3話-2 ストックホルム症候群よ。多分

――その頃


「そっちはどうかしら、ラゲナ?」

 ほぼ全員が撤退した3-Pトリプルピーの前線拠点でノートパソコンを開くダリアは、汎用通信機で呼びかける。

「どうやら食糧を大量に持ち込んでいたらしいな。あと数週間は保つと返してきた」

 まさに前線で交渉中のラゲナは淡々と状況を説明する。

「ま、そうよねー。だってその山荘廃棄物件だったみたいだし。地理を考えても計画的にここを選んだんでしょうね」

「だろうな。誘拐した人をそのまま人質にしたんじゃないか?」

 ラゲナがそう尋ねると、ダリアは裁判所が出している逮捕状を検索する。該当事件をスクロールをする間も無く発見すると、ダリアは感心の声と共に答える。

「見たいね。時期も丁度くさいし、計画されてたっぽいわ」

「そしてAUNの構成員が主体になってる……と」

 ミッショングラスを操作して、犯人の顔が見えるくらいまで拡大する。

「見たことある人達なのかしら?」

 ミッショングラスのカメラ機能を通じてダリアもラゲナの視界を現在パソコンで眺めていると、ラゲナにそう尋ねる。

「……いや、見ない顔だな」

「あらあら、それは残念」

「全くその通りだ。敵が不憫でならんよ」

 地理的な情報や、現状況を纏めて拠点へ戻ってきたラゲナは早速ダリアのパソコンの画面を覗き込む。

 ちなみに、ラゲナもダリアも現地入りしたのはつい先程なので、現在は状況把握と必要な機材の選定の役割を担っていた。

「EG82電磁対物狙撃砲レールライフルと赤外線透視スコープは必須で、後は通常の狙撃銃スナイパーライフルもいるな」

 ラゲナが提示した必要装備のあまりの内容に少々ドン引きするダリア。

「……やりすぎではないかしら?」

 しかし、ラゲナはどこかくぐもった口調で反論する。

「……いや、どうだろうな。

 それはダリアも気づいていたが、彼女にはそれに対する更なる反論をぶつける。

「ストックホルム症候群よ。多分」

 ダリアの指摘にラゲナは俯いて目を瞑り、少々熟考する。

「アインスがどう判断するかだな」

 どこか諦め混じりの溜息を吐きながら、ダリアはあの新入りの少女の顔を浮かべて微笑む。

「……あの子は猛反発するでしょうね」

「だろうな」

 ラゲナも予想はできると頷く。

「とりあえず念には念を、ということでこの装備をアンジュちゃんに送りつけるわね」

 一応の報告をしておいてから、ダリアはアンジュの首輪チョーカーに直接情報を送りつけると伸びをする。

「うーん……はぁ!私たちもこの間に何か食べようかしら?」

「要らん」

 軽食の誘いを速攻で断られ、大いに不満げな様子を漏らす。

「なんでよ⁈」

「これから戦闘になるのに飯を食べたら腹痛くなるだろうが」

「腹が減っては戦はできぬって言うわよ?」

「人の習慣にケチをつけるなまったく……」

 二人の会話をこっそり盗み聞いていた3-Pトリプルピーの隊員がコソコソ話す。

「特務隊の人ってめちゃくちゃ強者揃いなんじゃなかったのか?」

「アインスって呼ばれている人はめちゃくちゃ怖いらしいぞ……?」

 逆にそれを盗み聞いていたダリアが思わず吹き出す。

「……ふ、ふふふふ……あの子が怖いわけないわよ」

「AUNに容赦がないだけでな」

 さもありなんと頷くラゲナは、コソコソ会話していた二人にギロッと目線を向ける。すると二人は怯えたように逃げていった。

「怖いもの知らずって本当にいるのね」

「それこそアインスのことだろうが」

 数十分後に二人が到着するまでに、結局ラゲナはカップ麺を食したのであった。

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