私は万能なのよ?

──航空自衛隊及びアメリカ空軍横田基地 二十一時四十五分

 

「おーい杏香!こっちだぞ〜」

 望海高校のものではない制服に身を包み姫奈が手を振って杏香を呼び寄せる。背にEG82電磁対物狙撃砲レールライフルを内蔵する巨大なケースを背負う杏香が一定した足取りで近寄ると、困ったような顔で諌める。

「仕事中ですよ、アインス?」

 姫奈──アインスは不満げに言い返す。

「いーじゃんか別に。今は誰もいないんだし……」

「じゃあ、もう来ますのでダメです」

 杏香──アンジュの背後にラゲナがいるのを見て何かを察したように眉をピクっと上げる。

「あれ?ヒペルとダリアは?」

 アインスは探すように首を左右と動かすと、ラゲナは首を振る。

「ダリアは遠距離から支援、ヒペルは隠密作戦中だ」

「およ、そだっけか」

 二人が話している合間、アンジュは服の上から脚に装着してある歩行支援機をコントローラーで調整する。パワーを上げると腰より上が軽く感じ始めた。

「歩行支援機の調子は良好っと……」

 足をグッと上げて調子を確かめてから頷いてそう言うと、作戦の説明が一通り終わったアインスが近寄る。

「ダリアが作ったそれ、どうなの?」

 歩行支援機を注視しながらそう尋ねると、アンジュは背中のEG82を見せるようにして返す。

「ええ。今まで分割で輸送しなければならなかったこの子がこの通り、余裕で持ち運べます」

「流石ダリア。作れないものとかないのでは……?」

「EG82然り、首輪チョーカー然りですしね」

 素直に感心しているところに、空から巨大な図体をした機体、航空自衛隊C-2輸送機が着陸する。

「お、きたきた。んじゃまぁ、乗ろっか!」

 アインスも荷物を手に取ると、そう声をかけてC-2駐機予定ポイントへ向かった。


 ――ウォーターゲート


「流石はニール・クリステンセン。手際が良すぎるわ」

 ダリアが二次元キーボードをタタタッと操作しながらそう呟く。

「誘われているな」

 夏樹が画面を覗きながらそう話しかけると、ダリアは特に頷きもせずに作業を続ける。

「そうね。あんなわかりやすい手がかりも誘い出すための罠だったと考えれば納得がいくわよ」

「仕事は確実にこなし、さらには逃げ足も早い。欲しくなる人材だな」

「そういうの、対AUN組織の司令官が言っていいの〜?」

 夏樹の意外な言葉にダリアは苦笑してそういうが、夏樹は相変わらずの仏頂面で返す。

「その気になればできる、だろ?」

 夏樹がダリアの頸に食い込む首輪チョーカーをツンと突くと、一瞬ダリアの手が止まってその赤らめた頬を夏樹に向ける。

「……私は万能なのよ?」

「ああ、わかっている。だからスカウトしたわけだが」

 うんざりしたような顔でため息をついて画面に目線を向ける。

「クソ真面目なのもつまんないわねー」

「一組織の司令官なのだが」

「……」

 あまりに当たり前過ぎる回答にダリアも、もう少し真面目仕事をしてやろうと心に誓ったのであった。

「ん、そういえば気になったのだが……」

「何かしら?」

 そう思った矢先に、夏樹が珍しく仕事中に無駄話かと期待するダリアは少し声色を高くして返す。

「どれぐらいの分野を網羅しているんだ?」

 少し予想、しかし自分に踏み込んでくれる質問に嬉しく感じながら返答する。

「結構色々よ?機械工学から生物工学、医学や物理と理系の学問はかなり。芸術は絵画に文学、次は音楽もやってみようと思ってるわ」

「多芸だな」

「一度興味を持ったらなんだって極めてしまいたくなるのよ。それに、一回目にしたものは覚えようと思う限り直ぐに記憶になるわ。芸術技巧とかはそうはいかないところがまた楽しいのよね」

 自慢するわけでもなく、さも当たり前の如く口に出すと、珍しく夏樹が感心のため息を漏らす。

「やはり私の目に狂いはないわけだ」

「人を見る目ばかりはどうもないのよねー」

 ダリアは特に困っていなさそうな雰囲気でそう言うと、夏樹もそういうものかと仕事に意識を集中させる。

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