出会いのエアポート
七月十五日、金曜日。
新千歳空港に降り立った時から住んでいる街と空気が違うことを実感していた。
うだるような猛暑から逃れることがこの旅の第一目的だといってもよい。
『七時過ぎには札幌駅に着く』
快速エアポートの中で待ち合わせ相手にメッセージを送ると、すぐに了解のスタンプが返ってきた。
東京にいたときは月に一度のペースで杯を交わしていた友人から、札幌への転勤を聞かされたのは三月のこと。暇ができたら遊びに行きたいなと言ってしまったものだから、それなら今から予定を抑えておこうと、七月の三連休が指定されたのだった。
『改札は二つあるので、エスカレーターを降りたら振り返らずにそのまままっすぐ向かって』
酔った勢いもあって少々強引だったが、結果として最高のタイミングで避暑に成功できたから感謝はしておこう。
『今のお前の格好を教えてくれ。できたら自撮り希望』
「んんん?」
脈略のないリクエストについ声を漏らしてしまった。
『白シャツジーパン。冷えるから黒のジャケット羽織ってる』
『ダメだ特徴がない。もうちょっとわかりやすい格好して』
お前は何を言っているんだスタンプをお見舞いする。
『じゃぁ無理なら、自撮り送って』
電車のドアを背景にして写真を撮ることにする。
ちょうどシャッター音が鳴ったのと同時に停車した。背にしていたドアが開いたので反対側まで移動する。
七月とは思えない涼やかな風と、若い一人の女性が電車の中に入ってきた。
ここが北広島駅であることを確認してから撮ったばかりの自撮りを友人に送る。
既読はついたがメッセージはすぐに返ってこなかった。
ドアが閉まってエアポートは再び札幌駅までの鉄路を進む。
我が友人は強引な面がありこそはすれ、無駄なことはしない。そうすると、先ほどからの執拗な容姿確認と自撮り要求は一つの可能性に繋がる。
何らかの事情で駅に行けないので、僕のお出迎え要員として誰か派遣する、といったところだろう。今日は居酒屋で一杯やる予定なのだが会わせたい奴がいるのかもしれない。
さしずめ残業が長引いている、といったところか。
ぼーっとスマホを眺めていたら、友人とのメッセージ欄に新着が届いた。
肩にかかる程度のミディアムの髪に、白い肌の幼げな顔立ち。ピンク色のワンピースにベージュの上着を重ねた、いかにも可愛い女の子が自撮りをしている写真だった。
なるほど、僕よりはわかりやすい格好をしているな。って、そういう問題ではなく。
『札幌駅に着いたらその子見つけ出して声をかけて』
反射的にメッセージを返そうとしたところで、いったんストップ。
女の子の写真の上には、特徴のない僕の自撮り写真が貼り付けられている。よく見なくても写真の背景がほぼ一緒だ。
スマホから視線を上げる。さっきまで僕が背にしていた電車のドアの前に陣取っていたのは肩までの長さの髪で白肌のピンクワンピースの女の子だった。しかもご丁寧にこちらを見つめているものだから、目と目が合う格好になる。
「あの……」
おずおずと女の子がスマホを僕に見せてきた。
「黒田主任のご友人のこの方って……あなた、ですよね……?」
これが僕と彼女の四日間の始まりだった。
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