恋の花、北都に咲く

九紫かえで

プロローグ

 今年の東京はいつも以上に暑く、ついに猛暑日の日数が観測史上最多を更新した。

 海水浴だとか夏祭りだとか。そういった夏の思い出も、これだけ暑すぎるともう過去のものになってしまうのではないかと思う。

 夏っぽいことは今年もやらずに終わりそうだ。

(夏……夏ねぇ……)

 春は少し遠出して桜の名所まで行くようにしている。秋はなんといっても紅葉狩り。冬はクリスマスを楽しむことができる立場ではあいにくないがそれでもイルミネーションを見ていると季節を味わうことができる。

 では、夏は? 最近は暑いとセミがうるさいくらいしか言ってない気がする。あとは高校野球が楽しみですね、くらい。

 今年の夏の思い出はあることにはある。ただあれは場所が場所だけに、ついでにいうと天気も天気だっただけに、あまり夏っぽくなかった。むしろ夏から逃げた思い出、かもしれない。

 なんてことを相手に言ったら、四時にはもう日が昇るから紛れもなく夏ですと返されたけど。


 くだらないことを考えているうちに自宅のマンションに到着した。まずは郵便受けの内容物を確認する。

 ダイレクトメールが数通と、あとは――紫色の花がデザインされた封筒が一つ。

「――!」

 忘れるはずがない。これは……北の大地で咲く可憐な花。

「片岡さん……!」

 すぐに開けたくなる衝動を押さえて、一刻も早く自室へと向かう。


 僕と彼女が共に過ごしたこの夏の四日間のことを今一度思い出しながら――。

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