3話-4 mission complete
「うん!じゃあ、気を取り直して作戦会議だね」
改めて卓上を見ると、相変わらず待機しているSF隊員たちと山荘、前線拠点の姫奈――アインスたちを示す点が四つ並ぶ。
「扉は北と南に一つずつ、窓は少なく突入は難しめときた」
「旧赤軍の拠点らしいからな」
ラゲナは腕を組んでそう補足すると、アインスはだろうねと頷く。
「二階は無いんですね」
杏香――アンジュが建物をタップすると、右上に建築物の情報が出現する。
「……撃つ?」
アインスはチラッとアンジュとEG82
「本当に使うんですか?」
「うん」
当のアンジュは半信半疑で聞き返すとアインスは普通に頷いて返す。それを聞くや否や、アンジュは分割されたEG82
「となると、なるだけ高いところから赤外線透視スコープを使いつつ壁ごと一人撃つってことでいいですか?」
「そうそう!対人向けに対物ライフルを使うなんて向こうも思わないだろうしね」
「そもそも国際法違反よねぇ」
ダリアが苦笑いしながら指摘すると、砲身部分を受け取ったラゲナがそれを眺めつつ言う。
「『特権』の力は伊達じゃ無い」
「まぁね。それで、撃ったら相手は混乱するだろうから、先ずは人質とされている三人の無力化。その上で残りの犯人五人を殲滅だよ」
「コイツで狙うべきは一番中央で駄弁ってるやつ、ですかね?」
アンジュも
「だね」
射出式のテザーガンを取り出し握りこむ。
「もし人質の監視役がいたらラゲナは私のバックアップに回って……いや、いいや。ラゲナもテザーで人質たちの北扉の無力化を」
ラゲナは特に疑問にも思わず了解して、砲身輸送の任務をするのに対してアンジュは疑念の表情を向ける。
「大丈夫、ラゲナが説明してくれるから」
それを聞くと、やや納得いかないながらも頷いて目標地点のやや高所な場所へと歩いて向かった。
「ダリア、SFの隊員にも汎用回線を通して」
「了解ーっと……ん。これで聞こえてるはずよ」
首にそっと手を添えてから、静かに声を出す。
「では……こちら
アインスは一息吐くと、右手にベレッタ92を持ち左手にテザーガンを持つ。
「いいのかしら?またSFの司令官に文句言われるわよ」
珍しく表情を見せずダリアがアインスに尋ねる。
「いいんだよ。ていうかむしろ邪魔」
というのは強がりでもなんでもなく、まさに事実なのである。改造されていなければ、内装の壁の多さを考えても突入された時に少数が大人数を捌くことを主眼に置かれた設計だからだ。そして、アインスの戦闘は例え人的不利に立たされても一人でなんとかしてしまう超人的な能力である。故に、味方が五人を超えると邪魔になるのである。
「さて……どこまで上手くやれっかね?」
目標まで向かったアンジュの方を眺めながらそう呟いた。
「本当に一人で大丈夫なんですか……?」
「ああ。テザーガンなら反動は皆無だから正確な連射が可能だ。それに、意味のないところで爆散はしないからな」
「え、今なんと……」
アンジュは聞き間違いかと思い、ラゲナに尋ね返すも、やはり仏頂面は崩さない彼は平然とより具体的に返す。
「言葉通りだ。AUNのメンバーのうち、限られた人員が腹の中の爆弾を詰め込んで
つまり、言うなれば解除不能の人間爆弾ということである。アンジュは思わず腹を触り、想像しただけでも異物感を感じてしまう。
「そうまでして恨みを募らせるんだから、彼らの決意は本物だ」
ラゲナは前方からし視線を逸らすことなく、山道を歩き続けるが、アンジュは戸惑う。
「……ですが、やり方がいけませんよ」
アンジュの反論にラゲナは同意するように頷いて返す。
「だな。やり方がテロだから民衆には支持されないさ。証拠に少し前に行った世論調査でも、AUNの抗議内容には共感できてもやり方がよくないという意見が多かったようだ」
自分もその被害者の一人であるという自覚を持つアンジュは、その意見に同意する。
「まぁそう言うわけで、意味のないところで自爆なぞせん上に間取り的には扉を開けると細い廊下があるから邪魔になるだけだしな……さて、ついたぞ」
そうこう会話しているうちに、目標地点に着くと背負っていた荷物を下ろす。
「アンジュの射撃から作戦は始まるからな。距離にして約一キロメートル、余裕だろ?」
アンジュは自身が持っていた方の本体を立て、砲身の二脚を立てつつ接続する。
「もちろんです」
接続不良がないか確かめると、親指を立ててラゲナに示そうとしたが、もうそこにはラゲナはいなかった。
「というか、そもそもマッハ五で進む弾ですからね……っと」
赤外線透視スコープ接続し、覗き込むと顔認証サインが表示される。ほぼ中央で休憩している男、扉は開けてアサルトライフルを構えて監視する、顔認証上は人質とされている男と女が南に一人ずつと北に男が一人。人質の監視役がそれぞれ南と北に一人ずつ。二つしかない窓はそれぞれAUNのメンバーが監視しているようだ。
「天井を破って砲撃してくるとは思わないでしょうね……」
スコープを通して見えたものを全て、作戦に参加するSOUメンバーに送りつけたのであった。
しばらくすると、全員から準備完了の合図が来る。
アンジュは
中央の個室で一人呑気に休憩している男をロックすると同時に、チャージ完了のサインがスコープ内に現れる。安全ロックを解除し、再度トリガーに指をかける。
「ふぅ……」
狙撃のルーティンみたいなもので、アンジュは息を一つ吐く。そして、驚くほど軽い引き金を過剰な力でグッと引く。
◆◆◆
男は同じ場所に篭って既に七日も経ち、ストレスが異様に溜まっていた。同じ飯に変わらない風景。常に、殺されるかもしれないと気を張りながらも半ばうんざりしていた。それでも、自分がやっていることは正しいのだと思ってここまで耐えてきたがもう限界だった。行動を起こした仲間は誰一人として帰ってこず、一人残らず逮捕されていると聞く。
故郷に残した息子、娘に会いたい。子供たちをバーンズインストーラーから守るために組織に入ったことを、天井を見上げて思い出す。まだ折れることはできないと立ち上がった直後だった。
天を裂かんばかりの轟音と共に、男の上半身は文字通り消し飛んだ。
「なんだ⁈」
家屋が震え、天井にヒビが入る。あまりの突然の出来事にテロリストたちは完全に我を失い、事が起こったであろう中央の部屋へと向かう。そこには上半身が消し飛んでいる仲間の姿があった。
しかし、それしかなかった。
銃が爆発したにしてはあまりに大きすぎる被害。悲惨な状態の部屋を呆気に取られて眺めていたが、その命も――
パンッ
天井の大穴から、一つの人影が部屋の様子を確認しにきた男の頭を正確に撃ち抜く。
「……一つッ!」
その人影は、南扉付近で待機していたはずのアインスであった。
アインスはアンジュから送られてきたデータをミッショングラスに映す。すると、大方予想通りの配置だったのでよっしゃと思いつつも、これから穴が開くことになる天井のことを考える。もしかすると、穴から中に入った方が良いのではと思ってしまったのだ。かつて実験でやったことがあるのだが、
ならば、内側に向かって殺害対象が多く、廊下が極端に狭い構造を考えればどう考えてもそうした方がいいに決まっているのだ。
とすると、自分以外の配置はこのままでいいので自分だけ山荘上部の木を見る。人が乗って折れなさそうな枝は都合良くちゃんとあったので、久方ぶりの木登りを実行することにしたのだった。
アインスは室内の悲惨な死体二つに目をくれることなく、すぐさま廊下に出ると愛銃の口を部屋から最も近い窓側に向けて三発。北側はラゲナを信じて、真っ直ぐ南へ駆ける。
直後、背筋がゾワッとする。
曲がり角付近にアサルトライフルを持つ人間がいることを直感的に予測すると、出てくるタイミングを測って一発牽制射を前方に行い、ゼロコンマ秒単位で二発目を相手がライフルの引き金を引く前に放つ。
女の死体が後ろに倒れていったことを確認するとテザーガンを左手に携える。しかし、道は一本しかない。これでは蜂の巣であることは確実だ。殺すなら簡単だが、生け捕るとなると途端に手段を思い付かなくなり心底焦るアインス。だが、その心配は一瞬にして杞憂のものとなる。
ドンッ!
再び轟音が響き、今度は南扉から離れたところへ着弾する。それに気を取られてしまった人質二人に対して、素早くテザーガンを打ち込み一時的に無効化し、念のためにサッと手錠をかける。
とりあえず難を逃れたアインスはミッショングラスを起動し、ラゲナの状態を確認する。
『
「こちらアインス。一旦の状況終了を宣言します。保護した人質がこちらに対して抵抗しない確証が得られないので、後の事は
一方的にそう宣言すると、アインスはとっととその場から引き上げたのだった。
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