5-空き教室にて
昼休みになったばかりで、廊下に人はそんなに広がっていない。
教室から、会話がガヤガヤと繰り広げられているのは聞こえるが、喧騒というほどではなく、凪元が紛れて見失ってしまうということもないだろう。
凪元は人気のない空き教室に連れられていた。
昼飯を食べるようには見えない。
貴重な昼休みの時間にあいつら、何してるんだ?
バレないようにするために、少し離れて様子を伺うことにする。
壁を一つ挟んで聞いているので、会話ははっきりとは聞こえなかったが、凪元と連れて行ったやつらの他にも何人かいるようだった。
能力を使った感覚はない。
これから使うかもしれないが。
あいつらが全員能力者ということはないか?
そしたら、それは面倒だが……。
などと疑問に思いながらもう少し近く、教室の開けっ放しになっているドアに寄り、小さい鏡を使って中を反射させて様子を伺うことにした。光の当たり具合には気をつけながら。
するとすぐに動きがあった。
凪元が蹴飛ばされた。
机か椅子が動いた音もする。ぶつかったか。
これは正直鏡がなくてもわかった。
凪元が身体を起こす。
ん?何やってるんだ?
倒れた凪元は、恐る恐る何かを差し出しているように見える。紙切れのように見える。
手渡した紙切れのようなものは見えにくかったが、状況からも判別できた。
あれは……金か……。
なるほど。
ボソボソボソと小さく、はっきりとは聞き取れないほどの大きさだった声が途端大きくなる。
「最初から出しゃいーんだよぉ」
そう言って凪元の手元からひったくると、凪元を残して移動しようとしてくる。
あいつらの中の名前のわからん奴らが空き教室の扉の方、つまり、こちらの方に近づいてくるということだ。
ヤバい。
ここで見てたことを悟られないよう、さっと身を潜めよう。
隣の空き教室のドアの裏に隠れ、あいつらが行き去るのを待つことにした。
しかし、凪元が金を差し出していた。
あれが世に言う″カツアゲ″というやつだろうか。
にわかには信じがたいが、まさかあんなものが世の中に本当に存在するなんてな……。
凪元が自分から進んで蹴られ、金を差し出しているわけじゃないだろう。
それこそまさかというやつだ。
あれから授業の終わりまで凪元の様子をずっと見守っていたが、能力の反応はなかった。
凪元が同じクラスなのは、非常に監視がしやすく助かるが、能力に関しては何も成果が得られないのは、もどかしい気持ちがある。
授業の間に何か起ころうというのなら、よっぽどの大事件なので、起こるはずもないのだろうが。
張り込み等は時間との戦いだとも聞くが、これを続けるというのは、精神力の戦いかもしれない。
すごいな。
今まで張り込みの仕事をしていた人たちに対する認識を改めないといけない。
今まで俺が実際に体験したことを思い返してみると、現場を見ておけ、と俺が師匠に連れられて行ったのは、これから何かが起きる時だった。
何日も敵を観察しろ、など張り込みのようなことはさせられなかった。
待つくらいなら訓練しておけ、ということなのか、それとも、俺が幼く子供だから待つことはできないだろうと思われていたのか。
そうだとしたら師匠の見立ては正しい。
張り込みをする精神力はこれからの課題だ。
帰りの時間、凪元は、昼休みに連れて行かれたやつと一緒にいた。
凪元は断らない。
断れない、と言った方が正しいかもしれない。
なぜ断れないのか?という疑問は生じない。
アレは力の上下関係だ。
俺と師匠にも上下関係がはっきりしている。
俺も師匠と共に暮らしていた時、師匠に「朝飯を準備しろ」と言われたら準備した。師匠の気分に合わないものなら、文句も言われる。
しかし、俺から師匠にご飯を作ってくれなんて頼めないし、時に師匠が作ってくれたとしても俺の方は絶対にケチをつけてはいけない。
そういうパワーバランスになっている。
俺は師匠に感謝もしているし、慕っているから、師匠から殴られようと罵倒されようと、受け入れられる。俺は師匠を畏れ敬っている。
しかし、凪元とあいつらには、恐らくそういった関係はない。
一方的に搾取している状態だろう。
今日は凪元から能力の反応は得られなかった。
帰って師匠に報告しなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます