第10話 友だち

 夜になり、辺りは魔界のように黒ずんでいる。

 1つのランプを頼りにゆっくりと進むと、大木の影に目を3つ持った魔物の群れと遭遇した。この世界では、ありふれたことであるから別に驚きはしない。

 「きゃぁっ」

 サーランは恐怖に怯える。

 フーリンは体に力を込め、覇竜のオーラを纏う。

 「必殺 神速-竜-」

 フーリンは神速のごとく魔物の前に移動。

 次の瞬間、魔物は一匹残らず、塵となって消えた。未来透視を使うまでもない。

 フーリンはオーラを解除する。

 「確かもう少し進めば、宿があったはずだ。今日はそこまで頑張ろう」

 サーランは今起こった一瞬の出来事に呆然としている。

 「フーリン様、、、ほんとに強いのね。見えなかった」

 「こんなの造作もない。早く先へ進もう」

 


 宿には無事到着し、食事にすることにした。

 フーリンが持ってきた非常食をサーランが調理し、あたたかいスープを作ってくれた。それと、彼女が持ってきたパンが今日の夜食だ。

 「ありがとう」

 サーランからスープとパンを受け取る。

 お腹の空いていたフーリンはスープを受け取りすぐすすった。

 「味、どう?」

 自分の味に自信がないような風に聞いてきた。

 「うまい。とても」

 「よかった。パンも食べてみてよ」

 「うん・・・・すごく美味しいなこれ。こんな食べ物があると早く知っておきたかった」

 「でしょでしょ。スープにつけるとまた美味しくなるよ」

 自然と会話が弾む。

 「ほんとうだ。スープにつけるとまた違った食感でとてもうまい」

 「よかった。喜んでもらえて」

 そのあとも会話は続き、20分ほどで食事は終えた。

 会話は続く。

 「フーリン様の話聞かせてよ」

 サーランは真剣な眼差しでこちらを見つめる。

 「僕のことかい?」

 なんと話し始めればよいかわからず、言葉が詰まる。

 「・・・・・・・・」

 すると、

 「私は、1人だった。さっきも言ったようにね」

 サーランが語り始めた。

 「この国は戦いが絶えないでしょ。昔から。人、魔物、相手関係なしに。そこで、両親、おじいちゃん、おばあちゃんみんな亡くなった。兄妹もみんな。私だけが生き残った。私が生きる道は奴隷しかなかった。やりたくもない仕事をやらされる毎日。ほんとにもう人生どうでいいって思えるくらいだったの」

 こういう話は、この時代よくある話だ。かわいそうだが、仕方がない。

 彼女は続ける。

 「そんな時、音楽に出会ったの。街に出て仕事をしている時、どこからともなく歌が聞こえたの」

 サーランの目が輝き始めた。

 「自分でもわからないけど、気づけば歌う人について行ってた。どこまでも。町を超えても。でも、いつまでも続きはしなかった。私が寝てる間にその人はいなくなっちゃって。それでも、私はめげなかった」

 声のトーンがワントーン上がったような気がした。

 「街の真ん中で歌ってみたの。見よう見真似で覚えた歌を。そしたら、小さな子供が歌ってるって物珍しさに人がどんどん人が寄ってきたの。そして、歌人の師匠に拾われたんだけど、その人もつい最近亡くなって。また、1人になった・・・・・・・・そして、今ってわけね」

 語り終えたサーランは眼差しをこちらに向ける。ほら次はあなたの番でしょという風に。

 「僕はなんでもない家庭に生まれたんだ」

 フーリンも自分が生きた18年間を語り始める。

 「ごく普通の兵士の家庭に生まれたが、兵士の家系であった僕は将来立派な兵士になるために、僅か5歳の時から戦いの極意を父親に叩き込まれた。

 戦いの訓練を父親としているある日、僕は覇竜のオーラの片鱗を見せた。父と剣を交わす最中、父が急にめまいがすると言って倒れ込んだんだ。その時は、ただ父が疲れているだけだろうと思っていた。

 しかし、日を重ねるごとに、5歳の僕には、覇竜のオーラは制御できないものとなった。ついに、父と相対するだけで、父は泡を吹いて倒れてしまうまでになった。

 その時にやっと、周りは気づいた。500年に一度生まれるかどうかの戦士が誕生してしまったんだと。そして、今、僕は伝説のドラゴン退治に向かっている」

 サーランは目をまんまるにしてをこちらを見ている。

 なぜかわからない。わからないけど今この場で言わなくてはならない気がして、フーリンは言い出す。

 「サーラン。聞いてほしいことがあるんだ」

 「なに?どうしたの?」

 「僕はこのドラゴン討伐で死ぬ」

 彼女の顔が少しひきつる。

 「伝説のドラゴンに傷をつけれるのは、覇竜のオーラを纏いし戦士だけ。つまり、僕だ。しかし、討伐できた時、同時に覇竜の戦士の命も尽きる。覇竜の戦士は昔からそういう運命だ。だから、ドラゴンとの決闘になる前に、君が行きたいという国に送り届けなければならない」

 あと、5日ほどでこの山は越えられるであろうか。山を超えて道を進めば、その国はあるとサーランは言っていた。

 「なにかあったら言ってくれ。聞きたいことでもなんでも。送り届ける前に」

 サーランは大きく頷く。

 「フーリン様はさ、恋をしたことってある?」

 「ないな」

 「へ〜」

 「僕は神に言われたんだ。人を愛してはならないって」

 「なにそれ」

 「僕は未来透視ができるんだ。その力を神から授かった。この力は、ドラゴン討伐に必要だ。でも、人は愛してはならぬってその時言われた」

 夜は更け込み、日付けが変わる。

 サーランは眠たそうに先程からあくびばかりしている。

 「もう一つだけ質問するね」

 「ああ」

 「今どうしてもほしいものってあったりするの?」

 フーリンはすっかり暗くなった空を見上げる。

 あるんだ。昔から変わらない。僕がずっと欲しかったもの。

 「友だち」

 「あんなに強いのに、いなかったの?」

 「10歳に初陣してから、戦い戦いで友を作る暇など僕にはなかった」

 今でも心の中に強く刻み込まれている出来事がある。

 あれは3年前、戦いに出陣する前に見た5歳くらいの子供たちが無邪気に遊ぶ姿だ。

 「僕はもう立派な兵士で子供たちの中に入ることはできないのに。友だちを作ろうとも思う暇なく生きてきて、友だちなんてほしいとも思わなかったのに。機会を失った今になって、どうしようもなく愛おしく、かけがえのないものに感じられた。僕も友だちが欲しかった、あんな風に遊びたかった、そんな思いがどっと溢れたんだ」

 子供たちは憧れのフーリンら兵士にむかって手を振ってくれた。しかし、フーリンはどうしてもぽっかり空いた心の隙間を埋めることが出来ず、笑顔で手を振りかえすことが出来なかった。

 「私がなるよ。フーリン様の友だちに!」

 サーランは太陽みたいな笑みを浮かべ、手を差し伸べてきた。

 「よろしくね!フーリン様!」

 流れるように、握手を交わす。

 「よろしく」

 

 そのとき、サーランは何か思いついたように突然声を上げた。

 「じゃ、記念に歌う!私とフーリン様が友だちになった記念に!私たちの歌を!」







 

 「ああ、どうして。何でだろ」

 頬が濡れている。

 同時に、あたたかさという名の扉は僕の心を埋め尽くした。

 清らかで美しいサーランの歌声とともに。


 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る