神域のダンジョン
俺達はアルパリス王国にある、神域の大森林に来ている。
カークヨムルド王国のサハン山のさらに北にあるアルパリス王国は、神殿の影響力の大きい国だそうだ。東部に広がる手つかずの広大な森林が、神の住む神域として崇められている。
まぁ、女神様はそこにはいないんだけどね。
そんな神域の中にあるダンジョンは、世界屈指の難度を誇るダンジョンらしく、S,Aランク冒険者パーティーでさえ、25階層へ到達するのが精一杯なのだという。
その難易度のせいもあるが、ダンジョンのある場所が神域内なので、冒険者だとAランク以上でないと入れない。
少し緊張しながら、神域の入口を守っている騎士にギルドカードを提示すると、あっさりと入ることができた。
森の中に整備されている道を10分程歩くと、ダンジョンの入口が見えてきた。ダンジョンのある場所が森の奥地じゃなくて良かった。
このダンジョンの最奥にノエルの体がある。そう思うと俺の体は自然と身震いしてしまう。
ダンジョンの入口に近づくと、ここにも騎士が立っていて目を光らせている。ご苦労様です。
特に止められることもなかったので、そのままダンジョン内に下りて行った。
遂にここまで来た。でも51階層まで先は長い、逸る気持ちはあるが初見だし慎重に行くか。そう思っていると、レイナが大鎌をもって姿を現した。
「カイト様たちの力を温存するため、ここは私にお任せを」
「そうか、じゃあお願いしようかな。マユもサンクチュアリを使うと疲れるだろうし、レイナなら倒したモンスターのコアを食べれば戦い続けられるもんな。倒したモンスターのコアは全部レイナにあげるよ」
「ありがとうございます」
ダンジョンに入って少し進むと、ジャイアントバットの群れがバサバサと羽ばたいて飛び掛かってきた。ちょっとびっくりしたけど、レイナの大鎌によって瞬く間に一掃された。
1階層からいきなりレベル50のモンスターの群れとは……。世界屈指の難度というだけの事はある。
このダンジョンは幾重にも道が分岐した複雑な構造だが、ノエルのナビで迷わず最短距離で進む。踏破部分の地図とかも売っていたけど、ノエルがいれば要らないよな。
順調に25階層まで到達。世間ではここが到達階層の一番深い階層だ。モンスターのレベルも100前後と強くなってきたが、まだまだレイナは余裕。この子強すぎるね。
「カイト様。ダンジョンに入ってから5時間経過しております。休憩と食事をとってください。この先はモンスターも強くなるでしょうし、体力を回復させておいた方がよろしいかと」
ノエルのナビで最短でここまで来たが、それでももうそんなに時間が経っていたのか。高いレベルのおかげか大して疲労感は無いが先はまだ長い。休んでおくか。
「確かにお腹空いてきたよな、休憩にしよう。レイナは大丈夫なの?」
「私には疲労はありません。コアさえ吸収していれば、戦い続けることができます。私の魔法で障壁を展開するのでこの中で休んでください」
おおっ、これは助かる。レイナの展開した障壁の中で、アイテムボックスからアウトドア用のテーブルセットと料理を取り出した。こんなこともあろうかと、レイナにたくさん料理を作ってもらい、アイテムボックスに収納しておいたのだ。
レアスキル“アイテムボックス”は中に入れた物の時間経過を遅くするので、できたてのまま持ち歩ける。便利だよなぁ。
お腹がいっぱいになったところでテーブルを片付けて出発しようとすると、マユがすり寄って甘えた声を出す。
「カイト成分も補給したいな」
うっ、可愛い。俺がマユを抱き寄せて軽くキスすると、今度はアイリが俺の腕を取って胸を押しつける。
「マユだけずるい! 私も……」
そうこうしていると、今度はクレアとフィリスも抱き着いてきた。
「私もカイト様成分が足りません!」
「私も忘れないでよ!」
みんなを順番に抱きしめキスをすると、彼女たちは満足そうな顔で微笑んでいる。
でも障壁の外ではレイナが頑張っているんだよな……、と少し後ろめたい気持ちになる。
レイナはそんな俺の心の内を察したのか、にっこり微笑む。
「皆さんの士気を上げる為にも必要な事です。私への気遣いは不要です」
そう言ってもらえると助かる。心身ともにリフレッシュした俺達はダンジョンの奥へと歩き始めた。
30階層。半人半魚のモンスター、サハギンLV114。三又の槍を巧みに操るこの魚人型モンスターは、水属性魔法も操りうまく攻守を組み立てている。レイナだけでは倒しきれなくなってきたが、みんなで戦えばまだまだ余裕だ。
45階層。いよいよ出現モンスターが強くなってきた。巨人型のモンスター、サージュトロルLV132。マユとアイリで遠距離から削り、とどめを俺、クレア、フィリス、レイナで手分けして処理した。
アイリが全方位に放つ誘導弾は、命中すると弾けてモンスターを転倒させるのでとても有用だ。上位の弓技は銃火器のようになるのはお約束だ。
49階層。2mはありそうな黒い犬型のモンスター、モーザドッグLV145。一体がそこそこ強い上に数も多い。
すべてを相手にしていたら消耗してしまう。ここは俺とレイナが先頭になって邪魔なモンスターを切り崩して、一気に駆け抜けた。
50階層の最奥に到達。赤い悪魔と青い悪魔が待ち構えていた。ノエル、あれがこのダンジョンのボスか?
「そう、双子の悪魔アーヴィルとイーヴィル。レベルはどちらも220。二体同時に倒さないと、延々と復活するよ」
二体の悪魔の瞳がギラッと光る。魔方陣がいたるところに出現し、そこから雑魚モンスターが大量に湧き出てきた。雑魚といってもLV100以上のヤツばかりなので地味に厄介だ。
マユに結界を張ってもらい抑えている間に、クレア、フィリス、アイリは神器の固有技を準備。一斉に固有技を放って湧き出るモンスターを一気に押し返す。ボスへの道筋が開いたところで、俺が単身突っ込む。
赤い方が炸裂する炎の魔弾を連射し、青い方は雷撃の魔法で狙い撃ってくる。
喰らってもダメージは無いが、もたもたしていると再び雑魚モンスターで溢れかえって、近づけなくなるだろう。全開の魔装術で加速して躱し、一気に距離を詰めた。
俺が赤い方を倒すから、レイナは青い方を倒して! 俺の心の声を受けて「承知致しました」とレイナが応える。
レイナは瞬間移動を繰り返し、一瞬で青い悪魔の後ろに回り込む。俺はその動きを波動で感じ取りながら、全力で魔剣ベイスティングを振るって赤い悪魔に斬りかかった。
それと同時にレイナの大鎌が青い悪魔に振り下ろされる。二体の悪魔の体は真っ二つになり、巨大なコアに変わった。
「ありがと、助かったよ。コアは二つともレイナにあげるよ」
「いえ、カイト様のお役に立てただけで私は満足です」
わずかに微笑んで一礼するレイナ。うーん、クールだ。
雑魚モンスターの湧き出る魔法陣も消え、あたりは静かになる。四人が俺の元へ駆け寄ってきた。
アイリが訝しげな視線を俺に向ける。
「カイトとレイナ、なんか妙に息が合ってたね?」
「え、そうかな? レイナが上手く合わせてせてくれたんだよ。レイナとは頭の中で会話できるし」
「「「「ふーん」」」」
マユ達四人が俺に疑いのこもったジト目を向ける。
「私は霊体であり、カイト様に身体を可愛がって頂くことはできません。また、私にそのような望みもありませんのでご安心を」
レイナがきっぱりと否定してくれたので、その場は収まったが、そんなにきっぱり否定されてもなんか傷つくな……。
と、まぁ、そんなことは些細な事だ。遂に念願の51階層に到達した。切り替えてノエルの復活に臨もう!
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