第5話 望んでいたこと

 朝7時。今日の目覚めはとても気持ちがよい。

 いつもならベッドから出るのも憂鬱なのに。

 けれど今日は、、、小学校の入学式当日のようなわくわく感が込み上げる。

 ベッドから出るよりも先にスマホを見る。

 いつもはないその行為が、美月にとってはとても新鮮なものだった。

 スマホのホーム画面に映る通知欄に宏介という名前があった。

 「おはよう。もう起きてる?」

 彼からの何気ないメッセージに朝からきゅんとなる。

 その上には、昨夜2時間以上も続いたやりとりが残る。

 鮮明に思い出される幸せだった時間。

 返事を打つ。

 「おはよう。起きてるよ」

 語尾にはまだ使い方に慣れない絵文字をつける。

 まもなく既読がつく。彼を感じて、また、きゅんとなる。

 「そうか。じゃぁ、またあとで。気をつけて、学校に来てよ」

 「うん!!!」

 今日もまた久利くんと学校で会える。話せる。

 とても幸せなことだ。

 

 いつもの道。

 今日は6月にしては意外と過ごしやすい気温。

 自転車のペダルはいつもより軽く感じる。

 はやく、はやく学校へ。

 この気持ちに自転車を漕ぐスピードは追いつけていない。

 止められない。

 通勤ラッシュで混み合う駅前を抜けて、傾斜の急な坂を登る。

 見えた。

 あと少し。坂を下るだけ。

 校門前の信号で止まる。

 今日も始まる。今までとは違う1日が。

 信号が青に変わる。

 それと同時に飛び出す。

 一瞬嫌な予感が頭をよぎった。

 「・・・・・・・」

 車がこちらに向かってくる。

 瞬時には理解できない。なんで。なにが起こるの。どうなるの。

 すべてを理解したときには、すでにもう遅かった。

 自転車と共に空中を舞う。

 死ぬ。

 あのときには、感じなかった恐怖感が襲う。

 遅れて、悲鳴も聞こえてきた。

 地面に打ちつけられる。

 いやだ。死にたくない。

 そんな思いも虚しく、意識が遠のく。

 言葉さえも出ない。体を動かそうとしても動かない。

 この世から消えること。望んでいたことだった。

 久利くんに恋するまで。

 それが、なんで今。

 なんで、今日叶うのだろうか。

 どうして。

 いやだ、、、いやだ、、、いやだ。

 視界が完全に消える。

 その直前、一瞬だけ

 

 彼の姿が見えたような気がした。

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