第二章 運命を超えて

第7話 勇者

 どこまでも続く緑の大地は目を見張るほど美しい。

 その真ん中に宮殿が聳え立つ。白いレンガ造りの城壁は2キロ以上にわたって囲まれている。

 オーズ屈指の無敵要塞だ。

 宮殿の中は、一階に非常に大きな礼拝堂が広がる。先に進むと右翼と左翼に分かれ、様々な部屋が並ぶ。中でも際立つのが、王の間だ。

 そこに、一人の青年が立ち入った。

 18歳。黄金に光り輝く髪色と、腕には赤い紋章。何層にも重なる防具が、彼の歩みによって、激しく揺れる。

 宮殿の中で働いていた、王の家臣やら、兵隊たちは彼の姿を見た途端、圧倒されていく。

 「なんなんだ。あのお方は。王にお呼ばれしたと聞くが、凄まじい覇竜のオーラ。これが、、、そうなのか、、、」

 みな、一瞬体が硬直するような感覚を覚える。強さがすべてのこの時代。その中で、凄まじい覇竜のオーラを纏える者は500年に一度生まれるかどうか。

 それが彼だ。

 兵士フーリンは王の前に来ると、ひざまずいた。

 王座に座るは、現王エーティス。歳は60ほど。彼は、若き頃、覇王のオーラを纏った伝説の戦士だった。今はそんな面影もなく、国の政治のための政務に追われているため、疲れきっている様子だ。

 「頭を上げよ」

 フーリンは頭を上げ、王と向き合う形になる。

 その顔つきは、まるで何かに立ち向かう死をも恐れない凛々しい勇者のようであった。

 久利宏介と、瓜二つの顔である。

 笛の音が鳴り響く。

 この国の音楽家たちが、オーズに昔から伝わる歌を演奏し始めた。

 オーズにおいて音楽は、戦いに勇者が出向く時、戦いに勝った時、時代の初めと終わりを告げる時。大事な節目とともに奏でられる重要なものである。


 覇竜のオーラを纏いし、時の勇者よ


 音楽に乗せて語られる。彼がなぜ勇者となり得るのかを。

 普通の兵士の家庭に生まれたのに関わらず、たった5歳にして、覇竜のオーラの片鱗を見せ、10歳にして、覇竜のオーラを完全に自分のものとし、数多の戦でも、圧倒的な勝利を積み重ねた。彼こそが、選ばれし勇者なのだ----------。

 歌が終わり、王の間に静寂が訪れる。

 「フーリン」

 王が力強く言葉を発する。

 「おまえに、この国を脅かす忌まわしき、伝説のドラゴンの討伐を命ずる」





 「うえ、マジ?」

 サクラは聞く。

 都内の赤十字病院。

 その病室で宏介は、自分と美月の壮大な物語を打ち明けている。

 「そう。僕はオーズの勇者フーリンだった」

 いきなり勇者なんてばかばかしいだろうが、ほんとの話。

 「信じれないだろ?現実と離れすぎてさ」

 「信じれるよ。信じるよ」

 サクラはこんなに人の話をすぐ信じるタイプだったろうか。

 「そう言うのなら、そうなんでしょ。信じるしかないでしょ」

 そうだ。サクラはそうだった。人の話をすぐ信じるタイプだった。小学生の頃から変わらない。色々な記憶が交錯している。

 「そう、、、か」

 「うん」

 サクラはベッドにいる美月に目を移す。

 その時、美月が一瞬微笑んだような気がした。気のせいだろうか。

 「美月と出会ったって、どこでよ」

 「待って。このあと出てくるから。急ぐなって」

 「早く聞きたい。まだなの?あとどれくらい?」

 こういうのも昔と変わらない。先を急ぎすぎるところ。

 「順を追って話すから。ここから大事なところ」

 「ふ〜ん。じゃあ、早く話して。伝説のドラゴン退治の続きの話」

 「命令されて、もちろんやるさ。死ぬのは怖くないし、僕は負けないと思っているからね。それには、宮殿中が大騒ぎさ。この国は救われる。やっと、あの恐怖から解放される、てね」

 「ヘ〜すごい自信じゃん。」

 「でも、王の言葉には続きがあったんだ」

 「続き?」

 宏介は答える。

 「ドラゴンを討伐できた時、同時に、勇者も死ぬことになるだろう。必ずな。そう言われた」

 祝福ムードの宮殿は一瞬にして、誰もいないかのように静まりかえった。

 

 




 

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