第8話 美しい少女
フーリンは死を恐れない。オーズの戦士の象徴的存在になった。
死んだらいつか生まれ変わる。巡り巡ってまたどこかに生まれる。終わりはない。だから、死を恐れるな。それが、オーズの先人たちの教えだ。
歴代何度もこの国をドラゴンは襲ってきた。その度に、覇竜のオーラを纏いし戦士が退治してきた。ドラゴンに傷をつけることができるのは覇竜の戦士だけ。しかし、討伐できたと同時に己の命も尽きる。それが、覇竜の戦士の運命だ。
フーリンもその一人。その運命にあろうとも国のために命を捧げる。それが、本当の戦士というものだ。
夜が明ける少し前に、旅の準備を進めている。
しかし、1つ頭に引っかかるものがある。あの日のこと。あの言葉の意味。
フーリンは思い出す。
「勇者フーリンよ、人を愛してはならぬ」
あの日のことは夢だったのか、現実だったのかは今でもわからない。
フーリンは水平線まで続く、海の上を歩いていた。誰かに導かれるように。
そのとき、目の前にこの世のものとは思えないほど光り輝く、神々しい、神が現れた。
その姿に圧倒されたフーリンは動くことさえできない。勇者であるのに。
「勇者よ。ソナタに力を授ける。未来を見据える力を」
神は身長10メートルはあるだろうか。フーリンを見下ろして神は言葉を重ねる。
「人を愛してはならぬ。生涯、神に誓って」
神は勇者に言葉を求める。
迷う理由は存在しない。未来を見れる。それは、戦いを有利に進めることができる力となる。
フーリンは誓う。
「生涯、人を愛さぬ。決して。神に誓う」
その瞬間、神は消えた。そして、勇者も気を失った。
目が覚めた時には、森の中だった。これが夢だったのかどうかは定かではないが。
旅の準備は終わり、あとは旅立つのみ。
外で音が聞こえた。馬車が家の前へ到着したようだ。
「勇者様」
王の家臣が今回の旅についての王からの伝言を伝えにきた。
「現王エーティスより、お言葉を預かって参りました」
「そうか。話してくれ」
「この国のために命を捧げること誠に感謝する。ソナタは本当の戦士だ。後世まで、語り継がれることになるだろう。
そこでだ。勇者が旅立つ際の儀式を行わないことにした。今回は準備ができ次第、旅立ってもらって構わない。そして、強戦士たちをサポートに付ける件もなしだ。申し訳ない。今、隣国のトルガがいつ攻め入ってきてもおかしくない状況にある。ほんとうにすまない」
「わかった」
王はフーリンが伝説のドラゴンとの戦いまでに体力を消耗させないために、強戦士を旅についていかせようとしていた。
しかし、この国の戦力を割くわけにはいかないとの判断のことだろう。
僕は大丈夫。この力で倒す。
この時にはもう未来を見れることができていた。
「儀式の件、戦士不在の件どちらも今の情勢が不安定であるための苦渋の決断だ。ソナタの名誉を侮辱するわけではない」
「十分承知した」
我がやるべきことは、伝説のドラゴン完全討伐。命をかけて戦い抜くまで。儀式がなくたって、戦士がいなくたって、やることは変わらない。
「しかし、歌人が旅のお供になるとのことです」
思わずフーリンはハッとする。
歌はこの国では最も大切にされている。歌人ともなれば、神に等しく大切になされているはずなのに。どうして。
これから死にいく勇者のお供など、聞いたことがない。
「なぜかはわかりませんが、自らがどうしてもとのことで、、、」
そのとき、馬車のドアが開いた。
なんとも美しい少女だった。
髪はサラリと伸びる黒髪に目鼻立ちがしっかりとしている。
「サーランと申します。あなたさまをお供させていただきます」
ふわりと微笑んだ顔は曇りに曇った周りの空気を明るく照らした。
「歳は18。勇者様と同じであるそうです」
刹那。
フーリンは、彼女との未来を見た。
この時はまだ、見れる未来も先長く、僕自身の未来も見ることができた。
「へー、神っていたんだ」
サクラが聞く。
「ああ。あれは夢だったかもしれないけど、現実にはいたよ」
宏介は答える。
病院は相変わらず静かなままだ。
「あの能力はすごかった。あのときまではね、、、」
「私も使ってみたい。未来見たい!!!」
サクラは無邪気に言う。
「・・・・音楽は歴史を繋ぐんだよ」
「え?」
「美月が僕にそう言ってきたんだ。昔、音楽が栄えた国があった。なにをするにも音楽。音楽で人を救うことさえできた。音楽って神様みたい。そんな国が昔あったんだよ。まるで、自分がその国で生きていたかのように話してきたんだ」
サクラが今日一番に驚いた顔でこちらを見つめる。
「美月がそんなこと言ってたの、、、?」
「もうちょっと話せばわかる」
「楽しみ!」
ほんとはちょっとじゃ語れない話だが。
「でさでさ!サーランってどんなだった?かわいかった?教えてよ!」
「ああ、そうだね。変わらないよ」
「え?」
目線はサクラから、ベッドの上の美月に移る。
「サーランは、美月の前世だ」
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