7-昼食
凪元へのいじめをやめさせるとは言っても、実際には難しいだろう。
師匠は失敗しろとは言っていたが、実際に失敗しては凪元に対して、申し訳が立たない。
あの後師匠に考えろと言われ、考え
「凪元と友達になるところからやってみます」
と言った。
師匠はそれに対し
「わかった。報告を待ってる」
と言っていた。
結局のところ、見通しは立っていない。
……ところで友達ってどう作るんだ?
朝、学校に着いた時も凪元に話しかけたが、昨日の朝と代わり映えのない様子。なので、記憶のこととか能力に関することは問いかけず、挨拶をするに留めた。
昼休み、俺はまた凪元に話しかけた。
「一緒に昼飯を食べよう」
凪元はぎょっとした目をしていた。
「えっ」
いきなり話しかけられた感じになったのだろう。俺としては、朝からずっと話そうと決めていたのだが、俺と凪元の心構えのギャップが出てしまった。
というより、そんなに驚かれることなのだろうか。
そんな驚かれると、俺が悪い奴みたいになるじゃないか。
元々誘い方に自信がなかったが、凪元からの疑問の声が拒絶のように聞こえ、更に自信がなくなってしまった。
それでも俺は自信のなさに負けずに言葉を続けた。
「いやな、いい機会だと思って。俺も学校に通ってるわけだし、交流の輪を広げようと思ってだな……」
厳しい言い訳だろうか。最後は弱気になってしまったし。
これで一緒に昼飯を食うことができれば、あいつらに連れ去られることはない、と考えた俺は、浅はかかもしれないが……。
一緒に昼食を食べていたとしても、また奴らに誘われた場合、凪元が俺との会食を打ち切る可能性もあるが、そうなれば懲りずにまた誘うつもりだ。
「いい機会って……」
まだ警戒されている。俺の言葉の真意をまだ計りかねているかのような。裏を読もうとしているというか。あまりに急にだったので当然かもしれないが。しかし、いい機会とはなんなんだろうか。俺にもわからん。
「いや、いい機会かどうかは置いといて。凪元がこの前倒れていたことが心配で」
「ああ、心配してくれてありがとう。今は大丈夫だよ」
ふう。まぁ、警戒は少し解けたか?顔が少し明るくなった。
俺は凪元の机のそばの机を借りるために、机の持ち主本人に尋ね、了承を得て座る。
「え、ここで食べるの?」
「ダメか?」
強く押せば受け入れられると踏んだんだけどな。昼飯を食べることも一苦労になるのか、このミッションは。
「ううん。いいけど……」
苦労はしなかった。第一段階はクリアといったところか。
しかし、凪元はちょっと歯切れが悪い。いささかの抵抗を感じた。それにまた周りに少し気を配っている。
警戒心が強い。それはそうだろうと思うが。俺に対しての警戒心はこれから解いていってほしい。
それと、やはりあいつらが気になるのかもしれない。
自分の机ではないので、汁などを気を付けながら弁当箱を開ける。殿子さんが作ってくれた弁当はとてもいいものだ。詳しいことはわからないが、弁当にいいものを選んでくれているらしい。おいしいしな。憧れの女性から弁当を作ってもらえるなんて、俺は幸せ者だと思う。
「凪元はいつも教室で弁当を食べてるのか?」
俺が凪元に注目し始めたのは、一昨日からなので、それ以前の凪元を全く知らない……。昨日は教室で食べていなかったことを把握しつつもそれに気づかないフリをして、凪元の行動の傾向を図るための意味も含めて質問をしてみた。
「うーん、いつもというより、まだ数回だけど、教室で食べるかな」
そうか。まだ学校が始まってから2週間経っていない。忘れていた。
2週間経っていないのに、いじめの対象に選ばれてしまうなんて……あいつらも何考えてるんだ。
他にも情報を集めないとな、と思って何を話そうか頭を捻っているところにまた奴が現れた。違うクラスの……名前はまだ把握していない。
「あれ、凪元くーん。もう昼飯食べてるの?今日はこっち来ないの?」
凪元はあからさまに反応した。細かな振動と共に表情が強張る。
そして、俺の顔をチラリと見て、どうしていいのかわからない、といった顔をしている。
「今日は俺と食べる約束をしていてな」
「ふーん、そっか。じゃあまたあとでねー」
他のクラスから来たそいつは、何てこともないといった風でそのまま帰っていった。
凪元の方を見ると、ちょっと複雑そうな顔をしている。
大方、断ってよかったのかな、とかだろうか。
「あれは誰だ?」
俺は一応情報を集めておく。
「4組の久利須くん」
「仲いいのか?」
「いいってわけじゃ……」
だよな。まぁ、そうだろうよ。しかし、それは言葉に出さないでおく。俺は何もなかったかのように食べ進める。
「……」
凪元は黙ってしまった。弁当の方を向いて、黙々と食べている。
俺は凪元の次のセリフを待っていたが、何も出てこなかった。
あれ?もしかして、俺のターンだった?
会話が別にターン制だとは全く思っていないが、もしかしたら、凪元は、次俺が喋る流れだろうと黙っているのかもしれない。
いや、そんな理由で黙ったりはしないだろう。きっとそうじゃない。違う理由で黙ったはずだ。
例えば、あいつが来たから。
そして、あいつは「じゃあ、またあとでねー」と言った。
後ということは今日また、あいつらと凪元が関わり合うということだ。
それはつまり凪元の辛い時間になるのだろう。
この理不尽に関しては、根本を消さないと解決できない。
つまり、あいつらが凪元と関わるのをやめるまで止まらないということだ。
会話を続けようと思えば、続けられた。しかし、凪元が置かれている状況のことを考えると、弁当を食べている間、俺は凪元にまともに声をかけることができなかった。
本来なら情報収集のため、俺ももっと別のことを聞かなければならないはずなのだが、それも聞き出せなかった。
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