そんな単純に終わる男ではない──
──コンテナ内
アサルトライフルを肩にかけて座り込む男と女が複数人。少し目立つ血赤い色の髪の男――ニール・クリステンセンも座り込んでいた。ニールは何かを気にするように暗い天井を見上げていたが、特にそわそわしているという風でもなく落ち着き払っていた。そこに、ニールとは打って変わって大柄な男がニールの目の前に立つ。
「……なんだ?」
ニールは鬱陶しげに男を見上げるて尋ねる。
「本当に来るんだろうな。その
男の心配に、ニールはフッと笑って立ち上がり返す。
「お前への依頼料もバカにならないんだ。来てもらわなきゃ困るってものさ」
実のところ、ニールはアインスを引っ張り出すためにジェームズに格安で大量の爆弾を融通し設置まで協力した上、敢えて雑な監視カメラのデータ改竄を行い、
ニールは傭兵の男に作戦の内容を伝えると、傭兵はどこか腑に落ちない様子で尋ねる。
「機車の一つくらいハイジャックして、途中で対事故の一つくらい起こせるのではないか?」
するとニールは嘲笑するようにして言い返す。
「それは俺の信念に反するんだな」
「……信念?」
「ああ。AUNにはざっくり分けて派閥が二つある。一つは閣僚の暗殺のみを行いなるべく無関係の人々は巻き込まない。一つはAUNに協力しない者全員を敵とみなし、爆破テロを中心として行う。俺は後者だな。しかし、後者にはいくつか派閥があって、やった後でちゃんと犯行声明をする方としない方に分けられる。俺は前者だ」
傭兵の男は呆れるようにため息をついて聞く。
「よく組織が瓦解しないな?」
「そこは情報を共有したり、やり方は違えど志を同じくする者同士ということで、組織が壊れては元も子もないからお互い不可侵なんだよ」
しかし、どうもやはり納得いかない様子の傭兵の男の肩を叩き、耳元で囁く。
「もっとも、そんなことはどうでもいいことなんじゃないのか?」
「……すまん」
傭兵の男は、ただ一言そう言って謝るとニールは気にするなと首を振った。
「ところで、さっきはずっと天井を眺めていたがどうしたんだ?」
ニールはその質問に、またもや天井を眺めて目を細めて呟く。
「……さっきから、この列車の速度が気になってな。予想よりも遅く感じるのだが」
刹那だった。それなりの轟音と共に、天井を突き破ってきた弾が座り込んでいた男の悲鳴を待たずして命を奪った。
──上空
「第一射命中。コンテナ外壁貫通を確認。向こう側へは貫通していない」
アンジュが構えるEG82の銃口は二射目に備え電力をチャージしている間に赤外線スコープを覗き狙いを定める。
「次弾――撃つッ!」
威力が低めなのでチャージも早々に完了するとアインスへの事前通告を行い反動制御を促すと、アンジュは応答を待たずして二射目を放つ。
「第二射命中。敵、コンテナより出てきます。アインス、ラゲナ。回避行動を」
二射目の命中を確認すると、グライダーの操作をするアインスとラゲナに淡々と正確に指示する。
「応さ!」
『了解』
アインスは直接、ラゲナは通信機越しに応答すると、次はアインスが声を張る。
「ラゲナ、五時の方向!」
アインスはラゲナに自分の予測に基づいた正確な回避方向を指示しつつ、自分も十一時の方向に逃れる。
空いた穴からアサルトライフルによる射撃が開始されると、また別の回避行動をし始める。
その間、アンジュは三射目の準備を終えてもう一つコンテナに穴を開け、四射目の準備をしている最中だった。
「射撃中止!」
アインスが珍しく切迫したような声でそう宣言すると、大胆な回避行動を行った直後、アインスの頬を銃弾が横切った。
「凄上のヒットマン雇ってんのかよ……!」
そう悪態をつくと、アインスは下降速度を早めて一つ離れたコンテナに銃弾を避けつつ近づく。
驚異的な回避能力を見せつけると、敵のヒットマンと思しき男が弾を切らすとアンジュは空かさず牽制の一撃を放つ。
「備えて――!」
アインスがアンジュに警告すると、アンジュは自分から接続部を切り離しアイギスを信用して勢いよく着地する。EG82を横たわらせると、空かさずワルサーP88を抜き一射放つ。それは流石に回避され、謎のヒットマンも拳術を二発放つ。
(精度たか――ッ⁈)
脚部に当たった感触がした。もちろんアイギスが守ってくれているが、次同じ場所に当たれば後はない。
アインスも遅れて着陸すると、右脚に収納してある伸縮剣を伸ばしてパラグライダーと自分を接続するワイヤーを躊躇いなく切断し、腰左側に刺さっているベレッタ92に持ち替えて、劣勢のアンジュに援護に入る。
「助かりますッ!」
「あのヒットマンは私に任せてラゲナの援護を!」
アンジュは頷くとEG82を立てて、スナイパーライフルを構えるが如くする。
「させるか――ッ⁈」
ヒットマンはアンジュを追撃しようとすると、アインスの一弾が頬を
「それはこっちのセリフだっての。謎のヒットマンさん」
伸縮剣は既に右脚に収納されており、右手にはベレッタ92が収まっている。
「――ッ!」
謎のヒットマンは足を動かすと、アインスもそれと同時かそれ以上の反応速度で走りだす。
距離をとりたがるヒットマンが牽制射を放つもアインスはそれを軽々と回避し、その上距離は縮まるばかりである。
この状況にヒットマンは異様な感覚を覚えていた。まるで、未来を予測されているが如き回避行動――具体的には引き金が引かれた瞬間には既に回避行動をとっており、弾が当たる確率は皆無と化しているのだ。
アインスは牽制射撃と見せかけて、後方からヒットマンの援護をしにきたAUNメンバー達を正確に一人一撃で仕留める。後方は確認せずにアインスだけを気にしながら、回避と発砲を繰り返すヒットマンだが、その全てが読まれているかのような弾道線と回避行動をするアインスに驚きを隠せず、たじろぐ。
しかし、アインスはその一瞬の隙を見逃さず左脚のホルスター収納のテザーガンを取り出し、素早くガラ空きの首筋に向けて打ち込んだ。
「よし……っと。いい腕だったよ」
気絶しているヒットマンに手錠をかけて一言そう言い残すと、随分と主戦場のコンテナから離れてしまったので、空かさずニールを殺しに向かう。
アインスがヒットマンとの戦闘を終えたことを確認すると、アンジュはEG82を手に進行方向後部の連結部に降り立ち、コンテナの中を赤外線スコープで覗く。数人がニールと思われる人物を守るように、囲むように立っている。前方での発砲音が止んだと思えば、ラゲナが
『相手から奪ったアサルトライフルで中を斉射したいが、こちらは生憎穴を開けた方のコンテナではない』
「私が今からでも穴あけましょうか?」
『がむしゃらに扉を開けられるだけだぞ』
「ですよねー……あ」
どうしようかと考えているうちに、自分の身体を見つめてあることを思いつく。
「がむしゃらになるのは私達の方かもしれませんよ?」
『――いや、やめとけ』
ラゲナはアンジュが何をしようと察して、止めに入る。
「いえ最善の手段ですよ。ダリアには申し訳ありませんが」
ラゲナはため息を一つ吐いて、呆れたように言う。
『アインスに似てきたぞ、アンジュ?』
「褒めてるんです?」
『褒めてない』
「じゃあそういうことで」
言い捨ててプツっと切ってしまうと、アンジュはEG82をコンテナ上部に置いてアサルトライフルに持ち変えて、締め具の電子錠を撃ち壊してから肩にかける。頭を守るようにガッチリと顔の前で腕を合わせる。
そして意を決して、アイギスの装甲を信用して半開きになったコンテナの中に突撃する。
当然、銃弾の雨が横になって打ち付けてくるが、アンジュは気にせず突撃する。
「ハッ!」
「う、ぐほぉあ⁈」
一番前に出ていた男を強化された脚力でみぞおちに蹴り入れると、男は声にならないもはや断末魔のような声を上げながら吹き飛ばされる。他のメンバーはそれを見て、唖然とするも、また一人殴り飛ばされる。アンジュはアサルトライフルを構え、あまりに人間離れした技に一瞬棒立ちになったメンバーを次々に撃ち殺し、肉壁を突破するとニールに肉薄する。
「頂戴ッ!」
一言と共に頭を撃ち抜くと、ニールはそのまま呆気なく仰向けに倒れる。
「制圧完了しましたよラゲナ」
アンジュはニールの亡骸の脈を確認し、絶命したことを確認するとラゲナにそう報告する。
『……いや、そんな単純に終わるような男ではないと思うのだが――』
どこか歯切れの悪い感じで返すラゲナ。アンジュはもう一度ニールの身体をしっかりと調べることにする。身体に怪しいものは隠されていないし、爆弾の類いは身についてない。しかし、顔を確認すると異変に気がつく。
「……ッ⁈」
『どうかしたのか?』
アンジュはニールの――否、
「罠――」
直後、コンテナごと吹き飛ばす爆発がアンジュを飲み込んだ。
DEATH PRINCESS 平石了 @ryonasutuvai6148
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