準備
翌日からはアルパリス王国に行く準備を始めた。ノエルに会えるかと思うと、自然と気合が入る。
まずはアイリに神聖魔法を習得してもらわないとな。
と言う訳で、やってきたのは、ティバンの森のダンジョン36階層。ここならアイリ一人の力でも安定して戦えるので、神弓タスラムを使ってモンスターを乱獲してもらうか。
手取り足取りの付きっきりで、神器の波動を感じられるように指導をした。先生スキルもあるし、すぐに出来るようになるだろう。
アイリは楽しそうにしていたが、他の三人からの視線はやや痛い。帰ってからきちんとフォローするとして、ここは我慢だ。
一日そうしていると、アイリも神聖魔法の波動を感じ取ることが出来るようになったので、ダンジョン帰りにアーリキタの街の中央神殿へ行って、神聖魔法を習得してきた。
これで明日からは、ティバンの森のダンジョン50階層に通ってレベル上げができるな。
* * *
――ティバンの森のダンジョン50階層。
登場するのは5mはある大きな牛型モンスターのアーズフムラLV87。突進攻撃は強烈だが、今更苦戦する相手ではない。軽くあしらいつつ進む。
この階層には隠し部屋が三つあり、そこには三つ首の魔獣マンティコアLV108、炎の魔人ヴェルザーガLV116、魔将野菜エビルパンプキンLV125が待ち構えている。どれも初めて戦った時はそれなりに苦戦したが、今となってはただのカモだ。
こいつら隠し部屋のモンスターも他のモンスターと同じく、倒しても翌日来ると復活している。便利だね。
魂のエネルギーはレベルが低い人の方に流れやすいようで、五人でいても一番レベルの低いアイリに多く流れているようだった。そのためアイリのレベルは順調に上がり、みんなと同じ程度までになった。俺だけはチートスキル天才のおかげで、みんなより頭一つ抜けてるのだが。
数日ティバンの森のダンジョン50階層に通ってレベル上げをした。
隠し部屋のモンスター三体の討伐が、思考停止で出来る作業と化したころ、ノエルの声が聞こえる。
「明日は51階層に進もうか」
ようやくかー。今まではノエルに51階層に行ってはいけないと、言われていたもんな。
「もう少し早く行っても良かったけど、念の為に余分にレベル上げしたよ」
それほどまでに強いモンスターがいるのか。楽しみだな。
* * *
初めての階層にワクワクしながら進む。
51階層に降りると、金色の鱗に覆われたドラゴンが横たわっていた。
「エイビスドラゴン、レベル195。カイトのアイギスの盾がギリ有効だよ。頑張って倒してね」
俺達に気が付いたドラゴンは、半身を起こして獰猛な眼光で威圧してきた。
おお、このプレッシャー! これは絶対強い奴だ!!
みんなに目配せすると、ハイハイと言わんばかりに頷いて下がり、マユが結界を展開してくれた。
よーし、楽しませてくれよ!
始めから全開で行っても良さそうだ。俺は魔装術を使用し地を蹴り突進する。
エイビスドラゴンは大きな口を開いたかと思ったらブレスを吐いた。とてつもない速さ! もう息というより閃光だ。直感に従い身を躱す。
激しいブレス攻撃を、縦横無尽に跳び回って避けながら間合いを詰め、神聖魔法を通わせた魔剣ベイルスティングを胴体めがけで思い切り振り下ろす。
ところがガキン! と俺の剣が止められてしまった。ピンポイントで障壁を発生させたのか。やるな。
エイビスドラゴンは近づいた俺に対して、腕を振って鋭い爪で斬りつけ、尻尾で薙ぎ払い、巨大な口で食らいつくという絶妙なコンビネーションで攻撃してきた。
俺は躱しきれず、爪を喰らってそのままダンジョンの壁に叩きつけられた。痛い。アイギスの盾が無ければ、大怪我していたな。
俺はお返しとばかりに、神聖魔法グロージャベリンを連射する。エイビスドラゴンの展開した障壁は、大きな体全てを覆うと、さっきみたいな強度は出せないようで、ところどころ亀裂が入った。
せっかくなので、さらに上位の神聖魔法ペネレイトグリームを連射した。いくつもの輝く柱が障壁を砕き貫通したが、さすがにこのレベルの魔法を連射すると疲れる。だが、エイビスドラゴンにダメージは通っているな。
よし、このまま押し切る! 魔剣ベイスティングを握る手に力が入る。
エイビスドラゴンも、このままおとなしくやられる気は無いらしく、雄叫びを上げ鼻先に魔力を集中させ始める。次の一撃で決めるつもりか。俺も全力で魔剣ベイスティングに神聖魔法を集中させた。
エイビスドラゴンは咆哮と共に、極限まで凝縮した魔力球を俺に撃ち込んだ。同時に、俺は真正面から魔剣ベイスティングを振り下ろす。神聖魔法がたっぷり込められた斬撃が撃ち出され、魔力球と衝突した。
響く轟音がダンジョン内を揺らす。直後、俺の放った神聖魔法の宿る斬撃が、魔力球ごとエイビスドラゴンを両断した。
「ふー、強かったー、疲れたー」
俺はその場にバタンと倒れ込んだ。
マユがセイグリッドヒールで、疲労を癒してくれたが、MPを消耗しすぎたらしく、軽く眩暈がする。
エイビスドラゴンが消えた後には、直径2mはある巨大なコアが残されていた。これは売らずにレイナにあげるか。コアに手を当てアイテムボックスに収納していると、ノエルの声が聞こえる。
「エイビスドラゴン討伐によって、全員のレベルが大きく上がったよ。カイトのレベルは184。マユ達は140前後まで上がったよ」
おおっ、かなり上がったな。頑張った甲斐があるというものだ。
突如、地響きと共に白く巨大な扉が現れた。再びノエルの声が聞こえる。
「ヘブンズゲート。この先は天界につながっていて、女神フォルトゥナがいるよ。今は行っても意味ないから、さっさと戻ろう」
確かにノエルが勝てないような相手と今の俺達が戦っても、勝てるはずないので家に帰るか。
* * *
屋敷に戻り、留守番をしてくれていたレイナに戦利品のコアを見せる。
「このような立派なコアをいただいてもよろしいのですか?」
「遠慮なく食べて。レイナにはいつも世話になっているからね」
レイナは一礼すると、エイビスドラゴンのコアに手を当てて吸収する。
コアを食べるってのは俺が勝手に言っているだけで、実際にコアをバリバリ咀嚼して飲み込むわけじゃない。レイナがコアの吸収を終えると、ノエルの声が聞こえる「レイナのレベルが158まで上がったよ」
158って、俺とあまり変わらないじゃないか。頼もしいな。
* * *
今日からは、レベル上げはもういいとノエルが言うので、次は封印を破るための魔法ディスペルの習得だな。
ノエルの体は非常に強力な術式で封印されているらしいので、四人同時に使う必要があるとのことだ。
まずは俺がノエルに教えてもらって習得し、四人には俺が教えた。先生スキルのおかげか四人とも一日で覚えることができた。
さて、次はAランク冒険者になるための昇級試験を受けなくては。冒険者ギルドで予約すれば随時対応してくれるらしい。
アルパリス王国の神域には、王族や上位貴族、高位の神官以外では、Aランク以上の冒険者じゃないと入れないとのこと。ついでにAランク冒険者だと色々優遇されるので、なっておいて損はないだろう。
受験料は一人1000万イェン。高額だが今の俺達ならたいしたことは無い。おそらく冷やかしで受けられないように受験料で篩に掛けているのだろう。
試験は冒険者ギルド指名のAランク冒険者が試験官となり一対一の試合をする。闘技場を貸し切って観客まで入るそうだ。
そして試験当日。俺達は会場となっている闘技場に出向いた。
試験官はAランク冒険者だし、受験者は当然Bランク冒険者だ。そのため受験者が勝つことは殆ど無い。戦いぶりを5人の審査官が評価して、過半数が合格と認めたら合格だ。
まずは俺の出番なので、闘技場の中央へ進む。試験官と向き合うと、得意げな顔で挑発をしてきた。
「お前のような色男が合格するような甘い試験じゃないんだ。とっとと帰って、家で女と抱き合って寝ていろ」
なんで昇級試験で対戦する試験官は、そういうことを言いがちなのかねぇ……。おそらくこいつはスタークと同等かやや弱い。楽しめそうにないな。
口喧嘩しても仕方ないので「お手柔らかに」と笑顔で流して会釈をしておいた。
『はじめ!』の合図とともにグロージャベリンをぶっ放すと、弾き飛ばされた試験官はあっけなく気絶してしまった。観客たちはざわついている。あれ、俺なんかやっちゃいました?
審査官席を見ると全員が合格の札を上げている。バラエティー番組みたいだな。
その後、マユ達四人とも試験官を圧倒し、審査官全員の合格を貰い余裕で合格した。
その場でAランク冒険者のギルドカードを貰って家に帰った。なんかキラキラしていて、レアカードみたいだ。
* * *
一通り準備は出来た。明日はついにアルパリス王国に出発する予定なのだが、その間屋敷を空けることになるので、ちょっと心配だよな。
俺達がアルパリス王国に行っている間、レイナにこの屋敷の留守番を頼むか。精霊でも一人は寂しかったりするのかな? などと考えていると、ノエルの声が聞こえる。
「敷地ごと屋敷をアイテムボックスにしまっておけば? 移動先で好きなところに屋敷を出せるよ」
「アイテムボックスは機能制限中で家を丸ごと入れるのは無理って言ってなかった?」
「カイトはたくさんレベルアップしたから、スキルポイントは12945たまっている。アイテムボックスの制限を解除できるよ」
「いつの間に……」
「アイテムボックスの制限を解除する?」
「ああ、頼む」
「機能制限を解除したから、好きなだけ物を入れられるようになったよ」
かなり凄いことだと思うが、サラッと言うな……。さすがノエル。
屋敷を丸ごとアイテムボックスに収納すると、元地縛霊であるレイナは屋敷に紐づけされているので、どうなるんだろうと思ったが、どうやら俺に紐づけされたようだ。そのせいで、レイナとも頭の中で話せるようになった。
レイナは霊体なので、自由に姿を消したり現したりできる。姿を消すと、俺の頭の中にノエルとレイナが同居しているみたいだ。触れたくても触れられない二人の女の子が俺の頭の中にいるなんて、なんか変な感じだ。
ともあれ、すべての準備は整った。翌日俺達はアルパリス王国へと出発したのだった。
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