじゃないか」


「いや、そ、そういうことじゃなくてね……?」


『説明させられてるの草』

『こーれは恥ずかしい』

『やめたげてよぉ!』

『なんかいつの間にかスマファイに変わってて草』


 書かれたコメントを見てゲーム画面の方を向くと、そこには人気対戦アクションゲーム『スマッスファイターズ』(以下「スマファイ」)のタイトル画面が映っていた。


 このゲームも説明不要だと思うが、スマファイは様々なキャラクターがぶっとばし合う愉快なパーティーゲームで、非常に人気のある作品である。もちろんエンジョイ勢だけでなく、ガチ勢からも支持されているゲームだ。


「とにかくっ、次はこれで勝負だよ!! これだってめちゃくちゃ練習したんだからね!!」


「あ、そうなんだ。中学の時、俺がボコって泣いちゃったから、てっきりもう止めたのかと思ってたよ」


「……」


 途端に彩花は黙り込む……あれ、そのことバラされるの嫌だったか?


『ん?』

『あ』

『おっと?』

『まずい』

『中学?』


 …………あー。そういうことか。そういやレイの設定って……。


「何変なこと言ってるの、類! 私らは魔法学校『オーウェン』に通ってるじゃんか!」


「……あー。そうだったな」


 どれだけ俺からボコボコにされようと、ロールプレイは忘れていないらしい。彩花って意外にこういうところは律儀なんだよな……そして彩花はルールを選び、キャラクター選択画面まで移動させたんだ。


「それよりやるよ! 私の使うキャラは……『アツヤ』だっ!!」


『うわでた』

『容赦ないなレイ』

『魔法使いキャラ使えってwww』


 彩花がキャラを選ぶだけで、コメントは盛り上がりを見せる……ちなみに彩花の選択した『アツヤ』は格闘ゲーム出身のゴリゴリのパワーファイターで、即死コンボも狙える凶悪なキャラクターである。それゆえ、かなりヘイトの高いキャラなのだが……もうこいつ、俺に勝つことしか考えてねぇな。


 まぁ別にそれはいいんだけど。VTuberのキャラ的に、もっと可愛いファイターを使うべきなんじゃないか……ってのは俺の余計なお世話か?


「じゃあ俺も」


 それなら負けじと、俺も『アツヤ』を選択した。


「おっ、同キャラ被せ……被せていいのは、被される覚悟のあるやつだけだよ!!」


「別にレイ、俺の持ちキャラ使えないだろ」


「……うしゃー、いくよー!! れでぃーとぅーふぁいとー!!」


「誤魔化すな」


 そして彩花はバトルスタートを押して、対戦を開始させた。予め彩花がステージも選択していたようで、ステージは『オメガ』という何の障害物も置かれていない、平坦なステージが現れたのだった。


『オメガ厨きたあああああああ!!!!』

『もう別ゲーだろこれ』

『原作でやれ』

『オメガでミラー対決は熱い』


「よっしゃー! いくよ!!」


 試合開始の合図で彩花のアツヤは、俺の方へ近づいてくる……だが遅い。俺は特殊なコマンドで無敵の付いたステップを繰り出し、相手の攻撃を無効化した。


「えっ!?」


 そして俺はアツヤを掴み……下投げからコマンド技『最速氷結拳』で相手を凍らせ、その凍った隙に地面へ叩き落とし、また最氷で相手の動きを止めたのだった。


「えっ、ちょっと、待って待って待って!!!」


 俺は冷静にそのコンボを繰り返し、ある程度ダメージが溜まったところで……。


「おらあっ!」


 豪快なアッパーを繰り出し、当たった相手のアツヤは星になって消えていくのだった。


『上手すぎるwwww』

『完璧過ぎて草』

『こーれはやり込んでます』

『プロじゃん』


「え、ねぇ、ちょっとぉ、類!! さすがにヒドくない!!!?」


「あはははっ!」


 あまりにも綺麗に決まったので、思わず俺は笑ってしまう。


『ゲス笑い助かる』

『声優ですか?』

『闇堕ちしたのはルイ君の方だったか』

『レイ虐助かる』


「クソーっ!! 次こそは……って、ああっ!!?」


「見え見えだ」


「あ…………やっ、やめろぉーーっ!!?」


 そして復活台から降りてきたアツヤを掴んで、また俺は完璧な即死コンボを決めたのだった……ちなみにここが一番コメントが盛り上がっていたらしいよ。

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