8-昼食のあと
ごちそうさまと言って殿子さんの作った弁当をおいしくいただいた俺は凪元が食べ終わるのを待っていた。
頬杖ついてしまったりしたので行儀は悪かったかもしれない。
あの後、本当に沈黙だった。黙々と食べていた。
教室中は和気あいあい、活発に言葉が飛び交う中、俺たちの間には全く言葉が飛び交うことはなかった。
凪元も食べ終わった。
ごちそうさまと言って弁当箱を片付けている。
俺はそれを見つめて待っている図。
昔、俺が師匠に引き取られてしばらく、俺はまともに喋らず、飯を食べている間は師匠はこのように俺が食べ終わるのを待ってくれていたらしい。
俺にはその時期のあまり記憶がないので、聞いた限りになってしまうが。
意図せずそれを再現しているかのようになった。
だがしかし、俺と凪元の関係性は、俺と師匠のものと違う。この対応でよかったのかわからない。
俺の方は単純に何を話しかけていいかわからなかったから、黙っていただけだ。
意図があって黙って見つめていた師匠とは違う。
そんなことを思い出して、このままではまずいと思った。なすがままに任せてはダメだ。何か行動を起こせ。
だから、凪元が弁当箱を片付けてから話しかけた。
「凪元、ちょっといいか」
「あ、うん」
え、何、まだいたの?みたいな顔をしていたかもしれないが、それは無視だ。気のせいだ。
俺は凪元を教室の外の廊下に連れ出した。
廊下の方が幾分か空気が冷たい。
「凪元、悪かったな」
「ん、何が?」
いきなり謝罪から切り出したことで、凪元が疑問形で返してくる。そりゃそうだろう。俺だってそうなる。
「今急に引っ張り出したこと。それと、さっき昼飯誘われた奴らになんかされてるだろ。それに気づいてなかったことだ」
「あぁ、それでかぁ」
凪元は小声だった。
凪元は俺が急に昼食に誘った理由を察したのかもしれない。
「見たのが昨日で、気付くのが遅れて申し訳ない」
「謝ることじゃないよ。こっちの方こそごめんね、心配かけてばかりで」
「俺は、1日考えたんだが、やっぱりああいうのは、知ってしまったら見過ごせなかった」
「うん。ありがとう。木々村くんはいい人だね」
いい人という自覚はない…。自分のためにやってるようなものだからな。
これは事実だ。掛け値なしに。
俺の頭がイライラしていたのを解消するために干渉したに過ぎないというのが、本当のところだ。
「これで収まるわけじゃないと思うが……」
「うん、そうだね」
凪元は俯き加減で、視線を逸らす。
昨日の帰りの時点でも誘われていたからな。まだ、終わらんだろう。
「今日はありがとう。お陰でゆっくりご飯食べれたよ」
「帰りも何かあるんだろ。というか事あるごとにあいつらに連れられてるんじゃないか?」
今日、俺と昼食を食べてあいつらの誘いを断ったことによって、この後どやされるんじゃないか?とは聞けなかった。
自覚してるならやめとけよ、というツッコミが浮かんできた。
「……」
沈黙を返す凪元。これは肯定だ。
「あいつらがお前に絡むのをやめてくれればいいのにな」
相手にされるかわからなかったが、この言葉を吐いた。
凪元はこれには反応した。
「無理だよ。僕が暗いから……」
暗いという理由で理不尽な目にあってたまるか!
俺は内なる激昂を感じた。
しかし、凪元に向けても意味のないものだ。
冷静になるように努める。
「ありがとう、僕のために」
凪元が俺を慮ったようにそう言った言葉により、俺も落ち着いた。
俺が怒ってどうする。くそが。
「悪かったな。もう戻るか」
冷静になれないときに言葉を交わしてもダメそうだった。
俺は自分から切り上げることにした。
帰りの時間にはもう少し頭も冷えて、頭も使い物になるだろう。
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