4-観察
師匠との連絡の時、本当はビクビクしていた。
「お前、調査の初動が遅いんじゃないか?」
とか
「そんな大した手がかりもなくノコノコ帰って来たのか?」
とか
「凪元の家に直接行くくらいやれ!」
とか
「そんなの、1日で解決できないでどうする。数日もかけるな!」
とか
我ながら自分の行動には隙は多く、考えられうる師匠からの罵倒はいくらでもあった訳で。
ただ、師匠からの罵倒を避けるために、わざと言い訳がましい報告をしたところで、
「要領を得ない。つまりなんだ」
とか詰められかねない。
どうすればいいのか、と少し悩んだが、逃げるよりは、自分から罵倒される道を選ぶことにした。
そんな色々とシミュレーションはしていたが、実際、連絡は案外あっさり終わった。
「わかった」
の一言だった。
あるいは、あまりの俺の無能さに呆れ果ててモノも言えなかった可能性もある。
単に師匠が忙しかったから、かもしれない。
あ、そう言えば、
「保健室の先生は養護教諭と言う」と指摘された。用務員とか間違えていた。
ちょっと恥ずかしい。
そこで呆れられた可能性もある。
師匠が今何をしているのかは、俺は知らない。任務というのは知ってはいるが。
詳しいことは俺には教えられない。
俺に詳しい情報を与えていると、俺が狙われた時に情報がダダ漏れになるからだ。
敵には心の中をのぞいたり、思考を読んだりする能力者が当然いるわけだから。
俺みたいな雑魚に情報を与えていたら、組織が壊滅ということらしい。
俺に与えるのは敵に知られても問題ないようなものだけだった。
それはわかるので納得している。
だから、必要な時に連絡が取れればそれで問題ない。
連絡をしなかったら後で叱られるし、連絡をしないということだけは避けなければならない。
後でどんなことになるか、考えたくもない。
次の日。
今日は凪元から色々と調べられればいいが。
教室に着いてしばらく待っていると凪元がやってきた。
俺は昨日のこと、体調や病院のことも含めてだが、そう言ったことについて聞くために声をかけた。
「凪元、昨日は大丈夫だったか?」
「あ、木々村くん。おはよう。昨日は、大丈夫だったよ。病院でも何でもないって」
「そうか。それならよかった。それと、何か思い出したことあったか?」
本題について俺が尋ねてみる。
「うーん……」
と言って、黙り込む。
やっぱり思い出せないのか。それとも……
少し周りを気にかけるような動きをした。
何を見ている?何か気にしている?
「やっぱり何も思い出せてなくて。お医者さんからも一時的なショックでそういうことはあるよって言われたから、不思議じゃないって」
「そうか。まぁ、それは仕方ないな」
「うん。心配してくれてありがとうね」
と言って早々に会話を切り上げた。
結局何も得られないか。
しかし、昨日凪元から能力の匂いがしたのは事実なので、「これで手がかりは無しだー、もう無理ー」と諦める訳にはいかない。
そんなことをしたら師匠から本当にどんなことを言われるか。想像するだけで恐ろしくなる。
凪元から直接聞くのは諦めるが、これから先、凪元が能力を使ってその現場を押さえる方向で行くことにする。
そのために昨日、師匠に明日から凪元を張ると報告したんだ。
ちゃんと凪元が思い出さない可能性も折り込み済みだ。
ということで、凪元を観察する。
凪元は、朝話しかけた時から既に調子がおかしかった。
凪元は地味で目立たないやつだと思っていたが、他の連中から見るとそうではないみたいで、絡まれていた。
凪元はああいうやつと仲良くしているのか?
会話の内容はよくわからないが。
昼休みになると、他のクラスからやってきたやつに話しかけられていた。そして、教室から出て行った。
他クラスにもう友達作ったのか?
部活とか、委員会とか?
あいつがやってる部活や委員会って何だったか?
掲示物に何か書かれているのは委員会だけだった。部活は当然わからない。
しまった!
俺は、凪元の部活がわからない、という事実を認識すると愕然とした。
当然部活はわからない、などとのんびりしている場合ではなかった。
凪元を張るのであれば、凪元の情報は事前に得ておくのは当然なのに!
部活が何入ってるかわからないだと?
こんな失態、師匠に知られたら
「基礎的なことを疎かにするやつには、仕事を任せられない」
とか
「もういい。さっさと帰ってこい。後は私がやる」
とか
「はぁ…」
とか
失望に満ちた言葉を浴びせられてしまうに違いない。
それは嫌だ。
ここは、クラスの他のやつに聞いてみることにする。聞き込みは情報収集の基本だ。ここから挽回するしかない。
すぐ隣にいた男子生徒に聞いてみた。名前は鷹村だったか。
「なぁ、凪元の部活って知ってるか?」
「え?いきなりどうしたん?いや、知らないけど」
「そうか。悪かった」
「いや、てゆーか、まだ仮入部期間だから誰も決まってないけど」
そうだった。
まだ4月も中旬。確かに部活の本決定は4月の下旬だった気がしてきた。
焦りのあまり、恥ずかしいことをした。
どこまで愚かなんだ俺は。
「本人に聞いてみたら?」
「ああ、うん。そうだな。ありがとう」
俺の焦りとは裏腹に、鷹村は冷静にアドバイスをしてくれた。少し落ち着いた。
ちゃんと目的に戻そう。
凪元が入りそうな部活をクラスの生徒たちに聞きまくるのは流石にちょっと効率が悪いので(凪元は地味なので知ってるやつもいないかもしれない)、部活を調べるのは今は諦めて、凪元が連れて行かれた方に行くことにする。
昼食は勿論後回しにする。
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