第1夜 ねこの贈り物

「夜はずいぶんとすずしくなってきたね」


「人間の体温たいおんこいしい季節だよね」


「これからの季節はいいけど、うちは夏でもとにかく猫にくっつきたがる人間ばっかりだから、ちょっとまいっちゃうよ」


「ああ、それは大変だね。人間の相手もあんまりしつこいとつかれるよね」


「いいなあ、飼いネコは。おれなんてその日暮ひぐらしの放浪生活ほうろうせいかつだから、これからの季節は寒くっていやだなあ」


「きみも、人間の家に住まわせてもらえば良いのに」


「いやあ、おれはもう放浪生活ほうろうせいかつが生きがいのようなものだから。だけどたまに行くとご飯を頂ける『行きつけの家』てやつは、けっこうあるよ」


「あ。それって3丁目の豆腐屋とうふやの横の赤い屋根の家じゃない?あそこのご主人はりが好きで、釣ってきた魚をひらきにして縁側えんがわ天日干てんぴぼしにするらしいんだけど、いつもかずってるって、だれかが持っていくんだ、ってうちの飼い主にぼやいてた。もしかして君が食べちゃったんじゃない?」


「あれは、おれのために置いてくれていたんじゃなかったのか。それはいかんな。今度、もぐらかねずみが取れたらおびに置いて来るとしよう」


「うん、それはいいね」


「きっとよろこぶよ」


「いきなり贈り物されるのって、『サプライズ』っていうらしいよ。『サプライズ』されると、人間はすごくうれしいらしいよ。人間のお兄ちゃんがってたのを聞いたことがある」


「それ、私も聞いたことある。突然とつぜんやるのが効果的こうかてきらしいわよね」


「それは良いことを聞いた。さっそく、これから畑のモグラ穴をのぞいてみるとしよう」

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