第10.5話 自分の感情

 「めっちゃいいじゃん」

 サクラがとてもニヤニヤしている。

 「このあと恋に落ちるやつだね」

 「うん」

 「きゃー!!」

 サクラは1人ではしゃいでいる。

 「絶対なる流れだもんこれ」

 宏介はベッドの上にいる美月を見つめる。いまだに、何かに反応する様子はない。

 「2人は恋人なんだね。3000年前の」

 サクラも美月を見つめながらそう言った。

 「ああ」

 宏介は窓の外に視線を移す。先程まで晴れていた空は少し雲が多くなってきている。

 「ほんとはなんだろ、、、、、付き合ってないから、恋人と言えるのかな」

 「どういうことよ」

 「言っただろ。人を愛してはならないって神からのお告げがあったって」

 「そうか」

 「あのあと神は僕の頭の中に直接語りかけてきたんだ。私のお告げを破れば、未来透視の力は薄れ、己の命が尽きるより、恐ろしいことがソナタに起こるぞ」

 「神こわっ。怖すぎ」

 「でも、それで僕は逆に神に気づかされた。サーランを好きになっているんだって。自分の感情に気づいてしまった」

 サクラの動きが騒がしくなる。

 「で?で?そのあとは?」

 「特になにもないよ。お互いの気持ちに薄々気づきながらも、お告げがあるから。お互い声にして気持ちを伝えることはなかった。

 そのまま旅を続けて、山を超えたんだけど、サーランの目指すメジアという国はそこにはなかった」

 「ほら、未来透視は?それ使えば見えたんじゃないの?」

 「もう、その時には能力の薄れが始まってた。サーランが好きという感情が少しでもあったから。眠りから覚めた時には、僕がサーランの未来を見たという記憶ごとすべて、僕の記憶からすでに消えていた」

 「そんな、、、、」

 「それで、皮肉なことにメジアにサーランを送り届ける前にドラゴンの住む山に着いてしまった」

 窓から、微かに聞こえてくる雨音は、静かな病室に響き渡る。

 それはやがて大粒の雨となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る