第6話 ナイトメア

ピッ、ピッ、ピッ…



3 3 2…


ピッ







 地下神殿の中に、微細な振動が波紋のように広がる。


 ジムが複合周波サイマティクスの上昇を感知し、咄嗟にレーザーカノンを前方の暗闇に向け、サーチを始めた。


< まて、ジム… >

< 彼らA333かもしれない >



{ …



 更に不可解な微振動が伝わってくる。



< マスター・ミネルバ >

< 解析できますか >


< …ちょっと待って、今調べています >

 ミネルバが少し動揺しながら応える。



ゴゴ…




{ … ・・ムゥ




ゴゴゴゴ…




{ ・・ムゥ  




チ…


―ゴガッ!

突然、地下神殿の天井が割れ、複合周波サイマティクスの数値が跳ね上がる。


< ディヴ! >

―ガチャ!

 ジム、スコット、L-MTが周囲の複合周波サイマティクスの変異に反応し、戦闘モードに移行。

 ファンネルを開き、セーフティ・ロックが解除されたレーザーカノンを周囲に向ける。


< マスター! >

 ウォールトンは前方の闇を見つめながら、声を張り上げる。


( アレックス! )

< だめよ! あれは…

 動揺したミネルバが叫んだ、 ―その時


―――ゴッガッァァァ!!


 割れた天井が轟音を上げながら崩れだし、黒色のグラファイトと共に、大量のクリスタルが水の中に落ちてきた。


 天井の崩落は、大量の気泡とうねりを生み出し、ウォールトン達は、そのうねりに押されるように、入ってきた岩穴の方へと流される。


――ゴォォォォォ


 ウォールトン達は流されながらも態勢を整え、再び天井が崩落した場所に目を向けると、崩落した瓦礫の気泡も消えてゆき、前方の視界が落ち着きだしてきた。


 地下神殿の中は、再び静寂に包まれる。



 ウォールトン達は瓦礫が落ちて来た周囲を警戒しながら、データを解析している。


ピッ、ピッ、ピッ…




――{ ※※ムゥ


 すると、地下神殿全体に、不可解な強振動が響き渡り、同時に複合周波サイマティクスの数値が一気に跳ね上がる!


―ピィ!ピィ!ピィ!

―Alert! Alert!

 同時に、けたたましく、L-MTのアラートが意識内に鳴り響く。


――ゴッ!

 瓦礫が落ちた場所から、暗闇に透過した何かが、物凄い速さでウォールトン達に迫ってきた。


< デーヴ! >

――ズッバァァァ!!

 ジムが叫ぶと、赤色の激しい閃光が水中に走る。

 その閃光は、前方で警戒していたL-MTがオートディフェンスを発動し、目前に迫る脅威に対して、レーザーカノンを放っていた。


―ピィ!ピィ!ピィ!

―Alert! Alert!

 異変を感知した後方のL-MT二体も、暗闇に透過した何かにレーザーカノンを向け、続けざまにレーザーを放つ。


―――― ――――


 しかし、レーザーは暗闇に透過した何かを破壊する事はなく、乱反射しながら通過。


< Pi! >

――ゴッガァ! ――ゴッガァ! ――ゴッガァ!

 L-MTに暗闇に透過した何かが突進。避けきれず、まともに体で受けたL-MT達は、次々と破壊されてゆく。


< ジム! >

< 一旦引け! >

 しかし、暗闇に透過した何かは、ウォールトン達にも迫ってきた。


――――――――――――――――――!!!

 一瞬の間を措いて、隊の前方の水中が激しく振動! 暗闇に透過した何かが跳ね返されてゆく。


―ハイパーソニック!


< 全員、岩穴の外に退避しろ! >

 ウォールトンが、ハイパーソニック弾を暗闇に透過した何かに向け、放っていた。


しかし

――ゴッ!

 暗闇に透過した何かは、ハイパーソニック弾を放ったウォールトンに集中的に向かってきた。


―クッ

 ウォールトンが身構える。


―――ゴォッ!

 その横を、物凄い速さでなにかが、激しい気泡の渦を発生させながら、抜けてゆく!


< ディフェンス! >


――ゴッガァァア!!

 ウォールトンが叫ぶと同時に、目の前に迫った物体が爆発。


―ゴォッ!―ゴォッ!―ゴォッ!

 間髪を容れず、複数のアフターバーナーの渦が横を抜けてゆき、

地下神殿に響き渡る轟音と共に、きらきらと、水中に美しく煌めく破片が、爆発の光を反射させながら、散乱してゆく。


< 止めるんだ、Nightmareナイトメア! >


 暗闇に紛れながら、音もなく首元をえぐり、狙われた獲物が、自らの死を感じない程に、密かに、かつ確実に、相手を仕留める狩人。


 残されたその後には、遺骸でできた道と、絶望しか残されていなかった。


――No.1 強襲部隊  ナイトメア


その制圧能力と、破壊力は、

まさに


悪夢であった。







 クリスタルで装飾された神殿が、灰色の渦と、きらきらと輝く破片に包まれている。

 その混乱の中、水中の闇に紛れながら、黒い揺めきが、ウォールトンの周囲に近づいてきた。


 …戦闘態勢、フォーメーションCZ-332 >


 …大佐 >


< ミネルバか >

< はい、マスター・ミネルバのご命令です >


< 制圧は無しだ。俺をこの奥に送り届けろ >


< 了解、大佐…


 ウォールトンは、黒い揺めきと淡々と言葉を交わすと、その揺めきは、再び漆黒の闇へと消えていった。


―― 全ては、Guardianガーディアンに委ねられている…


 ウォールトンは、揺めきの奥に見えるミネルバを見ながら、意識の中でささやいた。


 いつの時代も、人の判断は大きな過ちを繰り返してきた。

 月を失った人類は、次の最悪を回避する為に、中立で確実な判断を求め、人類はTUを設立した後に、全ての判断を、創造された意識体、Guardianガーディアンに委ねた。


 Guardianは時として、人の判断が必要な場合は、人の見解も審議の場に求めたが、その最終結果は、Guardianが決定しており、人が判断する事はできなかった。


だか、これは誤りだ。


 シヴィライゼーション文明の対立を危惧した結果、最もセンシティブな機械が、過ちを犯してしまった。

 それを回避する為に、文化、芸術を担う、マスター・ミネルバが同行したのにもかかわらず、


そのマスターがトリガーを引いてしまった。


あの時、ナイトメアが銃を向けなければ…



――ゴッ!

 ウォールトンの動きが一瞬止まった瞬間、突然、暗闇に透過した先程の物体が、BIR-Fに襲いかかって来た。


――パパパパ!

 物体が動くと同時に、水中に破裂音が響き渡る。


 BIR-Fの前方に移動をしていたナイトメア隊が、武器をマシンガンに切り替え応戦し、BIR-Fを守りながら、徐々に後退してゆき、BIR-Fもナイトメア隊の動きに合わせ、入ってきた岩穴の方へ後退する。


< 大佐、クリスタル闇に透過する物体を引き付けます。タイミングが良い所で離れて下さい >

 ナイトメアからの通信を聞いたウォールトンは、自らの隊に指示を出し、BIR-Fは二手に分かれ、闇に紛れるようにナイトメアから離れてゆく。


 その間にも、激しい破裂音が響く度に、きらきらと美しいクリスタルの破片が飛び散ってゆき、ナイトメア隊は、クリスタルを引き付けるように、マシンガンを撃ち続け、水中は、クリスタルの煌めきと、マシンガンからの煙で視界が閉ざされてゆく。


< ジム、ケビンを付ける。一緒に行け >

 すると、ナイトメア隊からの通信と共に、三体のInvincible特殊戦闘用の Soldier分身体と、同じく三体のL-MTが隊から離れてゆき、

 分隊を受け取ったジムは、ナイトメア隊の隊長、グレアム・アレクサンダーアレックスに挨拶すると、分隊と共に闇に消えていった。


 激しい破裂音とクリスタルの破片が地下神殿の内部に広がりながら、ナイトメア隊は徐々に岩穴の方に移動してゆく。


 ナイトメア隊は、発砲しながら岩穴を抜け、地底湖の奥へと後退すると、それを追うようにクリスタルが破片を散乱させながら追いかけてゆく。

 その様子を岩穴の入り口付近に身を隠したBIR-Fがセンサー越しに注視し、クリスタルが通り過ぎるのを、身を潜めながら待っている。

 戦闘の騒音は徐々に遠のき、BIR-Fの周囲が再び静寂に包まれると、ナイトメアの後退と共に、目の前が再び闇に閉ざされていった。





 しばらくすると、岩穴から少し離れた場所が揺めき始め、その黒い揺めきは、二方向に分かれて地下神殿の底を漂いながら移動し始める。

 その揺めきは、ある程度進むと停止し、一時の間その場に留まると、


再び、地下神殿の奥へと移動してゆく。



…マット 騒ぐなよ


 ジムが、背面移動をしながらマットとマイヤーの背後につき、その左右をナイトメアのInvincible特殊戦闘用の Soldier分身体と、L-MTが蓋をするように配置についている。

 同様に、ウォールトンとミネルバを、スコットとナイトメアがカバーし、暗闇に包まれた地下神殿の底を、移動してゆく。



 地下神殿の内部は、微細な複合周波サイマティクスを放出しているのか、センサーがその揺めきを感知しているが、先程の様な違和感を感じる事はなく、天井が崩落した場所も、何事も無く、通り過ぎようとしていた。


すると


ガ… ラ…

小さく、天井がくずれ、再び微振動が地下神殿内に広がってゆく。



{ …






――{ ※※ムゥ


――― ゴッガッァァァ・・・・・・・!!


< まずい!天井が崩れた >

< 急ぐぞ! >

 ウォールトンがBIR-Fに指示を送ると、全員が警戒態勢を解き、スラスターを全開にし、一気に地下神殿の奥へと進んでゆく。


―――ゴッォ!!


 しかし、そのBIR-Fの移動速度を凌ぐほどのスピードで、水中に落ちてきたクリスタルが迫ってくる。


< 散開しろ! 壁ギリギリまで広がって応戦! >

 ウォールトンがBIR-Fに指示を出すと、隊員達は素早く散開。

 L-MTが前面へ移動し、迫るクリスタルにキャノンを打ち込みながら、全速で奥へと移動を続け、急速に迫り来るクリスタルの脅威に、押し潰されるような緊迫感が増してゆく。


 すると、焦りで動きが鈍くなったマットが、徐々に遅れだす。


< マーット! 急げ! >


―――ゴッォ!!

クリスタルが一気に迫る。


――ゴッガ!!

――ゴッガ!!

クリスタルは、L-MTを破壊しながら、隊員達に迫る。


―――ゴッォ!!

「 あぁぁぁ!!!…


< マーット! >



―――ゴッ…


鈍い音と共に、クリスタルの突進をまともに受けたマットのArdyが、粉砕。


ボディが水中の暗闇に消え、


バイタルを示すシグナルが



途切れた。




しかし


―――ゴッォ!!

クリスタルは容赦なく、ウォールトン達にも襲い掛かる。


――ズッバババババババ!!

 ウォールトン、ジム、スコット、ケビンが武器をグレネードランチャーに変え、激しく移動しながら応戦。

 クリスタルは激しく破片を飛散させながら、衰える事無く突進してくる。


―  クッツ!



{ … ・・・こっち  …


―ゴッ


すると、ウォールトン達の下にあった通路が光り出し、



―――ゴッガァァァァ!

突然、通路が崩れ、同時に、


―――ゴォォォォォォ!!

水が一気に落ちてゆき、ウォールトン達は、その水流の勢いに飲まれる様に、



地下神殿の底へと落ちていった。

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