4話–1 問答無用ぅッ!!
――二一〇六年五月一日
「んで、なんかわかったんかい?」
昨日の事件の影響で今日は学校は休みなのだが、姫奈たちは休みではない。爆破未遂事件の主犯、ジェームズ少年が何処かで爆弾の取引をしているはずなので、それを調べて根本を叩き折らない限りは解決とは言えないのである。
「んー……そうねぇ。監視カメラのログは全部よこしてもらったんだけど、な〜んか引っかかるのよ」
警察機構からもらった情報に納得がいっていないダリアは、仕事机の上のパソコンを睨みつける。それを姫奈が横からヒョイっと覗き込む。
「どこが引っかかんの?」
「ここと、ここの同じ場所を別角度から撮影したカメラを見てなさいよ」
「ほぉほぉ」
ダリアが一つ目に指し示したカメラには車が通ったような映像が差し込まれている。二つ目に指したカメラにも同じ車が通ったように見えた。
姫奈は首を傾げてダリアに尋ねる。
「え?どこがおかしいのさ」
「この二つの映像、全く違う映像なのよ」
ダリアの指摘に、姫奈は目を凝らしてよく見る。確かに、前者は対向車線に近いところを通っているが、後者は外側を通っている。
「……よくわかったね」
「情報分析は得意分野よ〜?」
素直に感心してそう褒めると、ダリアは得意げに応答してみせると、仮説を立て始める。
「都合が悪いもの、例えばジェームズ少年に爆弾を引き渡した犯人が使っていた車が映ってた映像を別の映像に差し替えたんでしょうね」
「とすると、とんだヘタレハッカーだな?」
「ええ三流ね」
姫奈とダリアの辛辣な評価が下されると、ダリアは作業に取り掛かる。
「んー……今晩くらいには足取りが掴めそうかしらね?」
「じゃ、わたしはそん時まで休むよ」
姫奈は首をポキっと左右に曲げながら、ダリアの仕事部屋から退室した。途端に防音機能が無くなるので、隣に据えられている射撃訓練室から銃声が聞こえる。姫奈は自分も立ち寄ろうかと扉を開く。
「どうかなワルサー?」
丁度、望海高校制服姿の杏香が全弾撃ち終えた後だったのかイヤーマフを外してワルサーp88を置きながら視線を目標に向ける。すると、全弾完璧に頭を捉えていたので、姫奈はパチパチと拍手をしてみせた。
「今度は姫奈の番ですよ?」
「お、いいぜ〜?」
腰のホルスターに刺さっていたベレッタ92を抜いて、弾倉を引き抜いてからストンと一度置く。イヤーマフをしてから弾倉をグリップ下部から装填し、安全ロックを外して構える。それを感知した機械が自動で目標をスーッと動かし始める。レーンは三つあり、どこから出てくるかわからない。しかし、それは姫奈にとっては関係のないことなのである。
先ずは左レーンから出現すると、杏香がそれを感知した時には既に頭部に穴が二つ空いており、続くは右レーンも目標も既に制圧済み。最後はもう一度左レーンから出現し、それも瞬時に撃ち抜いてしまった。
全制圧を確認すると、安全ロックをかけてベレッタ92を置いた後にイヤーマフを外して置いた。途端、雰囲気がガラッと変わり満面の笑みでピースを見せつけてくる。
「完璧〜!」
「凄すぎですね……」
呆れるより他ない杏香は、苦笑してから訓練場後部の武器庫に据え付けられている巨体、EG82
「望海高校爆破未遂事件以前の数ヶ月、コレの出番が無くてあんまり触れていなかったんですよね」
杏香にとってはもう一機の愛銃なわけだが、初運用時に有用性が示されて以来世界各地のSOU支部に配備されている。日本国内は他国に比べ比較的安全ということもあり、この一機しかない。
「使わんに越したことはないけどな?」
「ええ」
姫奈がEG82を眺めながらそう言うと、杏香もフッと微笑んで相槌を打つ。
「うーん……」
突然、姫奈が杏香の服装を顰めっ面で眺める。
「な、なんですか……?」
割と舐め回すように見てくるので気味悪がりながらそう言うと、姫奈が何か思いついたのか身体をポンと跳ね上がらせる。
「あ、そうだ!いい加減杏香の私服買おうぜ?」
「あー……」
言われてみればで自室のクローゼットを頭に思い浮かべてみても、そこに服が収められている様子が全く想像できない。微妙に考えた末、姫奈に返答する。
「……付き合って頂けますか?」
遠慮がちにそう尋ねると、姫奈の顔がパァッと輝いて杏香に飛びつく。
「勿論だよ〜ッ!」
距離があまりに近すぎて耐えられない杏香は姫奈を引き剥がそうとするも、それなりに怪力な姫奈を剥がすことは叶わなかった。
「っしゃあー早速いく準備しよっか!」
姫奈の抱きつく手が杏香の制服のシャツのボタンに掛けられると、数ヶ月前を途端に思い出して必死の抵抗をする。
「うわ、ちょ、またです⁈ダ、ダメですって!せめて更衣室で……」
「問答無用ぅッ!」
「ギャーッ!」
またもや服を含む身包みを剥がされ、人生二度目の恥辱を味わうことになった。
姫奈は杏香の制服を剥がした後に、杏香唯一の私服にして姫奈のお下がりである純白ワンピースを取りに行く。その間、杏香は下着の上からジャケット一枚で寒さを凌ぐという完全な痴女スタイルであった。故に、なるべく下着と肌が隠れるように体操座りまでしていた。
「お待たせー!」
あまりにも何も考えてなさそうな能天気女が入ってくるや否や、杏香は頬を赤らめて指差しながら抗議する。
「お待たせじゃないです!身包み剥がすにしても服を先にもって来てくださいッ!」
「え……これからも身包み剥がしていいんすか……?」
「揚げ足取り⁈」
姫奈の驚愕の表情に杏香は恥ずかしさか怒りか、はたまた両方かで赤面して言い返す。
「まぁまぁジャケット脱いで、ハイ」
手渡されるとそれを奪うようにして取って、ジッパーを下げて着込む。長い金色の髪を首筋が姫奈の見えるようにかきあげて要求する。
「閉めてくれません?」
「はい〜」
要求通りグイッと閉めると、杏香は剥がされた制服を手に持って自室に納めに行った。取り残された姫奈も、色々準備をするために自室へ戻ることにした。
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