じゃあ、作戦開始!

『アインス、聞こえるか?』

 実働部隊はすでに空の上にいる実働部隊に向けて夏樹が通信を入れた。

「うん。じゃ、とりあえず作戦の最終確認をしないとね」

 離陸したC-2の機内室でベルトを締めて座りつつ、卓上のパネルを眺めて現状の確認をアンジュが行う。

「ニール・クリステンセン以下のAUNメンバーの集団は鷹取駅に移動後、貨物に忍び込む。列車は二十時に出発したため、鉄道会社に二十二時三十分までに全列車が運行を終了した高山本線に入れるよう要請。3-P及び陸上自衛隊、警察に総理大臣からの勅令により作戦決行予定エリアの住民を避難させ、空域も封鎖されています」

「んで、避難作業は既に完了していて、SNSなどにも避難のことを漏らさないよう自衛隊施設に避難させたと」

「後は、俺たちが上空から降下して全部終わらせるということか」

『大雑把過ぎるけどそういうことね〜』

『その全部の部分が大事なんだが』

 機体がまもなく水平になると、全員ベルトを外して立ち上がり、卓を覗き込む。

「空挺的なことをするわけだけど……」

 アインスがパラグライダーを背中に身につける準備をし始めるとアンジュは何かを探すようにして首を振る。

「……私の分は?」

 アンジュが怪訝な表情でアインスを見つめると、キョトンとして返す。

「あれ、言ってなかったっけ?」

「何も聞いてませんが」

 すると、アインスは見慣れない人が座れそうな器具を装着して、そこを指差して言う。

「アンジュがEG82を持って、私とタンデムしながらモーター滑空中に敵をできるだけ始末する」

 拳銃ならいざ知らず、普通のライフルならリコイルで体制を崩しそうなものだが、しかしアンジュはEG82を見て納得してしまう。

「……EG82は電磁対物狙撃砲レールライフルなんで火薬を爆発させる一般的なものより反動は小さいですからね」

「そゆこと〜」

「でもこれすごく重いですよ?どうやって片手で持つんです……あ」

 そう主張してから自分の足に装着されているものを思い出す。

「なるほど、腕部用のものもあるのか」

 ラゲナが作戦室の倉庫を開くと、予想に反してなにやら宇宙服っぽい見た目のスーツが現れる。すると、待ってましたと言わんばかりに通信機からダリアの声が飛んできた。

『身体強化外装着アイギス。一般的にはロボットスーツと呼ばれてるわね。あとソレ、一応極秘技術だからブッ壊しちゃダメよ?』

「え、ええ。着陸時の衝撃で破損しなければいいですが……」

『防弾性能も結構上げてるから、衝撃ごときじゃ壊れないわ。アイギスだけに』

 ギリシャ神話最強格の防具の名を与えるあたり、身体機能の外部強化よりも防御能力に自信があるのかと思ってしまい、思わず吹き出した。

『あ、笑ったわね⁈』

「だって身体強化外装着って分類名称なのに防具のアイギスなんだって……」

 ラゲナが普通に堪えるように笑っていて、一方のアンジュといえば、これから自分が着ることになるアイギスでトンチンカンな会話をしていることに不安を覚えるのと同時に、作戦前なのにえらく呑気なものだと半ば呆れている。

『だって元々は対物ライフルでも貫通し得ない超装甲着がコンセプトだったのよ⁈』

 それを聞いたアンジュは、どういう経緯で開発目標が曲がったのか想像がついてしまい、この雰囲気にあやかって口にしてしまう。

「対物ライフルですら貫通できない装甲着を作ろうと思ったら当然ながら重量問題という壁にぶつかり、それを解決するために支援機を改造して内蔵しようとした結果更に重量が増すという前代未聞の実態に陥り、改造支援機が副産物として産み落とされたので勿体ないからそちらを主軸にした、ってことですね?」

『……そうよそうなのよ!何で全部言ってしまうのかしら⁈』

 向こうで自分の研究の失敗と思わぬ方向にズレて普通に悄気ているダリアに、意外な人物がフォローを入れる。

『研究に失敗と違う発見はつきものだから仕方がないだろうと思うのだが』

『夏樹ぃ……』

『ン⁈ちょ、待て抱きつくな!離れろ仕事しろッ!』

「慰めたのが運の尽きだな……」

 通信機の向こうの状況を想像してしまったせいか、ラゲナが苦笑してそう言うとアインスもアハハと笑いながら、知らぬ間にアイギスを着用したアンジュの背中をバシッ、バシッと叩く。叩いてしまう。アンジュは恐る恐るアインスの方を見ると、右手首を掴んで死ぬほど痛そうにしていた。

「当たり前でしょ……」

「現代最強の防弾チョッキ伊達じゃないわ」

『一応ロボットスーツなのだけれど!』

 空間がカオスになりかけるところで、夏樹が軌道修正してくる。

『とりあえず、作戦はそういうことだ。質問は無いか?』

「あ、いいですか?」

 アンジュが特に意味もなく挙手する。

「C-2の後部から射撃してはいけませんか……?」

「機体が傾くらしいからダメー」

 滑空中に撃つなど初めてやるので不安しかなくそう尋ねるも、アインスに速攻で拒否される。

「牽引車は自動運転なのか?」

『そうね。万一気づかれたとしてもハイジャックの危険性は皆無よ』

 ラゲナの質問にはダリアが答え、それにアインスが補足する。

「運転室に侵入されたらその地点で止まるし、万一侵入感知器が破壊されても電装系が少しでも損傷したら数十個ある予備電源が動いて止まるよ」

 ハイジャック対策の完璧さに感心するアンジュだった。

『では、作戦ポイントに接近しているので配置に着くこと』

 この一言で作戦室の雰囲気はガラリと変化し、緊張感が漂う。

「じゃあ、作戦開始!」

 アインスの号令で三人とも立ち上がり、扉へと向かった。


 通信を切ると、夏樹は扉にもたれかかりダリアに目線だけ向ける。

はかけてるんだろうな?」

「んー……まぁゆるーく、ね?」

 ダリアは夏樹に睨みつけられると、敢えて悪魔っぽい笑みを浮かべる。

「私は良いと思うわよ〜」

「真性の外道か」

 夏樹の辛辣な評価にダリアは不満げな表情で彼を見つめる。

「研究には必要なのよ」

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