第13話 愛の向こう側

 フーリンはきた道を戻り、サーランが行ったであろうメジアを目指す。

 戦いに勝って、生き延びた。こんなに嬉しいと思ったのはいつぶりだろうか。どんな時も、任務を無事終えれてホッとする。その瞬間があるだけだった。

 ドラゴンに勝った。運命にも。

 ドラゴンを倒した時、僕も共に死ぬと覚悟した。しかし、今生きている。誰かに生かされているそんな気がした。

 左腕から滴る血を抑えながら、深淵の洞窟を通り過ぎた。

 もう少しで、下に降りれる。

 自分の顔がほころぶのがわかる。

 もうすぐサーランに合流して、共にメジアに行く。期待が膨らむ。

 今の心の中を表すかのように、目の前に光が差す。だんだん明るさが増していく。出口だ。

 下に降りて、メジアに繋がる道を進む。

 そのとき、自分の意思とは関係なしに、誰かが僕に未来を見せた。今起きていることを知らせるように。この道の先で誰かが倒れているそんな未来。

 嫌な予感。寒気が走る。

 まさか、、、。

 フーリンは走る。

 左腕の痛みが響くのも関係なしに、がむしゃらに走り続ける。

 フーリンは探す。サーランにまさかのことがあってはならない。

 「サー・・・・・・」

 名前を最後まで呼ぶことは出来なかった。

 その前に赤く染まって倒れ込んでいるサーランが目に飛び込んで来たから。

 フーリンは考えるよりも早く反射的に彼女の元へ駆け寄る。

 「サーラン!!!」

 サーランはまだ生きていた。

 しかし、生きているのが不思議なくらいであった。右手と左腕は引きちぎられ、内臓は抉られ、血は溢れんばかりに吹き出していた。

 フーリンはこの状態では人は生きられないということがわかった。時間がそんなにたっていないため、かろうじて生きられている状態だ。

 サーランの眼差しは、こんな状態でも眩しさを放つ。

 フーリンはサーランの手を握った。

 サーランは何かを言おうとしているが言葉が出ない。息が擦れてこちらに届く。もう、何かをする力は残されていなかった。

 サーランは目で訴える。光り輝く瞳で。

 フーリンにはサーランがなにを言おうとしているかが理解できた。心で通じ合えた気がした。

 フーリンはうなずく。握りしめる手をさらに強く。まだ。まだ。いかないで。

 けれど、サーランは全てをやりきったようなそんな顔をこちらに向ける。

 「メジアに」

 フーリンは涙をこぼしながら、訴える。

 「一緒にメジアに行くんじゃないのか」

 サーランはもう反応もできない。

 握った手がだんだんと冷たくなっていく。あの、明るくて、元気な美しい姿は、もう二度と見れない。

 でも、まだ伝えなくてはいけないことがある。サーランに応える。

 輝く瞳で伝えてくれた気持ちを。僕はしっかり言葉にして。

 「サーラン」

 この言葉を言うことで僕の身にどんなことが起きようとも構わない。

 「愛してる。サーラン」

 サーランはニコッと笑って、静かに目を閉じた。

 愛する人がこの世から消えたことにより、フーリンにも命の危機が迫る。

 次の瞬間、覇竜のオーラは暴走し、フーリンを飲み込み、心臓を止めた。

 フーリンはサーランの上にもたれかかるように倒れ、18年の生涯を閉じた。





          


          *


 「・・・・運命に抗えず、フーリンは死んだ」

 宏介は、自分のすべてを語り終えた。

 病室の窓の向こうで降る雨があの日を思い出させる。

 隣ですすり泣く声が聞こえた。

 サクラを見ると、目を真っ赤にさせて泣いている。

 「愛って、、、、すごいね、、、、」

 宏介はどうすればいいか反応に困っていると、サクラは手を握ってきた。

 「なんだよ」

 サクラに真意を問う。

 サクラは手を握ったまま離さないでいる。

 すると、この光景は昔にもあったようなそんな気がした。

 「なんか、、、」

 宏介はつぶやく。

 「なによ」

 「いや。なんでもない。前もこんな状況あったっけなぁって」

 「それ、サーランとの記憶じゃないの?」

 サクラは手を離し、微笑む。

 美月は変わらず反応がない。

 「美月は、サーランの生まれ変わりなんでしょ?」

 「そう」

 「宏介はフーリンの生まれ変わり」

 「そう。だけど言ったろ。前世の記憶すべて持ってるって」

 「それはつまり?」

 「神のお告げを破ったら、己の命が尽きるより恐ろしいことが起こる。それは、愛した者が死ぬことと、永劫的に前世の記憶が消えないことだったんだ。僕らは愛し合ってしまったから、サーランはあのとき死んだ」

 「・・・・・・」

 サクラは沈黙した。

 「そして、覇竜の戦士だった僕がなぜ討伐と同時に命が尽きなかったのかこのあと数百年後に知るんだ。覇竜の戦士が唯一生き残る方法。それは人を愛すること。愛する人がこの世に存在していること。つまり、もう僕らが出会ったあの時からどちらも生き残れる未来は存在していなかったんだ」

 「そんな、、、」

 「そういう運命だったんだ」

 宏介は一つ息を吸う。



 再び僕の人生が始まったのはそう遅くはなかった。

 「最初はイタリアの兵士だった」

 「生まれ変わり?また兵士?」

 「ああ。もう生まれた時から、僕の前世はフーリンだとわかった」

 サクラが率直に疑問を問う。

 「生まれ変わるって、一体どんな感覚なの?」

 宏介は思い出すように視線を天井に向ける。

 最初に浮かぶのは、やはり戦場。

 美月と会えるまで、何回生まれ変わっただろうか。

 「これから話すのは、美月と再び出会うまでの僕の話だ」



         第二章  

          完


 

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