4話–4 いい息抜きでした
店を出ると、時刻はまだ四時になっていない。まだまだ遊べる予感がして、杏香は施設の地図をスマホで確認する。そこで、雑貨屋の文字を見つけると杏香は姫奈に図示する。
「私の部屋、インテリアが少なくて寂しすぎるのでちょっと調達してもいいですか?」
「いいよ!」
姫奈も頷いて承諾すると、杏香は早速そこへ向かって歩き出した。
「お、意外と広いですねぇ」
「な、なんじゃこりゃ……」
テーマがてんでバラバラな店――そもそも姫奈は雑貨屋には行かない――とかあるものなのかと思いながら、周りを見回す。
「雑貨屋はこうでなくてはですね」
意外にも実用主義な姫奈には全く以って理解できないコンセプトなのだが、さて杏香の方を見ると籠にジャンジャン入れている。
「え、これ何に使うの……?」
イギリスの駅名が書かれたプレートを指差して言うと、杏香に半ば不満げな表情で抗議される。
「こう言うのがいいんじゃないですか。わかってませんねー」
「うーん?」
推しのグッズを飾るとかまでは理解できる領域なのだが、もはや芸術の域に達しているものを飾る意味は果たしてあるのだろうかと本気で思う姫奈なのであった。
さて、次は施設の観覧車に乗る。かの有名なロンドンアイに勝るとも劣らぬ良い乗り物だ。
「いい景色ですねー」
「八丈島……」
「見えるわけないでしょ」
空かさず突っ込まれてしまう姫奈は、杏香と同じく山川を見る。日も既に西に傾いてきており、東は少し暗くなっている。
「今日は楽しかったね」
「いい息抜きでした」
ここから見える望海高校を見つめて、姫奈はうんざりしたようにため息を吐く。
「月曜日から行けるといいけどね……」
「ええ。せっかく入学したんですから、楽しみたいです」
杏香もちゃんと楽しいと思ってくれているようで何よりだと姫奈は思う。
「部活とかは諦めるしかないけど、学校生活ってホント楽しいんだね」
姫奈は学校に行ったことがない。なので望海高校が初入学の学校なのだが、茉奈に三咲、大勢いる仲間との時間が楽しくて仕方がなかった。
「失いたくないですね」
「……本当に未然に防げてよかった」
心の底からそう言うと、もうじき観覧車は一周を終える。
「ちょっと名残惜しいけど、また明日は多分仕事だよ」
杏香もそこはちゃんと理解しており、決意を固めるが如く唇をキュッと閉めて頷く。
「はぁーっ遊んだねー」
背伸びして、眠そうにそう言う姫奈を見てクスッと笑う杏香。
「ええ。色々買ってたら袋嵩みました」
両手いっぱいに抱える紙袋を見てアハハと笑う姫奈。
「そういう日もたまにはあっていいんじゃない?」
「仕事も忘れず、定期的な休暇はやはり重要です」
杏香も提案に納得するようにそう言うと、真っ直ぐ駅の方へと向かった。
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