第5話 地下神殿
I
クリスタルが溶け込むグラファイトの岩壁に触れながら、ウォールトンの
ウォールトンは、
ただ、隊の中でも、ウォールトンが話す、
唯一、それを理解しているのが、
しばらく、きらきらと輝くクリスタルが溶け込んだ洞窟を抜けると、ナイトフォークの映像に映し出されていた、ドーム状の空間に辿り着いた。
そこは、ドーム状の天井も相まって、何か講堂のような空間が広がり、その下に水が溜まっている様な感じの、地底湖が存在していた。
「よし、地底湖に着いたぞ」
「ここから三キロ潜航し、十キロ先にある坑道の入り口を抜け、内部に入る」
「フォーメーションSA-2、ジムが右、スコットが左だ」
ウォールトンがフォーメーションの指示を終えると、BIR-Fは、L-MT 二体が前後を守り、冷たく闇に閉ざされた、地底湖の中へと入って行った。
…
BIR-Fが、深く、深く地底湖の奥へと潜航し、水深と、闇の深度を深くしてゆく。
地底湖の内部は闇に閉ざされ、上下の感覚さえもわからなくなる程に、何も見る事はできなく、少しでも気を緩めでもしたら、パニックを起こしかねない、危険な闇に覆い尽くされていた。
「
ウォールトンは、ナイトフォークを横長の菱形状に配置し、その中に、重力と共に、常に上下左右の感覚を感じる事ができる、潜航用のセーフティエリアを構築する事で、暗闇での潜航でもパニックにならず、任務を遂行できる空間を展開させた。
しかし、全ての心理的な恐怖を抑える事はできず、人の意識体を持ち、進化した機械の
< マイヤー、どこにいるんだよ>
不安げな声色でマイヤーを探すマット。
< あなたの横よ。BIR-F全員、表示されているわよ >
少し無感情に応えるマイヤー。
< 表示って、センサーで捉えた
その会話を聞いていたウォールトンが潜航しながらジムに声を掛ける。
< ジム、ライトをつけるか >
< 周囲に異常は感知していないしな、どうだ >
< …了解、ディヴ、問題は無さそうだ >
意識内のセンサーをチェックし、ウォールトンに応えるジム。
< スコット、ライトをつけるぞ、同時に警戒レベルを3に上げる >
< 了解 >
スコットの返答を受けると、ウォールトンは、ナイトフォークとL-MTにライトを点灯する指示を出した。
―――
ライトが点灯すると、BIR-Fの周囲を明るく照らし、暗闇の孤立感からは解放されたが、そのライトの灯りは、周囲の闇に飲み込まれるように、暗闇を少し押し返すだけで、何も捉える事はなく、不安を抱えたまま、暗闇の中をBIR-Fは更に潜航を続ける。
…
地底湖の潜航を開始してから深度が約三千を超え、ドーム状の空間から九キロほど前方に移動した頃、ジムが何かを発見し、ウォールトンに声を掛けた。
< ディヴ、あそこを見ろ、入口が見えてきたぞ >
ジムが、入口らしき場所を見つけ、座標をウォールトンに送る。
すると、暗闇に閉ざされた地底湖の奥深くに、岩壁が崩れ、その先に入れそうな岩穴が、不気味な闇を内包し、姿を表し始めた。
< ライトを消せ >
ピッ、ピッ、ピッ…
不気味な闇に閉ざされた岩穴の入口に、ウォールトン達、BIR-F小隊が闇に紛れ辿り着く。
BIR-Fは、岩穴の入り口で待機すると、偵察の為にナイトフォークを岩穴の中へと送り込み、そこから得られる情報をジムとマットを中心にリアルタイムで分析を開始。
ナイトフォークを五キロほど先に先行させた所で、ウォールトンは暗闇に潜む、隊員達にパルス通信を送った。
< 周囲はそれ程広くないが、距離はあるな、まだ続いている >
スキャニングをした地形図を確認するウォールトン。
<
< …まぁ、あえて言うなら、クリスタルの量が多いくらいですか >
ジムが成分分析を見ながら、冗談混じりに応えた。
確かに、地下に行けば行くほどに、クリスタルの含有量が異常に多くなる。
地球でも、地下に行くほど、クリスタルなどの鉱脈に出会う事はあるが、果たしてこの反応は、鉱脈がある事を示しているのか、別の何かを示しているのかは、今の情報だけでは、判断する事はできなかった。
ただ、クリスタルは、
…
これは、誘い込む罠か。
こんなにも解り易い足跡を残して、
それとも、試されているのか ――
しばらくの間、闇を見つめながら考えると、何かに納得したのか、ウォールトンは隊員達の意志を確認する。
< 行くか >
ジム、スコットが、二本の指を目蓋の上にあて、小さく合図をし、マット、マイヤーも小さく頷いた。
それぞれの意思を確認したウォールトンは、再び岩穴の暗闇を見つめると、静かに右手を上げ、その手を暗闇の方へ下ろし、行動開始の合図を出した。
ウォールトンの合図と同時に、L-MT、一体が、音も無く岩穴の中に入ってゆく。
ジムが、センサーの情報をチェックし、問題がない事を確認すると、トライアングルに守られた、BIR-Fが進入してゆき、ジム、スコットが身体を回転させながら、素早く周囲の状況を確認してゆく。
< LHクリア >
< RHクリア >
ピッ、ピッ、ピッ…
< 生体反応無し >
…
L-MTの後ろに付き、暗闇の先を見つめるウォールトン。
ジムの報告を受け、周囲に意識を集中する。
…
――やはりな。
このまま警戒を維持するより、素直にこの状況を受け入れた方が、動き易いか…
静かに意識を集中していたウォールトンは、レーザーカノンを下ろし、警戒を解くと、ゆっくり暗闇の周囲を見渡し、自らの声で隊員達に指示を出した。
「全員ライトをつけろ、警戒しなくていい」
< ディヴ、大丈夫か >
ジムが、警戒しながら応える。
「ジム、大丈夫だ、ここには何もない」
「それに、ライトをつけた方が動き易いしな」
ジムとスコットは、あまり納得はしていない様子だったが、警戒しながらL-MTに指示を出し、再びライトをつけると、灯りが周囲を照らし始めた。
すると、
「マスター…」
そのライトが灯す光の先に、壁の壁面が反射し、
「…お、おい」
徐々に、その全容が姿を現し始めた。
「クリスタルの… 壁画…
Ⅱ
色鮮やかな水晶達が、きらきらと輝き、滑らかに整えられた壁面に、精巧な模様を描きながら、整然と埋め込まれている。
その精巧に創り上げられた壁面の装飾は、ウォールトン達を圧倒する程に大きく、通路のような空間の天井から、その先にまで広がり、整然と整えられたその様子は、何かを崇める、神殿の様であった。
「ディヴ、何だここは」
ジムが警戒をしながら、ウォールトンに声を掛ける。
「神殿…。 それと何かの」
「メッセージか…」
神殿らしき壁面に描かれた、クリスタルの装飾は、幾何学模様のような、複雑な文様を描き、何かの儀式や、風習を表しているようにも感じ取れる。
すると、ミネルバがウォールトンの方へ近付いてきた。
「アヌ、もしくはキナの神殿よ」
「キナ…」
(どこかで聞いた事がある様な響きだ。)
「天空の民アヌと、大地の民キナの事ですよね」
マイヤーが、その存在について応えながら、会話に入ってきた。
「詳しい文献は残ってはいませんが、ある地域の伝承で語り継がれている神話の物語で、人の起源と密接に関わっていると言う説もある、謎の多い伝承ですね」
「たしか…
するとマイヤーは、不思議な詩を、唄い始めた。
「われ、
赤らかに我が身の生を誇ろひ、見えたるほむらとあらたしを生まふ… 」
「アヌとキナの物語ね」
「その伝承が語り継がれている地域は、確か…、マスター・ウォールトンの故郷の近くだったと思いますが」
ミネルバが、ウォールトンの方に顔を向ける。
「…そうかもな」
ウォールトンはミネルバの言葉と、二人が話している、キナと言う響きから、美しかった懐かしい故郷の風景を思い出し、記憶の奥底に眠る、あの地域の事が蘇ってきた。
…そう言えば、故郷の山々に囲まれた森の奥深くに、オークと呼ばれていた地域があったな。
そこは山岳地帯の地下にあった、硬い岩盤が隆起し、長い歳月を掛け自然の浸食が進み、森になった地域。
そこに暮らすナガの人々は、山岳民族の歴史と伝統を延々と受け継ぎ、大気と、大地と、星を崇め、美しく輝く小さな天然の石を常に身に付けており、大きな巨樹の下に暮らしていた。
その巨樹付近をキナガと呼び、エキが命を与えたとされる伝承が残っている。
そして、その巨樹の周囲は、時折、大地が淡く光る、細かく砕けたクリスタルが点在していた。
しかし、俺は小さい頃から、あそこをキナガと共に、ムゥとも呼んでいた。
何故だ…
その時、
{ …
地下神殿の奥から、不思議な微振動が響き、ウォールトンの意識に入ってきた。
{ …
ゴゴゴゴゴ…
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